自然豊かな景色に、エンジェリアは、深呼吸した。
「空気が美味しい」
「そうだな」
エンジェリアとゼーシェリオンが、自然豊かなこの景色と空気を堪能していると、顔を隠した人物が、エンジェリア達の方へ来た。
「本日はどのようなご用件でしょうか? 」
「神獣の資料を拝見したい。持ち込み禁止だから、全部見るまでは、ここに滞在する」
ここにいる神獣は、全員顔を隠している。常にというわけではなく、仕事中だけだが。
この顔を隠した人物は、ここの門番。
エンジェリアは、にっこりと笑って、おとなしくしている。ゼーシェリオンも、にっこりと笑って、おとなしくしている。
「かしこまりました。では、いつもの部屋でよろしいでしょうか? 姫様方もご一緒に」
「ああ。ありがと。それと、今回の集会には参加させてもらうよ。ヨージェアナとリリフィンあたりが参加するのかな」
「光と音の王方ですね。恐らく、今回も参加されるかと」
ここにいる神獣達は、今回の世界の神獣達ではない。ジェルドの王についても詳しい。それに、ここには、ジェルドの王が、来る事がある。
エンジェリアは、かなり楽しみだが、それを顔に出さないようにする。
「中は、別の者が案内します。資料の閲覧、かなり量が多いので、休みながらやってください。それと、その、王方にお聞きして、謝罪申し上げたい事がございます」
顔を隠した人物が、ゼーシェリオンの方を向き、深々と頭を下げた。
「まさか、男の人だとは気づかず、毎度嫌々女装させてしまっていたようで、申し訳ございません! 」
「ふみゃ⁉︎ 」
ゼーシェリオンが男とバレる。可愛いとかっこいいを兼ね備えていると思われる。人気になる。というのを警戒していたエンジェリアは、それを聞いた瞬間、大袈裟すぎる驚きのポーズを見せた。
そのポーズで止まったまま、瞳に涙を溜める。
「エレのなの……ゼロは、エレを見るの。人気になるのはだめなの」
「ご安心を。我々、この場所にいる神獣は、エレシェフィール様推ししかいません。毎度、ここからエレシェフィール様のご活躍を見ながら、飲んでおります」
「飲む? 何を? 甘いの? ここにいる間にある集会でエレも飲む」
エンジェリアは、興味津々に聞いた。
「申し訳ありません。お待たせいたしました」
エンジェリア達を、案内する人物だろう。顔を隠した門番と同様に、顔を隠している。
「いえ、待ってなどおりません。お忙しい中、お時間をとらせてしまい申し訳ありません」
エンジェリアは、姫らしくすると言っていた事を思い出し、両手を前で重ね、お淑やかそうにした。声も、かなり落ち着いている。
「そ、そんな事はございません……よっしゃ、生愛姫だ」
最後は小声だったが、エンジェリアはしっかりと聞き取っていた。ここにいる神獣達は、エンジェリアの愛姫状態を生で見る事に喜びを抱くのだろう。
「門番さんも、お話に付き合ってくださり、感謝します」
「エレ、そんなサービスしないで良いよ」
「そうだ、そうだ。そんなサービスいらない。やるなら俺らだけにしろ」
ゼーシェリオンは本音が漏れている。エンジェリアが愛姫状態を振る舞うのを、ゼーシェリオンとフォルが、嫉妬しているようだ。
「愛姫は皆様に愛を与える存在です。誰か一人を贔屓になどできません。ですが、そこまで想っていただけるのは、とても喜ばしいです……愛姫疲れた。どうせみんなもう知ってるみたいだから良いでしょ」
エンジェリアは、愛姫に疲れ、フォルに抱きついた。
「抱っこ良い」
「うん。良いよ」
フォルに抱っこしてもらう。
「では、ご案内いたします。こちらへ」
「ふみゅ。そういえば、甘いもの持ってくるの忘れてたの。ゼロも持ってないから、どうしよう。エレのご褒美が」
「僕が持ってるから大丈夫だよ」
フォルが親切心だけで持ってくるとは思えない。食べすぎないよう、監視のために、自分で持ってきているのだろう。
それを理解していても、エンジェリアは、喜んだ。
