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11話 神獣の聖地


 自然豊かな景色に、エンジェリアは、深呼吸した。


「空気が美味しい」


「そうだな」


 エンジェリアとゼーシェリオンが、自然豊かなこの景色と空気を堪能していると、顔を隠した人物が、エンジェリア達の方へ来た。


「本日はどのようなご用件でしょうか? 」


「神獣の資料を拝見したい。持ち込み禁止だから、全部見るまでは、ここに滞在する」


 ここにいる神獣は、全員顔を隠している。常にというわけではなく、仕事中だけだが。


 この顔を隠した人物は、ここの門番。


 エンジェリアは、にっこりと笑って、おとなしくしている。ゼーシェリオンも、にっこりと笑って、おとなしくしている。


「かしこまりました。では、いつもの部屋でよろしいでしょうか? 姫様方もご一緒に」


「ああ。ありがと。それと、今回の集会には参加させてもらうよ。ヨージェアナとリリフィンあたりが参加するのかな」


「光と音の王方ですね。恐らく、今回も参加されるかと」


 ここにいる神獣達は、今回の世界の神獣達ではない。ジェルドの王についても詳しい。それに、ここには、ジェルドの王が、来る事がある。


 エンジェリアは、かなり楽しみだが、それを顔に出さないようにする。


「中は、別の者が案内します。資料の閲覧、かなり量が多いので、休みながらやってください。それと、その、王方にお聞きして、謝罪申し上げたい事がございます」


 顔を隠した人物が、ゼーシェリオンの方を向き、深々と頭を下げた。


「まさか、男の人だとは気づかず、毎度嫌々女装させてしまっていたようで、申し訳ございません! 」


「ふみゃ⁉︎ 」


 ゼーシェリオンが男とバレる。可愛いとかっこいいを兼ね備えていると思われる。人気になる。というのを警戒していたエンジェリアは、それを聞いた瞬間、大袈裟すぎる驚きのポーズを見せた。


 そのポーズで止まったまま、瞳に涙を溜める。


「エレのなの……ゼロは、エレを見るの。人気になるのはだめなの」


「ご安心を。我々、この場所にいる神獣は、エレシェフィール様推ししかいません。毎度、ここからエレシェフィール様のご活躍を見ながら、飲んでおります」


「飲む? 何を? 甘いの? ここにいる間にある集会でエレも飲む」


 エンジェリアは、興味津々に聞いた。


「申し訳ありません。お待たせいたしました」


 エンジェリア達を、案内する人物だろう。顔を隠した門番と同様に、顔を隠している。


「いえ、待ってなどおりません。お忙しい中、お時間をとらせてしまい申し訳ありません」


 エンジェリアは、姫らしくすると言っていた事を思い出し、両手を前で重ね、お淑やかそうにした。声も、かなり落ち着いている。


「そ、そんな事はございません……よっしゃ、生愛姫だ」


 最後は小声だったが、エンジェリアはしっかりと聞き取っていた。ここにいる神獣達は、エンジェリアの愛姫状態を生で見る事に喜びを抱くのだろう。


「門番さんも、お話に付き合ってくださり、感謝します」


「エレ、そんなサービスしないで良いよ」


「そうだ、そうだ。そんなサービスいらない。やるなら俺らだけにしろ」


 ゼーシェリオンは本音が漏れている。エンジェリアが愛姫状態を振る舞うのを、ゼーシェリオンとフォルが、嫉妬しているようだ。


「愛姫は皆様に愛を与える存在です。誰か一人を贔屓になどできません。ですが、そこまで想っていただけるのは、とても喜ばしいです……愛姫疲れた。どうせみんなもう知ってるみたいだから良いでしょ」


