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7話 溶岩の世界


 ローシェジェラを止める方法。エンジェリアは、その方法をフォルに言った。


「神獣の王になんの権限もない。確かに、それを出せば、王関連で裏切り者とされた子は、何かしらの援助を受けられるようにするだろうね。でも、それで、止められるとは思えない」


「ふみゅ。そこからは、エレの出番なの。神獣の王と同等の権限をエレは与えられてるんだから。エレが愛姫って言えば良いの」


 愛姫という存在の価値。エンジェリアは、それを利用する方法を思いついた。


 持っているものは全て武器になる。かつて、エンジェリアは、ゼーシェリオンに、そう教わった。エンジェリアは、ゼーシェリオンを見て、撫でるのを要求した。


 その要求が通ったのか、ゼーシェリオンが、エンジェリアの頭を撫でる。


「あとは、みんなに任せるの。得意でしょ? 物騒な事笑顔で言えるんだから」


 エンジェリアは、真顔でそう言った。


「えっと、姫」


「うん。否定はしないよ。何度も仕事でそういうのはやってるから。慣れてるね」


「……エレ、俺は仲間違う。そんなのした記憶ない」


「俺様もんな記憶……ねぇなぁ」


 エンジェリアが、記憶にある面々の半数が否定する。エンジェリアは、否定したゼーシェリオンと、アディ、ついでに、困っているイヴィを、順番に見た。


「エレ、その、これってオレも」


「ゼムは入ってないの。ゼムは、そういうタイプじゃないから。ゼムだけは入れてないの。ピュオねぇも入ってないよ」


 エンジェリアの記憶では、ゼムレーグだけは、その記憶がない。


 一人だけ不安そうにしていたゼムレーグを安心させようと、笑顔でそう言った。


「とりあえず、そういう事なの。そういう事だから、エレの事を守りつつ……ふみゅ。もう一個思いついちゃったの。ゼロ」


 エンジェリアは、ゼーシェリオンにだけ、その思いついた内容を耳打ちで教えた。


「……ピュオねぇ、ロジェと仲良くなりたい? 」


「うん。もちろんだよ」


「なら、ピュオねぇは、ロジェ仲良しになりたいで。これ一番重要だから。俺らが、止められたとしても、もう戻ってこないって可能性だってあるんだ。ピュオねぇは、ロジェを連れ戻す大事な役割だ」


