「はい」
リリムは頷く。
俺たちは馬車をラミエルの宿の前に止めると、馬の世話は宿御者に任せて宿の中に入った。
中は結構広くて清潔感がある。とりあえず泊まる部屋の交渉をしにカウンターに行ったら……。
「ご予約はされてますでしょうか?」
受付の若い女が俺たちを見て言う。どうやらここの従業員らしい。
「いや? してないが……」
俺が言うと女性は少し困った表情をした。
「ご予約をされないとなると、追加料金が発生しますが……」
ほう……。
「おいくらです?」
ミアが言うと受付の女性は紙に金額を書いて提示する。なるほど、3人で一泊21万ルーンか……。
これが高いのか安いのかは、この世界の住民ではない俺には分からないが……。
「分りました。では3人分の宿賃を先に払っておきますわね」
ミアは空間倉庫から金貨の入った巾着袋を出して、カウンターに置いた。
21万ルーン払っても、まだ100万ルーン以上余裕がある。
やはり貴族のご令嬢なだけあって、金は持っているんだな。
「…なあリリム。あの金貨、どう見ても金だよな?」
「はい。原子番号79番。原子量196.966569の金です。しかも極めて純度が高いです」
こっそりスキャン結果を報告するリリムだった。
「ありがとうございます」
受付の女性が金貨を巾着袋にしまい込む。
「ではご案内しますね」
女性はカウンターから出てきて、俺たちを先導する。
俺たちは女性に案内された部屋に入った。
「ではごゆっくり」
そう言って女性はドアを閉める。
俺はベッドに腰掛けてため息をついた。
「疲れたか?」
とリリムに聞いたが……。
「……いいえ?別に……」
とリリムは答える。
「まあ、そうか……」
ミア、リリムと別れると俺もまたベッドに寝転んだ。
リリムとミアが泊まる部屋も同じ作りらしいので、あの2人は今頃ゆっくりしてるのだろう。
明日は武器作り、そしてこのラミエルに逃げた勇者を見つけ出して殺すか…。
俺の意識はゆっくりとフェードアウトした。
◇◆◇◆◇◆◇
「んっ……?」
俺は目を開けて伸びをする。外は既に明るい。どうやらもう昼近いらしいな。
「おはようございます、エイジ。入ってよろしいですか?」
「ああ、おはよう……。構わない」
この世界に来てから、本当にぐっすりと寝られる日が続いている。
アイランドからの刺客を気にしなくていいのだから、それも当然か。
「失礼致します」
ドアが開くと、既に外出着に着替えたミアが部屋に入ってきた。
「お出かけか?」
俺が聞くとミアは頷く。
「ええ。エイジの仰っていた武器の注文をしようと思います。エイジはどうします?」
「そうだな……」
少し考えた後、答えた。
「俺も行く」
「分かりました」
俺はベッドから出て服を着替える。リリムは起きて外で待機していた。
3人で宿を出て、通りをしばらく歩くと一軒の鍛冶屋を見つけた。
「いらっしゃい」
ドアを開けて中に入ると、カウンターに中年の男が座っていた。
「今日はどのようなご用件で?」
男が俺たちを見て聞いた。やはり髭を蓄えた背の低いずんぐりむっくりなおっさんだ。耳が尖っているのも特徴の一つか。