「マジかよ…」
「兵藤が死ぬとか、自分で手首でも切ったか?」
速水が言葉を濁しながら言い淀む。随分煮え切らない態度を取るわね、春香は思った。
「そ、それは…」
「はっきり言え」
クラスの強面、
「殺された……かもしれない」
「「「殺されたっ!?」」」
全員驚愕の声を上げる。
「殺されたって……誰に?」
西城由美先生が速水に聞く。先生は、このクラスでは数少ない常識人だ。
「……わからない。でも心当たりはある」
「心当たり? どういう事なの?」
「いや、その……」
速水は口籠るが、しかし意を決したように口を開いた。
「……実は兵藤が、バイレーン王都に侵入したヤツを討つって出ていったんだ…」
「え!? あの馬鹿が!?」
「それでも兵藤なら問題ない、って思ってた。でもいつまでも戻らないので使いの者を出したら…そこに兵藤の死体が転がっていた、との事だった」
「……それで兵藤は何処に?」
「共同墓地に埋めてきた」
……あの馬鹿。勇者のくせに勝手に行動して死ぬなんて。
春香は内心舌打ちする。
「でもさ、そんなヤツらなら速水クンや私たちで余裕でしょ?」
「そうそう、皆でとり囲んでなんでボコればいいじゃん。なんで逃げなきゃいけないの?」
「その事なんだけど……」
速水は言いにくそうに口籠る。そして意を決したように口を開いた。
「実はその……兵藤を殺したヤツ、多分だけど『勇者殺し』だ」
「……え? それって……」
「ああ、サーラ様の言ってた、女神マーヤの手下だろう。そいつが兵藤を殺した可能性が高い」
「そんな! じゃあ私たちも危ないじゃない!」
担任教師の西城が叫ぶように言った。
「いえ、まだ大丈夫だと思います。『悪辣な勇者』から始末しているようなので」
「でも、でも……」
全員に安心感はない。悪辣の限りを尽くしてる自覚のある生徒も多いのだ。
「あのー…ウチもひょっとしてマズイ?」
そういったのは『
「ああ、樋口さんも本当に気をつけた方がいい。やってる事からして『勇者殺し』に目をつけられてもおかしくない」
「うっわ、怖いなー……」
そこで速水は言葉を区切った。一瞬の静寂。そして意を決したように口を開いた。
「……これは提案なんだが……皆でこのラミエルで暮らさないか?」
「はあ?それどういう事よ!?」
純菜がテーブルを叩いて立ち上がった。皆がビクっとする。
「いや、だから……その『勇者殺し』が、いや『女神マーヤ』の勢力がどれほどかはわからない。だけど俺たちを始末するつもりなら、多分1人残らず葬り去るだろう」
「そんな……」
「だからこのラミエルで暮らすんだ。幸いここはバイレーン王国との国境付近だ。亜人もたくさんいて、身を隠すには丁度いい。国境を越えればヤツらは追ってこない」
(すでに入ってるんだよな…なるほど、現在15名か)
離れた席でこの会話を聞いている者がいた。いうまでもなくエイジとミアである。