ミアが登録書をバイレーンの門番に見せる。
言わば身分証明のようや役割を果たしているのだろう。
さすがにアンデルシアの貴族の娘であるミアには、バイレーンの人間もとやかく言えないのだろう。
「よし、通れ」
バイレーンの門番はそう言い、ミアとリリムに会釈した。
「案外緩いんだな?」
俺は座席に座るミアに言う。
「このくらい普通ですよ。ところでエイジ」
「ん?」
「服はどうにかしないのですか? まさかこれからもその格好のままですか?」
「このままでいい。鎧とか、かえって動きづらくなるだけだ」
ミアが唖然とした表情をしている。
「いえ、だってエイジ。貴方の戦闘能力は認めます。けど万が一ということも…」
「なあ、ミア」
俺は諭すように説明する。
「ここは警察に職務質問されることもなければ、アイランドの刺客もいないんだ。こういう格好をしてれば誰も俺だって分かるはずがない」
ミアは何のことかさっぱり、てな顔をしてるが。バイレーンの一般市民が俺に牙をむくのも考えづらいしな。
「そういえばミア。食料とかはどうしたんだ? アンデルシアとバイレーンの貨幣は同じなのか?」
「四つの国では純度の高い金貨はどこででも使えるんです」
へー…。
「じゃあ、金さえあれば困ることはないのか?」
「まあそうですね。でも金貨はバイレーンではあまり使いません。銀貨や銅貨の方がよく使われています」
なるほどな……。しかし、貨幣が統一されてなくても使えるなら、わざわざ両替する必要もないし、楽でいいよな。
そんな他愛のない話をしながら馬車を進ませていると……
「エイジ。なるべく壁伝いに移動しますね」
リリムが御者席のエイジに言う。
「ん? なんでだ?」
「バイレーンの人間がアンデルシアの人間にあまりいい印象を持っているとは思えません。壁伝いに移動した方が安全です」
「なるほど……」
まあ、確かに……。何かこう、途上国を見下してる発展国、みたいな空気はヒシヒシと感じるな。
別にここの兵士が何百人かかってこようと怖くはないが、無用なトラブルは避けたい。
俺たちは馬車を壁の近くへ寄せ、ゆっくりと走らせた。
「なあ、ミア。ラミエルに腕のいい鍛冶職人はいるか?」
俺は後ろを振り向いて聞く。
「鍛冶? ええ、いますよ。ラミエルには人間の他に、エルフやドワーフもいます。ドワーフに腕のいい鍛冶職人がいるはずです」
ミアはコクンと頷いた。エルフとかドワーフとか、ゲームなどには興味ないので本当に名前程度しか知らないが。
「その職人に作ってほしい物があるんだけど……」
「それは構いませんが……何です?」
俺はミアに耳打ちした。
「弾丸だよ。リリムが使う」