翌日、エンジェリア達は、管理者の拠点を訪れた。
「……フォルいない」
管理者の拠点へ行けばすぐにでもフォルと会える。エンジェリアは、そう思っていたため、フォルをきょろきょろと探す。
「いない」
「そんな顔されてると、時間が経つにつれてどうなるかって、ちょっと興味出てくるんだけど」
「いたの」
フォルが来て、エンジェリアは、喜んで抱きついた。
「寂しかったのー。フォルすりすりらぶ」
「うん。ごめん。昨日帰れなくて。それと、来てくれてありがと。君と会えるのは、嬉しいんだ」
「ぷみゅぅ。エレもエレも。フォルと一緒嬉しい。らぶ。だいすき」
エンジェリアは、フォルの胸に顔を擦り寄せた。
「そういえば、エレ、君に会いたいって言う人がいるんだけど、会ってくれる? 」
「ぷみゅ。会ってあげるの。すぐにでも会ってあげるの」
「ありがとうございます。エレ様」
そう言って、クルカムが、壁から出てきた。
「クームなの。ひさ……って覚えてない気がする。エレが会ったのって、ちっちゃかったから」
「小さくないです。会った事があっても、こうして話した事はほとんどありませんよ。エレ様が逃げまくっていたではないですか」
「それは、クームがエレをお勉強に誘ってくるからなの。だからエレは逃げまくっていたの。エレとお勉強は、一緒にしちゃいけないものなんだよ? ちゃんと覚えてないと」
エンジェリアは、エクルーカムに拾われた回があり、その回の時、クルカムとも会った事がある。
何も知らないが、勉強好きという事だけは知っている。毎回毎回、エンジェリアを見つける度、笑顔で勉強に誘うクルカムに、エンジェリアは、苦手意識を持っていた。
「勉強は、やった方が良いですよ。知識が多い方が何かと得します」
「それはエレには恩恵ないの。エレは、なんにも知らない方が良いって、ゼロとフォルが言ってるの。計算だけはできるようになれとは言われるけど」
「計算できねぇと騙されんだろ」
「うん。だから計算だけはって思いはするけど、この子にどれだけ教えても覚えないんだよね。魔法学や調合学とかはすぐに覚えてくれるのに」
クルカムが、こくこくと頷いている。エンジェリアは、声に出さず、しゃぁーの口をした。
「それより、ここへ呼んだ用件なの。エレは暇じゃないんだから……って言っておけば、お勉強も免れたりしないかな」
「どこまで勉強嫌なんですか。それについては、ぼくから話します。フォル様に色々と教えていただいた中で、入手した情報です」
クルカムが真剣な表情でそう言うと、エンジェリアは、驚きのポーズをとった。
「ゆ、優秀なの。これは、エレとゼロにライバル出現の予感。新管理者、ゆくゆくは、新ギュゼルになるのはエレとゼロなの! 譲らないの! 」
エンジェリアは、自分の居場所を守るため、クルカムを威嚇する。
「この子、エクランダの皇帝だよ? 今はエクーが変わってるけど。だから、この子がどれだけ優秀だからと言って、管理者にはならないから」
「えっ⁉︎ 」
「ふぇ? 」
なぜか驚くクルカムに、エンジェリアは、きょとんと首を傾げた。
クルカムが、エクランダの皇帝であるという事は、エンジェリアも知っている。そもそも、当の本人がそれで驚く事があるとは思えない。
エンジェリアは、理解できず、ゼーシェリオンを見た。
ゼーシェリオンも理解できていないようで、ふるふると首を横に振った。
「あの、フォル様、師匠から何も聞いていないのですか? 」
「何が? 最近はこっちの事が忙しかったのと、管理者は休暇中だから、話なんて何もしてないよ? 」
「もし、ぼくが望むなら、好きにすれば良いと。エクランダの事は、ある筋を使って、魔法機械を皇帝代わりにするとおっしゃっておりました」
実際に使っている国は、アスティディアくらいだろう。人と見分けがつかない、人型魔法機械。その魔法機械で、国を治めるのは。
魔法機械であれば、人のように感情に流される事がないため、国にとって一番最適解を常に選ぶ。だが、人のような感情がないという事が果たして良いのか。そんな事が、魔法具技師協会では、度々議論されている。
「クーム、それを実現できる技術者ってだぁれ? 」
エンジェリアは、その議論よりも、そっちが気になる。
この魔法機械は、いまだに、アスティディアでしか実現していないのは、議論の件もあるが、そもそも、そんなものを作れる技術者がいない。
エンジェリアは、それができる技術者に興味津々だ。
「……エレ様。エレ様なら喜んでやってくれるだろう。とか言ってました」
「ふみゅ。ぷみゅ……ノヴェにぃに渡した設計図で良い? 」
エンジェリアは、かつて、直接ノーヴェイズと会って話す事はなかったが、互いに素性を明かさず、一技術者として、魔法具設計師として、連絡魔法具の通話だけだが、話した事がある。
