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第42話:勇者とエンカウント

「何でしょう?」


 ミアが返事をすると男の一人が言う。


「なああんた。今暇なのかい?俺たちと遊ばねえか?奢ってやるからさ」


「ええ。いいですけど、何して?」


 ミアは承諾しそうになったので俺は慌てた。


(馬鹿野郎! 何勝手に決めてやがる!)


 俺が慌てると男の一人が言う。


「何だお前……見ねえ顔だな」


「それがどうした?」


 俺は言い返したが男たちは嘲笑うように言った。


「ふんっ、どうせその女もお前も冒険者だろう?なら金はあるんだろう?だったら俺たちに譲れよ。その女と遊びてえんだよ」


「断る」


 俺が言うと男たちは剣を抜いて俺に向けた。


「じゃあ、死ね!」


 斬りかかる剣を、俺は真剣白刃取りの要領で受け止めた。そして……。


「はあっ!」


 男の腹に蹴りを入れて吹っ飛ばす。

 男は数メートル吹っ飛び地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


「この野郎……!」


 するともう一人の男が俺に斬りかかってくる。俺はそれを避けた。


「はっ!」


 俺は男の腹に拳を叩き込むと男は地面に倒れた。


「ぐほっ……!」


 そのまま気絶したようだ。


「ふん……」


 俺は鼻で笑ってからミアに言う。


「お前……馬鹿か?」


 するとミアは少しムッとした表情になったが、すぐに笑顔になって言った。


「いえ? わたくしは自分の判断に従っただけですわ」


「……まあいいや」


 とりあえずこいつらは衛兵にでも突き出しておくとしよう。そう考えた時、後ろから声が聞こえた。


「一体なんだって?」


「速水くんが話あるから。今手の空いてる奴は全員来てくれってさ」


(!?)


 間違いない…進学校ぽい制服…。こいつら勇者だ。


◇◆◇◆◇◆◇


 兵藤ら4人が、森でエイジに殺された日。いや、厳密には兵藤をやったのは別の人間だが───

バイレーンから逃げ伸びた勇者たちは、ラミエルのある都市の酒場に集合していた。その数ざっと15人。


「一体どうなってるの?」


 集合をかけた速水美樹彦を、ロングへアを某格ゲーヒロインのように両方でシニヨンにまとめた少女、姫崎春香は睨みつける。


 遡ること30分ほど前───

 春香は退屈していた。この世界に召喚されて約半年、この世界で『拳聖』のギフト――を授かってから、初めて蹴りで生き物を殺してから、色々な生物を蹴り殺してきた。ゴブリンやオークなどの人型の魔物から、野盗や不埒な男などの犯罪者まで、あらゆる物を右と左の両脚で叩き伏せてきた春香だった。

 が、元々殺人衝動が強い彼女は、自分より弱き者を殺しても何の衝動も無かった。

 空手や拳法などあるゆる徒手空拳を使いこなし、勇者能力で生み出した特殊な蹴りは尋常ではない破壊力を誇る。しかし近接戦闘に於いては召喚された勇者でも最強クラスの能力を持つ春香は、自身の能力に辟易していた。幼い頃から鍛錬してきた技術を使うことも無く、身体強化と蹴りだけで殆どのモノを生卵を角にぶつけるように蹴り潰してきたからである。


「もっと強いヤツと戦いたい…」


 今も路地裏で不逞の輩を蹴り殺し靴についた血糊を拭き取りながら、そう呟く春香を背後から襲おうとしている男がいた。


ドンッ!


 何かがぶつかったような衝撃音と共に、男の胸からはドクドクと血が溢れだす。

男はそのまま声も立てずにその場に倒れた。



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