 ゼーシェリオンが、エンジェリアの思いついた内容を、ピュオに伝えた。


「ふみゅ。フォル、お次はどこなの? 」


「時間ないから行こうか。場所はいけば分かるから」


 フォルが、笑顔でそう言って、転移魔法を使った。


      **********


 目の前が赤い。気温が高い。目の前には溶岩。明らかに危険な場所だ。


「……ここ」


「来た事あるのか? 」


「ない。ないけど……」


 まるで、滅んだ世界の一つのよう。エンジェリアは、そう言いかけた。


 今思えば、先ほどの世界もそうだ。


 ここは炎。先ほどの世界は、水。


「……ロジェを探そう」


 エンジェリアは、この事に関して深く考えないように、ローシェジェラを探すという目的だけを考えるようにした。


「それにしても暑いの」


「俺も」


「ゼロは、魔法でどうにかできるよ。オレもやってるから。魔法の体温調整くらい、教えたよ? 」


「……ゼムやって」


 ゼーシェリオンが、ゼムレーグに甘えている。普段から、甘える事はあったが、魔法を代わりに使って欲しいと言う事はない。


 エンジェリアがぼーっとしていた間に、ゼーシェリオンとゼムレーグの間に何かあったのだろう。


「フォル、エレもやって欲しいの」


 エンジェリアは、フォルに頼った。


「良いよ」


 フォルに、体温を調整してもらい、エンジェリアは、この世界でも、涼しくいられるようになった。


「ロジェどこいるのかな? フォル、ここで探すものはなんなの? 見つけるの大変? 簡単? 」


「他と比べれば簡単かな。探す手間がないだけ。でも、場所が分かっていても、面倒だから、そこまで簡単とは言えないのかな」


「ふみゅ。そうなの? なら、ここに滞在してる時間は短いかもなの。早く探さないと」


 海の世界は、探す時間があったからこそ、会う事ができた。だが、この世界では、それは期待できない。


「落ち着いて。ここで取らないといけないものは、最低でも一時間はかかるから」


「そうなの? じゃあ、ゆっくりでも大丈夫? エレは急ぐの苦手だよ? 」


「うん。大丈……あれって」


 遠くに、巨大な鳥類のような魔物が見える。他の場所では見た事がないような、姿をしている。


「誰かいるの! 急ぐの」


 エンジェリアは、魔物の側に人がいる事に気づき、走って、魔物の方へ向かった。


      **********


「ロジェ」


 魔物の側にいたのは、ローシェジェラだ。浄化魔法が効かず、苦戦していたのだろう。


「本当に懲りもせず」


「……」


 エンジェリアは、魔物を見て、ある事を感じ取った。それは、あってはならない事。エンジェリア以外は感じ取れないであろう事だ。


「……」


「エレ」


「……なんで、エレの……愛姫の力が感じるの? エレは、こんな魔物さんなんて生み出してないのに。エレの知らないところで、エレの力を利用されるのは、だめなの」


 この魔物に浄化魔法が効かないのは、当然の事。この魔物は、愛姫だけが持つ力により生み出された生物。エンジェリアの身近なところで言えば、りゅりゅがそれに当たる。


 エンジェリアは、目の前の魔物を生み出した存在に、僅かにだが怒りを覚えた。


「……エレ、落ち着きな」


「ふぇ」


 フォルが、エンジェリアを抱き寄せた。


「こーおーれー。こーおーれー」


「ゼロ、自分やってますふうだけど、やってるのオレだから」


「応援。俺の大好きなゼム見れるから」


 ゼーシェリオンは、ゼムレーグが魔法が好きで、見れるチャンス到来と思っているのか、嬉しそうに応援している。


 エンジェリアは、その姿を見て、くすくすと笑った。


「ぷみゅぅ」


 魔物が凍り、ゼーシェリオンが、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。


 エンジェリアは、怒りが消え、ゼーシェリオン面白いという感情だけになった。


「……一応、礼は言っておく」


「ふみゃ。にゃむにゃむ。みゃなの」


「えっ? 」


「じゃなくて、逃さないの。連れ戻すの。エレは、愛姫なんだから、神獣さん達より偉いの……フォル、これなんか違う気がする」


 エンジェリアは、ローシェジェラを引き止めるため、咄嗟に言ったが、途中で、おかしいと思い始めた。


「うん。可愛いよ」


 だが、フォルに聞いても、笑顔で、そう言われるだけ。


「……そんな嘘までつかせて」


「どうして嘘なの? 」


「愛姫は、神獣達と一緒にいる。そんな事も知らないなんてね」


 愛姫と名乗れるのは、一人だけ。だが、ローシェジェラの言葉は嘘ではない。嘘であれば、フォルが気づくだろう。


「嘘なんかじゃねぇよ。エレは、正真正銘愛姫だ。エレ以外に愛姫はいない」


「そうですね。我々の大事な愛姫様は、彼女だけです。それ以外などあり得ません」


「ゼロ、イヴィ、エレ以外にいるいないじゃなくて、エレが愛姫なんだっていうなの」


「そんなわけ」


「ふきゃん⁉︎ 」


 突然、エンジェリアの立っている地面が崩れた。


 地下は運良くマグマはない。


「ふきゅぅ……癒しフォルを呼ばないと」


 大怪我はしなかったが、足を挫いた。


「エレ、落ちるって気づいた瞬間浮遊魔法使いなよ」


 フォルが、上から降りてきた。エンジェリアは、フォルを見て、瞳に涙を溜めて、抱きついた。


「痛いの」


「ほんとに世話のかかる子。エレって、僕らがいないと何もできないよね」


「ふみゅ。だから、フォルにお世話してもらうの。エレが何もできないと、みんな離れられないってなるから、一緒にいてくれるの」


 エンジェリアは、フォルに癒し魔法を使ってもらった。足の痛みが消えたが、自分で立つ前に、フォルに抱っこされた。


「……これ……エレ、みんなを呼んで」


「みゅ」


 ――エレなの。エレは、降りてきて欲しいって思うの。みんな、エレのお願い聞いてくれるって信じてるの。でも、届かなかったら我慢するの。


 エンジェリアは、ゼーシェリオン達に呼びかけた。


「エレ、あれがロジェが欲しがっていたもの」


 赤い光を放つ宝石。


「きれい。他もこんなにきれいなの? 」


「うん。宝石がほとんどだから。欲しいなら一つ取っても良いよ? って、君は魔法石派か」


「ふみゅ。これは使えそうなの。これなら、前のあの海の宝石と合わせて……ふみゅ。使えそうなの」


 エンジェリアは、宝石に宿る魔力を視て、魔法具に使えると思い、使い方を考える。


「それにしても、みんな遅いね。ピュオがいるから、安全な道探しているのかな」


「ふみゅ。そうだと思うの。エレは、この間に、調査調査なの。もっと、魔法具に使えそうなものがありそうだから」

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