「エイジ! 大丈夫!?」
ミアが駆け寄ってくる。裏路地だけあり、どうやら今の騒ぎは見られていなかったようだ。
「ああ……この通り大丈夫だ」
俺が手で無事を示すと、ミアはホッとした顔をした。
「よかった……」
勿論これで一連の『勇者』騒動は終わりではないだろう。ただ、さっきの15人から3を引いて、残り12…。12人か……。
「……とりあえず、他の勇者の顔も覚えておこう。下手に街に散らばったら面倒だ」
「そうですね……では」
ミアが俺に右手を差し出してくる。どうやら俺にエスコートしてほしいらしい。俺はその手をガッチリ摑んだ。
「じゃあ、行くか!」
「はい!」
再びあの店に戻りたいが…3人が戻ってこないことにリーダー格はさすがに不振に思っているだろう。
ここは出入り口を観察出来る場所から、連中が店から出るまで待った方が良さそうだ。
俺とミアは入り口を見渡せる物陰に身を潜めた。
しかしさっきの3人もだが、サーラの呼んだ勇者どもはクズばかりだな。他人の事を考えない自己中心的な奴が多すぎる。
(いや……逆か)
そもそも他人様の牛や馬を殺すような世界だ。平和ボケした日本の高校生が刺激を求めてそうなるのも、無理はないのかも知れない。
「エイジ」
俺が考え事をしていると、ミアが話しかけてきた。
「……ん?」
「あの『勇者』達は、みんなあんな風なんですか?」
ミアが不安そうに聞いてきた。
「さあな」と俺は肩をすくめた。
「……ただ少なくとも女神サーラが召喚したのは、あんなのばっかりだな」
「そうですか……」
さすがにミアもショックを受けているらしい。そりゃそうだろう。この世界で勇者は国を救ってくれる存在だったろうからな…。それがこの国の罪もない人に平気で迷惑かけまくってるんだ。
(実際俺も心苦しいんだよな)
正直悪党とはいえ高校ぐらいのガキ共を殺すのだ。なんとなくだが、マーヤが俺を刺客に選んだ理由が理解出来た気がした。
「…ミア。少し下がれ」
会議を終えたのだろう。店からガキ共がゾロゾロと出てきた。
「さて……改めてじっくり拝見といくか」
俺は物陰から、ガキ共の面相を確認する事にした。
「エイジ」
後ろから声をかけられ、一瞬ギョッとする。声の主はリリムだった。
「リリムか。お前もこの勇者どもの顔を拝みに来たのか?」
「はい。……それとエイジが少々心配になり……」
「心配とは俺も見くびられたな。まあ丁度いい。今勇者どもがあの店から出てきたところだ。リリムも顔を憶えておけ」
リリムが頷いていたので、俺はそのまま勇者どもに視線を移す。
「リリムの記憶力は完璧です。一度見たら記憶出来ます」
「相変わらず凄いな」
俺は素直に感心した。
「ではエイジも記憶してください」
「ああ」
リリムの言う通りだ。この勇者どもはいずれ俺の敵になる連中だ。今のうちに顔を覚えておいて損はない。