ローシェジェラを止める方法。エンジェリアは、その方法をフォルに言った。
「神獣の王になんの権限もない。確かに、それを出せば、王関連で裏切り者とされた子は、何かしらの援助を受けられるようにするだろうね。でも、それで、止められるとは思えない」
「ふみゅ。そこからは、エレの出番なの。神獣の王と同等の権限をエレは与えられてるんだから。エレが愛姫って言えば良いの」
愛姫という存在の価値。エンジェリアは、それを利用する方法を思いついた。
持っているものは全て武器になる。かつて、エンジェリアは、ゼーシェリオンに、そう教わった。エンジェリアは、ゼーシェリオンを見て、撫でるのを要求した。
その要求が通ったのか、ゼーシェリオンが、エンジェリアの頭を撫でる。
「あとは、みんなに任せるの。得意でしょ? 物騒な事笑顔で言えるんだから」
エンジェリアは、真顔でそう言った。
「えっと、姫」
「うん。否定はしないよ。何度も仕事でそういうのはやってるから。慣れてるね」
「……エレ、俺は仲間違う。そんなのした記憶ない」
「俺様もんな記憶……ねぇなぁ」
エンジェリアが、記憶にある面々の半数が否定する。エンジェリアは、否定したゼーシェリオンと、アディ、ついでに、困っているイヴィを、順番に見た。
「エレ、その、これってオレも」
「ゼムは入ってないの。ゼムは、そういうタイプじゃないから。ゼムだけは入れてないの。ピュオねぇも入ってないよ」
エンジェリアの記憶では、ゼムレーグだけは、その記憶がない。
一人だけ不安そうにしていたゼムレーグを安心させようと、笑顔でそう言った。
「とりあえず、そういう事なの。そういう事だから、エレの事を守りつつ……ふみゅ。もう一個思いついちゃったの。ゼロ」
エンジェリアは、ゼーシェリオンにだけ、その思いついた内容を耳打ちで教えた。
「……ピュオねぇ、ロジェと仲良くなりたい? 」
「うん。もちろんだよ」
「なら、ピュオねぇは、ロジェ仲良しになりたいで。これ一番重要だから。俺らが、止められたとしても、もう戻ってこないって可能性だってあるんだ。ピュオねぇは、ロジェを連れ戻す大事な役割だ」
ゼーシェリオンが、エンジェリアの思いついた内容を、ピュオに伝えた。
「ふみゅ。フォル、お次はどこなの? 」
「時間ないから行こうか。場所はいけば分かるから」
フォルが、笑顔でそう言って、転移魔法を使った。
**********
目の前が赤い。気温が高い。目の前には溶岩。明らかに危険な場所だ。
「……ここ」
「来た事あるのか? 」
「ない。ないけど……」
まるで、滅んだ世界の一つのよう。エンジェリアは、そう言いかけた。
今思えば、先ほどの世界もそうだ。
ここは炎。先ほどの世界は、水。
「……ロジェを探そう」
エンジェリアは、この事に関して深く考えないように、ローシェジェラを探すという目的だけを考えるようにした。
「それにしても暑いの」
「俺も」
「ゼロは、魔法でどうにかできるよ。オレもやってるから。魔法の体温調整くらい、教えたよ? 」
「……ゼムやって」
ゼーシェリオンが、ゼムレーグに甘えている。普段から、甘える事はあったが、魔法を代わりに使って欲しいと言う事はない。
エンジェリアがぼーっとしていた間に、ゼーシェリオンとゼムレーグの間に何かあったのだろう。
「フォル、エレもやって欲しいの」
エンジェリアは、フォルに頼った。
「良いよ」
フォルに、体温を調整してもらい、エンジェリアは、この世界でも、涼しくいられるようになった。
「ロジェどこいるのかな? フォル、ここで探すものはなんなの? 見つけるの大変? 簡単? 」
「他と比べれば簡単かな。探す手間がないだけ。でも、場所が分かっていても、面倒だから、そこまで簡単とは言えないのかな」
「ふみゅ。そうなの? なら、ここに滞在してる時間は短いかもなの。早く探さないと」
海の世界は、探す時間があったからこそ、会う事ができた。だが、この世界では、それは期待できない。
「落ち着いて。ここで取らないといけないものは、最低でも一時間はかかるから」
「そうなの? じゃあ、ゆっくりでも大丈夫? エレは急ぐの苦手だよ? 」
「うん。大丈……あれって」
遠くに、巨大な鳥類のような魔物が見える。他の場所では見た事がないような、姿をしている。
