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第44話:勇者とエンカウント・3

「マジかよ…」


「兵藤が死ぬとか、自分で手首でも切ったか?」


 速水が言葉を濁しながら言い淀む。随分煮え切らない態度を取るわね、春香は思った。


「そ、それは…」


「はっきり言え」


 クラスの強面、新庄しんじょう可夢偉かむいが静かに突っ込む。風呂上り? 自慢のリーゼントが今は濡れて髪が下りている。


「殺された……かもしれない」


「「「殺されたっ!?」」」


 全員驚愕の声を上げる。


「殺されたって……誰に?」


 西城由美先生が速水に聞く。先生は、このクラスでは数少ない常識人だ。


「……わからない。でも心当たりはある」


「心当たり? どういう事なの?」


「いや、その……」


 速水は口籠るが、しかし意を決したように口を開いた。


「……実は兵藤が、バイレーン王都に侵入したヤツを討つって出ていったんだ…」


「え!? あの馬鹿が!?」


「それでも兵藤なら問題ない、って思ってた。でもいつまでも戻らないので使いの者を出したら…そこに兵藤の死体が転がっていた、との事だった」


「……それで兵藤は何処に?」


「共同墓地に埋めてきた」


 ……あの馬鹿。勇者のくせに勝手に行動して死ぬなんて。

 春香は内心舌打ちする。


「でもさ、そんなヤツらなら速水クンや私たちで余裕でしょ?」


「そうそう、皆でとり囲んでなんでボコればいいじゃん。なんで逃げなきゃいけないの?」


「その事なんだけど……」


 速水は言いにくそうに口籠る。そして意を決したように口を開いた。


「実はその……兵藤を殺したヤツ、多分だけど『勇者殺し』だ」


「……え? それって……」


「ああ、サーラ様の言ってた、女神マーヤの手下だろう。そいつが兵藤を殺した可能性が高い」


「そんな! じゃあ私たちも危ないじゃない!」


 担任教師の西城が叫ぶように言った。


「いえ、まだ大丈夫だと思います。『悪辣な勇者』から始末しているようなので」


「でも、でも……」


 全員に安心感はない。悪辣の限りを尽くしてる自覚のある生徒も多いのだ。


「あのー…ウチもひょっとしてマズイ?」


 そういったのは『魅了チャーム』のギフトで男でも女でも片っ端から、奴隷商に売りさばいている樋口奈々だった。


「ああ、樋口さんも本当に気をつけた方がいい。やってる事からして『勇者殺し』に目をつけられてもおかしくない」


「うっわ、怖いなー……」


 そこで速水は言葉を区切った。一瞬の静寂。そして意を決したように口を開いた。


「……これは提案なんだが……皆でこのラミエルで暮らさないか?」


「はあ?それどういう事よ!?」


 純菜がテーブルを叩いて立ち上がった。皆がビクっとする。


「いや、だから……その『勇者殺し』が、いや『女神マーヤ』の勢力がどれほどかはわからない。だけど俺たちを始末するつもりなら、多分1人残らず葬り去るだろう」


「そんな……」


「だからこのラミエルで暮らすんだ。幸いここはバイレーン王国との国境付近だ。亜人もたくさんいて、身を隠すには丁度いい。国境を越えればヤツらは追ってこない」


(すでに入ってるんだよな…なるほど、現在15名か)


 離れた席でこの会話を聞いている者がいた。いうまでもなくエイジとミアである。


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