エンジェリアは、その時、同じ魔法具設計師が悩んでいると知り、ある魔法機械の設計図を贈った。それが、現在アスティディアにある、国を治める魔法機械だ。
「でも、設計図だけだから。エレは、こんな知識ない」
魔法機械を作るだけであれば問題ない。問題は設定だ。
その魔法機械は、国の事を良く知らなければ、設定ができない。エンジェリアは、その辺は詳しくない。
「それで良いです。頼めますか? 」
「ロストに、新品のその魔法機械あるの。お話通すのはやっておくから、自分で取り行って。あのさむさむさんを体験するのも、きっと良い体験だったって思えるの」
「なら、ついでに、ロストの状況を調べてきてよ。情報収集も仕事に入っているから」
エンジェリアは、こくこくと頷いた。ロストは、寒いが、クルカムに一度は行って欲しい国だ。
「ふぇ? そういえば、フォルは良いの? クームが、管理者になるって」
「まぁ、本人がそうしたいなら。試験はさせてもらうけど。そろそろ、戦闘員も欲しいからね。それに、報告書ちゃんと書いて……優秀な人材欲しいから」
他が優秀でないというわけではないだろう。ある一分野に関してだけいえば、優秀だ。報告書がこないなど、フォルにとって必要な部分がこなせてない事について言っているのだろう。
エンジェリアは、クルカムをじっと見つめる。
「ふみゅ。クームなら、ちゃんとできそうなの。で、でも、そうしたら、エレとゼロの枠がなくなっちゃう」
「なくなんないよ。大丈夫だから」
「……みゅ。信じないの。でも、そんな事より、本題に入るの。ゼロがイヴィと遊び始めてる……イヴィで遊び始めてる」
エンジェリアが、ゼーシェリオンを見ると、ゼーシェリオンが、イヴィの髪で遊んでいる。話に入れず、暇になっていたんだろう。
「フォル様、本当にぼくが話してもよろしいんですか? 」
「うん。君がその情報を手に入れてくれたんだ。君が直接話た方が早い」
「分かりました。では、話します。エクランダの領土内で、魔の森があるのですが、そこに、黄金蝶がいました。その黄金蝶が、海の世界の座標はと言いながら、どこかへ行ってしまいました」
エンジェリアは、海の世界というのがどこか知らない。だが、フォルは、知っているだろう。
「フォル」
「一箇所だけ心当たりがある。今すぐには行けそうにないけど。どっかのお姫様が泳げないから」
フォルがエンジェリアの方を見てそう言った。エンジェリアは、泳ぐ事ができない。
「ふみゅ。エレがお留守番するしかないかもしれないの。寂しいけど、寂しけど、それが、良いのかも」
「エレを留守番にしたら、誰があの子を探すの? 君の勘を頼りに探そうと思っていただけど」
「ふみゅ。それなら、エレは必須なの。でも、エレは泳げないの……ふみゅぅ」
どうすれば良いのか分からず、エンジェリアは、「うーん」と言いながら、首を傾げた。
「誰かが引っ張るのが一番早いんじゃない? 人魚の尾があれば良かったけど、この前のあれで全部破れてた」
管理者の拠点の襲撃の事だろう。そんなところにまで被害が出ていたようだ。
「なんで、そんなのまで」
「君をそこへ近づけないため? この前から、君を妨害する神獣がいるみたいだからね」
「ふみゅ。なら……でも」
「一緒に行くよ。置いておくなんてできないから。何日もかかるかもしれないんだから」
留守番じゃなくて良い。それに安心して、エンジェリアは、ゼーシェリオンに抱きついた。
「夢じゃないの」
「君を置いていくと、一日中泣いてそう。寂しいって。最近一緒にいられる時間少なかったから」
「フォルがいないなら、ずっと寂しいって言っているの。エレ、寂しいやなの」
昨日は会えず、エンジェリアは、フォル恋しくなっていた。また何日も会えないのは、エンジェリアにとって、ただの苦行だ。
「一緒にいるから安心して。今日はもう、ずっと一緒にいて良いから。それと、君が望むなら、僕の癒し要因としてここにおいてあげる。管理者としてね」
「ぷみゅぅ。置いてもらうの。エレはフォルのペットなんだから」
エンジェリアは、ゼーシェリオンから離れて、フォルに抱きついた。
「うん。ペットじゃないから。エレはとりあえず部屋に置いておいて、イヴィ、ゼロが教えられるから、書庫の整理しておいて」
「承りました」
フォルが、そう言って、エンジェリアを抱っこし、部屋へ向かった。
「ふみゅ。エレ、ピュオねぇ連れてくべきだと思うの……すぴゃぁ」
「ピュオか。良いけど、ノヴェとデートとか予定ないかな? 」
「……聞いておくの」
エンジェリアは、ローシェジェラを連れ戻すのに、ピュオがいると、良いようになると感じた。
その理由までは分からないが、その直感を信じてみる。