目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第47話:顔を記憶

「エイジ! 大丈夫!?」


 ミアが駆け寄ってくる。裏路地だけあり、どうやら今の騒ぎは見られていなかったようだ。


「ああ……この通り大丈夫だ」


 俺が手で無事を示すと、ミアはホッとした顔をした。


「よかった……」


 勿論これで一連の『勇者』騒動は終わりではないだろう。ただ、さっきの15人から3を引いて、残り12…。12人か……。


「……とりあえず、他の勇者の顔も覚えておこう。下手に街に散らばったら面倒だ」


「そうですね……では」


 ミアが俺に右手を差し出してくる。どうやら俺にエスコートしてほしいらしい。俺はその手をガッチリ摑んだ。


「じゃあ、行くか!」


「はい!」


 再びあの店に戻りたいが…3人が戻ってこないことにリーダー格はさすがに不振に思っているだろう。

 ここは出入り口を観察出来る場所から、連中が店から出るまで待った方が良さそうだ。

 俺とミアは入り口を見渡せる物陰に身を潜めた。

 しかしさっきの3人もだが、サーラの呼んだ勇者どもはクズばかりだな。他人の事を考えない自己中心的な奴が多すぎる。


(いや……逆か)


 そもそも他人様の牛や馬を殺すような世界だ。平和ボケした日本の高校生が刺激を求めてそうなるのも、無理はないのかも知れない。


「エイジ」


 俺が考え事をしていると、ミアが話しかけてきた。


「……ん?」


「あの『勇者』達は、みんなあんな風なんですか?」


ミアが不安そうに聞いてきた。


「さあな」と俺は肩をすくめた。


「……ただ少なくとも女神サーラが召喚したのは、あんなのばっかりだな」


「そうですか……」


 さすがにミアもショックを受けているらしい。そりゃそうだろう。この世界で勇者は国を救ってくれる存在だったろうからな…。それがこの国の罪もない人に平気で迷惑かけまくってるんだ。


(実際俺も心苦しいんだよな)


 正直悪党とはいえ高校ぐらいのガキ共を殺すのだ。なんとなくだが、マーヤが俺を刺客に選んだ理由が理解出来た気がした。


「…ミア。少し下がれ」


 会議を終えたのだろう。店からガキ共がゾロゾロと出てきた。


「さて……改めてじっくり拝見といくか」


 俺は物陰から、ガキ共の面相を確認する事にした。


「エイジ」


 後ろから声をかけられ、一瞬ギョッとする。声の主はリリムだった。


「リリムか。お前もこの勇者どもの顔を拝みに来たのか?」


「はい。……それとエイジが少々心配になり……」


「心配とは俺も見くびられたな。まあ丁度いい。今勇者どもがあの店から出てきたところだ。リリムも顔を憶えておけ」


 リリムが頷いていたので、俺はそのまま勇者どもに視線を移す。


「リリムの記憶力は完璧です。一度見たら記憶出来ます」


「相変わらず凄いな」


俺は素直に感心した。


「ではエイジも記憶してください」


「ああ」


 リリムの言う通りだ。この勇者どもはいずれ俺の敵になる連中だ。今のうちに顔を覚えておいて損はない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?