 エンジェリアは、愛姫に疲れ、フォルに抱きついた。


「抱っこ良い」


「うん。良いよ」


 フォルに抱っこしてもらう。


「では、ご案内いたします。こちらへ」


「ふみゅ。そういえば、甘いもの持ってくるの忘れてたの。ゼロも持ってないから、どうしよう。エレのご褒美が」


「僕が持ってるから大丈夫だよ」


 フォルが親切心だけで持ってくるとは思えない。食べすぎないよう、監視のために、自分で持ってきているのだろう。


 それを理解していても、エンジェリアは、喜んだ。


      **********


「……ふみゅぅ。ふにゅふにゅ。ねぇ、今って、明かりどうしてるの? 見た感じ、かなり広範囲……ヨージェアナの光魔法を使っているような感じがするんだけど」


 部屋へ案内されている中、エンジェリアは、何か、前に来た時と違う場所はないかと探していた。


 ここの神獣達に敵意がなく、平和的なのだとしても、外は違う。外からの何らかの干渉により、変化している部分があるかもしれない。


 そうして見つけたのが、魔法の痕跡だ。


「……現在、時間システムが故障してしまい、光の王方のご配慮により、光をもらっております」


「突然故障したの? 」


「ええ。何の前触れもなく、突然」


「ふみゅ……偶然故障したとは考えにくいの。何かあっても故障した可能性が高いの。そっちも時間があれば調べたいけど……フォル、調べても良い? 」


 神獣に関係があるかは、現時点では不明だが、確認しない理由はない。


 危険な場所であれば断られる可能性はあるが、ここでは、フォルは断らないだろう。

 だが、一応、許可をとっておく。


「良いよ。と言うか、君がそうしたいなら、危険すぎるような場所以外は基本的に断らない」


「ふみゅ。知ってるの」


「……エレ、少ない」


「何が? 」


「ここにいる人数。前に来た時よりかなり減ってる」


 エンジェリアには分からないが、ゼーシェリオンが言うのであればと、それも、調べる事に加えておく。


「……その、資料をある程度読みましたら、事情をお話しします。恐らく、その方がよろしいので」


「資料と関係があるって事は、裏切り者とされた神獣達が関わってるって事か。分かった。今日はとりあえず、資料を見るだけにしておく。エレ、君もそれで良いね? 」


「ふみゅ。エレ、最近、推理小説読んだから、その資料だけで、謎を解いてやるの。証拠はもういっぱいあるの……きっと、多分」


 普段は読まないが、ゼーシェリオンの勧めで、推理小説を少しだけ読んでいた。


 エンジェリアは得意げにそう言った。


「うん。それだけでなんでも推理できれば、誰も苦労はしないと思うけど、面白そうだから、聞いてみようかな」


「ふみゅ。お任せなの」


      **********


 エンジェリアは、自分に任せておけば大丈夫という態度をとっていたが、それはずっと続くものではなかった。


 部屋に案内され、資料を拝見する。


 初めこそ、エンジェリアは、得意げに見ていた。不思議な点があれば、全てメモをとった。


 だが、資料の多さと、メモをとっても何も思い浮かばない事で、エンジェリアの自信どころか、やる気までどこかへ消えていった。


「……これ。あいつ、だから神獣に詳しかったのか」


「みゅ? どうしたの? 」


 ゼーシェリオンが見ている資料を見ると、ルーヴェレナの名が書かれていた。


 ルーヴェレナは、エンジェリア達に、種族や出自に関する事は、はぐらかしている。その理由が、神獣の裏切り者だったからという事は、知らなかった。


「……ふみゅ。フォル、愛姫の偽物が、神獣さん達にちやほやされてるんだよね? 」


「うん。多分だけど。僕は知らないから」


「……愛姫が、誰にでも愛されるだけの存在なんかじゃないのに」


 エンジェリアは、メモをもう一度見る。そこに書かれているのは、愛姫を尊重していないと書かれている神獣ばかり。


 尊重はしていたのかもしれない。こんなものは、記述だけでは分かり得ない事だ。だが、他に何か、大事なものがあったのだろう。ローシェジェラは、神獣達の平和のように。


 それが、愛姫には必要のないものと判断したのだろう。


「本当に厄介なの。でも、本当に厄介なのは、きっと違うの……歴史を見る限り、偽の愛姫は利用されてるだけ。御巫も、愛姫も全部利用してる」


「エレ、もう寝るよ。利用してる相手なんて、歴史を見れば分かるけど、簡単に手を出して良い相手じゃないから」


「ふみゅ。そうかもしれないの。今は、目の前の事をどうにかするのだけ考えるの。おやすみ」

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