「ふ~ん……どうします? エイジ」
ミアが聞いてくる。当然、聞かれたらヤバいので小声だ。
「そうだな。勇者がこれだけいるんだ。一気に打ち取りたいが…」
店や他のに迷惑をかけたくないのが本音だ。
そんなことをしたらこの世界で迷惑をかけまくってる勇者共と、何も変わらない。
「確かにそうですけど……」
ミアは不満気に唇を尖らせた。どうやらミアはここで一気にカタを付けたかったらしい。
「今は連中の顔を良く憶えておくんだ。但しあまりチラチラ見るなよ」
「それでは席を変えません? ここではどうしても不自然になりますわ」
ミアの提案は一理ある。
「そうだな…じゃあ席を変えるか」
エイジは、少し離れたテーブルから2つほど離れたテーブルに席を移す事にした。
(よし、ここなら目立たないな)
「すいません、隣いいですか?」
俺とミアが腰を下ろしたそのテーブルには3人の『勇者』達が座っていた。
一人目は身長155㎝くらいのロングヘアーの美少女だ。
(血のニオイがする…持っている剣をロクに手入れしてないな、この女…)
会話を聞いていると、どうやら剣道部に所属していたらしく、鋭い目つきが印象的だ。
名前は…高宮というのか。
2人目は身長170cmくらいの、いかにもスポーツマンといった体付きの男。
(こいつはダメだな……)
3人目は身長180cmくらい。細マッチョで、髪を逆立てている男だ。
名前は西城正樹。
この2人を見て、エイジはそう判断した。
「あのー……」
その美少女の勇者が話しかけてきたので俺は内心驚いたが、それを表情に出さずに答えた。
「はい?」
「あのさあ……。何? こっちをチロチロ見て。何か言いたい事でもあるの?」
チ…横目で見てたのがバレたか。
「なんでもありませんよ。血のニオイが凄いから横を見たらそちらさんだった。単にそれだけです」
俺の言葉に、高宮という少女はカチンをきたらしい。乱暴に席を立った。
「なんだ、その言い方は!? 食料が無かったからそこらの牛や豚を狩った、それの何が悪いんだ!」
……ああ。やっぱりそうか。俺は今確信した。コイツらは『勇者』なんかじゃないと。
恐らくだが、召喚されたばかりの俺と同じで、生きる気力もなく惰性でこの異世界に留まっている連中だ。そうに違いない。ならば遠慮する事はないな。
「騒ぐなら店を出ようぜ。迷惑がかかる」
ここで喧嘩始めて他の勇者に感づかれる訳にもいかないしな。
「……上等」
高宮という少女は剣を持って、ゆっくりと俺とミアの後をついてきた。
「おいこずえ、どうしたんよ? そいつらが何かしたんか?」
「喧嘩なら俺らも加勢すんぜ」
一緒にいた男2人が慌てておっかけてきた。なるほど。下の名前はこずえというのか。最もどうでもいいが。
こずえという女が指差したのは、『勇者』ではなく俺だった。
「……こいつらにからまれた」
「ふーん……お前ら俺らとこずえになんの用じゃ?」
西城正樹ともう一人の男も加勢に加わる。どうやら1対3のようだ。