「誰かいるの! 急ぐの」
エンジェリアは、魔物の側に人がいる事に気づき、走って、魔物の方へ向かった。
**********
「ロジェ」
魔物の側にいたのは、ローシェジェラだ。浄化魔法が効かず、苦戦していたのだろう。
「本当に懲りもせず」
「……」
エンジェリアは、魔物を見て、ある事を感じ取った。それは、あってはならない事。エンジェリア以外は感じ取れないであろう事だ。
「……」
「エレ」
「……なんで、エレの……愛姫の力が感じるの? エレは、こんな魔物さんなんて生み出してないのに。エレの知らないところで、エレの力を利用されるのは、だめなの」
この魔物に浄化魔法が効かないのは、当然の事。この魔物は、愛姫だけが持つ力により生み出された生物。エンジェリアの身近なところで言えば、りゅりゅがそれに当たる。
エンジェリアは、目の前の魔物を生み出した存在に、僅かにだが怒りを覚えた。
「……エレ、落ち着きな」
「ふぇ」
フォルが、エンジェリアを抱き寄せた。
「こーおーれー。こーおーれー」
「ゼロ、自分やってますふうだけど、やってるのオレだから」
「応援。俺の大好きなゼム見れるから」
ゼーシェリオンは、ゼムレーグが魔法が好きで、見れるチャンス到来と思っているのか、嬉しそうに応援している。
エンジェリアは、その姿を見て、くすくすと笑った。
「ぷみゅぅ」
魔物が凍り、ゼーシェリオンが、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
エンジェリアは、怒りが消え、ゼーシェリオン面白いという感情だけになった。
「……一応、礼は言っておく」
「ふみゃ。にゃむにゃむ。みゃなの」
「えっ? 」
「じゃなくて、逃さないの。連れ戻すの。エレは、愛姫なんだから、神獣さん達より偉いの……フォル、これなんか違う気がする」
エンジェリアは、ローシェジェラを引き止めるため、咄嗟に言ったが、途中で、おかしいと思い始めた。
「うん。可愛いよ」
だが、フォルに聞いても、笑顔で、そう言われるだけ。
「……そんな嘘までつかせて」
「どうして嘘なの? 」
「愛姫は、神獣達と一緒にいる。そんな事も知らないなんてね」
愛姫と名乗れるのは、一人だけ。だが、ローシェジェラの言葉は嘘ではない。嘘であれば、フォルが気づくだろう。
「嘘なんかじゃねぇよ。エレは、正真正銘愛姫だ。エレ以外に愛姫はいない」
「そうですね。我々の大事な愛姫様は、彼女だけです。それ以外などあり得ません」
「ゼロ、イヴィ、エレ以外にいるいないじゃなくて、エレが愛姫なんだっていうなの」
「そんなわけ」
「ふきゃん⁉︎ 」
突然、エンジェリアの立っている地面が崩れた。
地下は運良くマグマはない。
「ふきゅぅ……癒しフォルを呼ばないと」
大怪我はしなかったが、足を挫いた。
「エレ、落ちるって気づいた瞬間浮遊魔法使いなよ」
フォルが、上から降りてきた。エンジェリアは、フォルを見て、瞳に涙を溜めて、抱きついた。
「痛いの」
「ほんとに世話のかかる子。エレって、僕らがいないと何もできないよね」
「ふみゅ。だから、フォルにお世話してもらうの。エレが何もできないと、みんな離れられないってなるから、一緒にいてくれるの」
エンジェリアは、フォルに癒し魔法を使ってもらった。足の痛みが消えたが、自分で立つ前に、フォルに抱っこされた。
「……これ……エレ、みんなを呼んで」
「みゅ」
――エレなの。エレは、降りてきて欲しいって思うの。みんな、エレのお願い聞いてくれるって信じてるの。でも、届かなかったら我慢するの。
エンジェリアは、ゼーシェリオン達に呼びかけた。
「エレ、あれがロジェが欲しがっていたもの」
赤い光を放つ宝石。
「きれい。他もこんなにきれいなの? 」
「うん。宝石がほとんどだから。欲しいなら一つ取っても良いよ? って、君は魔法石派か」
「ふみゅ。これは使えそうなの。これなら、前のあの海の宝石と合わせて……ふみゅ。使えそうなの」
エンジェリアは、宝石に宿る魔力を視て、魔法具に使えると思い、使い方を考える。
「それにしても、みんな遅いね。ピュオがいるから、安全な道探しているのかな」
「ふみゅ。そうだと思うの。エレは、この間に、調査調査なの。もっと、魔法具に使えそうなものがありそうだから」