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第36話:語り合い

 俺たちは一度、ルソン村のハイロード家の屋敷に戻って来た。 


「風呂で汚れを落として寝て起きたら、すぐに出発だ。それまで真っすぐ森を行くか、一度バイレーンの上を迂回するか決めないとな」


 ミアとリリムは頷き、それぞれ自室に下がった。

 まずは風呂に入り汚れを落とすか。

 俺は体を湯で流し、そのまま頭と体を洗い浴用を済ませる。

 元々逃げ回っていた頃から“風呂は頭と体を綺麗にする場所”の認識しかないし、これで十分だ。

 風呂から上がり俺はそのまま部屋着に着替えると、ベッドに潜り込んだ。


「さて……と」


 俺はリリムの言っていた事を思い出す。


『リリムにはどうしてもそうは思えません』


 あれはどういう意味だ? 俺が戦いのない世界に行きたいと言ったから、か? いや、それは違うな。

 じゃあなんだ?あの言葉の真意は何だ?


「エイジ。起きてますか?」


 ノックと共にミアが入って来た。


「ああ、起きてるよ」


「…ちょっとお話しませんか?」


「……分かった。ちょっと待ってくれ」


 俺はベッドから起き上がるとシーツを跳ね飛ばす。


「あ、お構いなく。そのままで大丈夫です」


 ミアが慌てて言う。俺はシーツをそのままにしてベッドを下りた。


「それで?何の話だ?」


 俺が聞くと、ミアは言いにくそうに口を開いた。


「その……わたくしはエイジの事を良く知りません。もしエイジが差しさわりなければ、エイジのことを詳しく聞きたいな、と思いまして…」


「俺のこと?」


 俺は首をひねった。

 確かに俺については執事さんたちがいる時に、さらっと話したきりだったな……


「ああ。別にいいよ」


「ありがとうございます、エイジ……」


 ミアは椅子に腰を下ろした。

 俺はベッドの縁に腰かける。


「……聞いていて気分のいいもんじゃないけど、いいか?」


 ミアはゆっくりと口を開いた。


「構いませんわ」


 うっすら目を閉じると、あの地獄の光景がフィードバックする。


「…もの心地ついた時には、もう戦いの訓練だったな。格闘術、重火器の使い方。あらゆる分野の戦闘訓練を朝から晩までさせられた。3人分の弁当を巡って10数人でガキ共で殺し合うとか日常茶飯事だった。誘拐してきた連続殺人犯やマフィアの用心棒とも殺し合いさせられたな」


「………」


 ミアが神妙な表情をしている。これでも表現抑えたつもりだったが……。


「あとは語学。あらゆる国の言葉を憶えさせられた」


「語学……。だからエイジはこの世界の言葉も話せるのですか?」


「……いや、それは違う。これはマーヤからもらった能力のようだ。その証拠にリリムも話せるだろう?」


「あ、そういえばそうですね。彼女は異世界の言葉をどうやって習得したのでしょう?」


 ミアが疑問を口にした。


「さあ? 俺も詳しくは聞いてない。彼女がこの世界に来たのは400年前だそうだ。400年もあれば言葉を学ぶ機会くらいあるだろう」


───結局ミアとは夜明け前まで話し合ったのだった。

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