翌朝。訝し気に俺たちを睨むリリムを後目に、バイレーン王国の下を突っ切るルートを選んだ。
やはり道なき道を進むより、比較的安全な方がいい。それに、バイレーンの貴族やら商人の馬車が残した
勇者が逃げ出したことでバイレーン王国を陥れた混乱も鎮火したし、まあ横切るくらいでは恨まれはしないだろう…と思いたい。
俺たちはバイレーンを抜け、東に位置するラミエル王国を目指す。
「リリム。ここからラミエル王国まではどれくらいだ?」
俺は御者席で地図とにらめっこしているリリムに聞く。
「……そうですね。このままペースで行けば4日ほどです」
「そうか……」
4日か……まあ、それくらいはかかるよな。
「でもエイジ。時間かかるのであれば大森林を突っ切っては?」
リリムは気軽に言うが、それが出来るなら最初からそうしてる。
いくら彼女が聖騎士とやらでも、俺の第一級ソルジャーには足元には及ばないだろうから。
「勘弁して下さいリリム。とにかくもう、あの森はご勘弁願いたいですわ」
バイレーンに入国する前に、ミアはげっそりした表情で言う。
「…あの森で何かあったのか?」
俺は思わずミアに聞いた。
「あの森が、魔物の巣なのはご存知ですよね?」
「ああ。リリムと一緒にゴブリンだったかに襲われた」
子供たちを助けたあとの、小学生のような体格の緑の小鬼ども。忘れもしない。
「それでですね。その、あの森は実は……」
ミアが言いづらそうに口を開く。
「オークや人狼などもいる、非常に危険な森なのです」
そうだったのか。ゴブリンだっけ?50匹ぐらいで襲いかかられても、別にどうってことないけどな。
てかあんなのしかいないなら、森を突っ切った方が早くないか?
あ、馬が襲われたら可哀想だしな…。
それにミアの態度から察するに、どうやらあの森にはいい思い出がないらしい。
馬にもある程度の防具を付けさせなきゃならないし、森は諦めるしかないか。
「よし。最初の予定通りバイレーンを突っ切るか」
俺はリリムとミアに言う。
「……そうですね。それがいいと思います」
問題なのはミアがアンデルシア公国の貴族の娘ということ。
いや、ハイロード家の家督を継いだ俺もやばいが。
「いや、お前さっきから何を悩んでいるんだ?」
俺がリリムに聞くと彼女は地図とにらめっこしながら、口を開いた。
「そもそもアンデルシアの貴族令嬢であるミアを連れた一行が、大手を振ってバイレーンの横切れるか?という疑問もあります」
「結局お前はどっちなんだよ。そろそろバイレーンも近い。早く決めないと…」
「危険度の低さはバイレーンです」
「じゃあバイレーンでいいだろう。突っかかってくるヤツがいたら、叩きのめしてやるだけだ」
俺はリリムに『これ以上の討論は結構だ』と暗に告げる。
「分かりました。ではバイレーンに行きましょう」
リリムがそう決断すると、馬車は速度を上げた。