よく見るとそのナイフは普通の物とは違い、刀身がかなり湾曲している。
「この形状だと普通の剣より威力も低いですけど、振り回すのに適しているんですよね」
リリムはそう言うとまた笑顔を見せる。なるほどな。確かに普通のナイフよりも軽そうだし振りやすいかもしれない。俺も試しに手にしてみたが……やっぱり普通のナイフとは違うな。でも確かに軽くて振りやすく感じた。
「ところでミアは?」
ミアはラミエルの地図を見て、何かを探している様子だった。俺はリリムに尋ねる。
「えっと……何をしていたんだろう?」
リリムが首を傾げて不思議そうに言うので、俺も同じく首を傾げてしまった。すると突然彼女は声を上げる。
「あっ! ありました!」
彼女は俺の方に向き直って言った。俺は彼女の指差した方向を見るとそこには大きな屋敷があった。どうやらこの街で一番大きい建物らしい。
「なーるほど。勇者が潜伏先にしてそうな場所だな……?」
思わず俺が疑問を口にすると、彼女は答える。
「はい。ここはこの街で最も高い位置にある邸宅です」
「そうなのか」
俺はその言葉を聞きながら屋敷の方をもう一度見た。
「勇者がそこにいるとして……どうやって中に入るつもりなんだ?」
「それはもちろん正面から入りますよ?」
ミアが真顔で答えたので思わず吹き出しそうになった。冗談のつもりで言ったんだけどな……。まあいいか。とにかく行ってみるしかないだろう。俺達はその大きな屋敷に向かって歩き出した。しばらく歩くと目的地である大きな屋敷が見えてきた。
その大きさに圧倒されながらも入り口まで来るとそこには門番らしき兵士が立っていた。倒して入ってもいいが、門番に罪はない。俺は兵士に聞いてみた。
「この屋敷に住んでる人はいますか?」
兵士は少し考えるような仕草をした後に言った。
「あぁいるぞ。だがお前のような何者とも分からない人間にこれ以上語ることはない」
俺はそれを聞いて頭を下げる。そして立ち去ろうとした時だった。ふと視界に入った屋敷の窓が開いていることに気づく。あの中には勇者がいるはずだ。……あの窓しかないか。
そう思った俺は窓に向かって跳躍する。俺の身体能力があれば簡単に飛び越えられる高さだった。そしてそのまま中へ入る。俺は室内に入ると辺りを見回した。しかし人の気配はないようだ。
(誰もいないか……?)
ほっと胸を撫で下ろすと、俺は立ち上がり部屋の中を見てみる事にする。
(まずは勇者を探さないとな……)
そう思いながら歩き出した時だった。突如背後に気配を感じ振り返る。そこには黒装束に身を包んだ男がいた。顔は隠しているため表情は見えないが殺気を感じる。
(チッ!?)
俺は咄嵯に身構えると同時に、男も腰からナイフを抜く。その瞬間目の前にいた男が襲いかかってきた。速い!!
だが動きは単調だ。攻撃を避けると同時に反撃に出た俺の手刀が男の首筋に当たる。鈍い音とともに崩れ落ちる音が聞こえた。倒れた男の顔を見るとまだ若い少年だった。明らかな日本人だ。