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第43話:勇者とエンカウント・2

「めんごめんご、春香ー、大丈夫ー?」


 建物の屋根からピョンと飛び春香の側に着地した少女、吉村よしむら純菜じゅんなの手には光る弓が握られていた。


「大丈夫ー? じゃないわよ純菜。余計なことを…」


「またまたー。油断大敵って言うでしょ? 春香だから大丈夫って保証ないし」


 愛は春香とは幼馴染の間柄で、ショートカットの茶髪に童顔、可愛らしいといった印象の少女だが、その顔に似合わぬ春香よりもさらに大きな胸は、常に周囲の男の視線を集めていた。


「……まあいいわ。それよりここら辺は粗方終わったわ。それにしても、ラミエルもヘンな男ばっかし」


『弓射手』のギフト――


 光る弓と矢を思念で生み出し、高い射撃能力と威力を誇る。効果が同じような魔法もあるが、愛のそれは、威力、射程、連射、追尾能力と全てに於いて魔法を凌駕する。また、春香の蹴りと同様、魔力を必要としないので、『魔法防御結界アンチマジックフィールド』や魔法防御の障壁では防げない特性を持つ。

 まるで朝起きて顔を洗う感覚でヤクザ者や不埒な男共を殺して回る2人に、窓の隙間から外を窺うラミエルの住民達は、畏怖の眼差しを向けていた。


「あっ! こんなとこにいた! 2人共、速水クンがみんな集めてるよ? 角の酒場に集合してくれって」


「水瀬さん。例の謎の男のせいでバイレーンを逃げ出す事になった件? 何かわかったの?」


「わかんない。でも多分そうじゃないかな? 結構真剣な顔してたよ、速水クン」


「「?」」


――『酒場アントン』――


 ラミエルにある大衆酒場。その角の一番大きなテーブルには、先程までラミエルでの不定の輩の討伐にあたっていた私と純菜と、バイレーン王都に在住、または王宮内にいたクラスメイトが集められた。中には滅多にこういった集まりに参加しないような者もいる。

 クラスの面々がテーブルに着席するのを、西城由美先生は部屋の隅で眺めていた。

 担任の西城先生がこういう場にいるのは珍しい。担任教師のくせに、召喚されてからずっと、皆から距離をとって後宮に引き籠ってなにやら調べ物をしていたらしい。副担の近藤はここにはいないが、好き勝手にやってるみたいだ。ホントに教師なの? まあウザイこと言って仕切ってくるよりマシだけど。


「みんな、集まってくれてすまない」


 上座席に座った速水美樹彦が、頃合いを見て声を張り上げた。

速水美樹彦は某男性アイドルグループのセンターに似ていて、成績優秀、運動神経も抜群で、実家も金持ち。絵に描いたような完璧超人系イケメンだ。にも拘わらず、それを鼻にかけずに誰にでも分け隔てなく優しく、男女共に人気がある。召喚されてからは、まとまりのなかったクラスのリーダーシップを取ってなんとかまとめている。


「まず結論から言おう。皆に『バイレーンから逃げろ』と指示を出した理由。長谷部、兵藤も死んだ。川面もあの調子じゃ長く持たないだろう。どんなポーションもダメだったし」


 ……兵藤までが死んだとは。そう言えば、確かにいない。いや、あんな底辺工業高のリーダー、いない方が清々するけど。長谷部もだ。いつもバイレーン王都で俺TUEEEEして偉そうにしてる兵藤や真正のロリコンな長谷部は、ウチのクラスの女子からは距離を置かれている。王宮の侍女や、貴族の娘なんかに手を出しまくっていて女子からはオタク男子よかすこぶる評判が悪い。

 その女狂いの兵藤が『勇者』なんてチートスキルを持ってるもんだからタチが悪い。私たちを召喚した女神サーラは何を考えているのか。

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