**********
「……ふみゅぅ。ふにゅふにゅ。ねぇ、今って、明かりどうしてるの? 見た感じ、かなり広範囲……ヨージェアナの光魔法を使っているような感じがするんだけど」
部屋へ案内されている中、エンジェリアは、何か、前に来た時と違う場所はないかと探していた。
ここの神獣達に敵意がなく、平和的なのだとしても、外は違う。外からの何らかの干渉により、変化している部分があるかもしれない。
そうして見つけたのが、魔法の痕跡だ。
「……現在、時間システムが故障してしまい、光の王方のご配慮により、光をもらっております」
「突然故障したの? 」
「ええ。何の前触れもなく、突然」
「ふみゅ……偶然故障したとは考えにくいの。何かあっても故障した可能性が高いの。そっちも時間があれば調べたいけど……フォル、調べても良い? 」
神獣に関係があるかは、現時点では不明だが、確認しない理由はない。
危険な場所であれば断られる可能性はあるが、ここでは、フォルは断らないだろう。
だが、一応、許可をとっておく。
「良いよ。と言うか、君がそうしたいなら、危険すぎるような場所以外は基本的に断らない」
「ふみゅ。知ってるの」
「……エレ、少ない」
「何が? 」
「ここにいる人数。前に来た時よりかなり減ってる」
エンジェリアには分からないが、ゼーシェリオンが言うのであればと、それも、調べる事に加えておく。
「……その、資料をある程度読みましたら、事情をお話しします。恐らく、その方がよろしいので」
「資料と関係があるって事は、裏切り者とされた神獣達が関わってるって事か。分かった。今日はとりあえず、資料を見るだけにしておく。エレ、君もそれで良いね? 」
「ふみゅ。エレ、最近、推理小説読んだから、その資料だけで、謎を解いてやるの。証拠はもういっぱいあるの……きっと、多分」
普段は読まないが、ゼーシェリオンの勧めで、推理小説を少しだけ読んでいた。
エンジェリアは得意げにそう言った。
「うん。それだけでなんでも推理できれば、誰も苦労はしないと思うけど、面白そうだから、聞いてみようかな」
「ふみゅ。お任せなの」
**********
エンジェリアは、自分に任せておけば大丈夫という態度をとっていたが、それはずっと続くものではなかった。
部屋に案内され、資料を拝見する。
初めこそ、エンジェリアは、得意げに見ていた。不思議な点があれば、全てメモをとった。
だが、資料の多さと、メモをとっても何も思い浮かばない事で、エンジェリアの自信どころか、やる気までどこかへ消えていった。
「……これ。あいつ、だから神獣に詳しかったのか」
「みゅ? どうしたの? 」
ゼーシェリオンが見ている資料を見ると、ルーヴェレナの名が書かれていた。
ルーヴェレナは、エンジェリア達に、種族や出自に関する事は、はぐらかしている。その理由が、神獣の裏切り者だったからという事は、知らなかった。
「……ふみゅ。フォル、愛姫の偽物が、神獣さん達にちやほやされてるんだよね? 」
「うん。多分だけど。僕は知らないから」
「……愛姫が、誰にでも愛されるだけの存在なんかじゃないのに」
エンジェリアは、メモをもう一度見る。そこに書かれているのは、愛姫を尊重していないと書かれている神獣ばかり。
尊重はしていたのかもしれない。こんなものは、記述だけでは分かり得ない事だ。だが、他に何か、大事なものがあったのだろう。ローシェジェラは、神獣達の平和のように。
それが、愛姫には必要のないものと判断したのだろう。
「本当に厄介なの。でも、本当に厄介なのは、きっと違うの……歴史を見る限り、偽の愛姫は利用されてるだけ。御巫も、愛姫も全部利用してる」
「エレ、もう寝るよ。利用してる相手なんて、歴史を見れば分かるけど、簡単に手を出して良い相手じゃないから」
「ふみゅ。そうかもしれないの。今は、目の前の事をどうにかするのだけ考えるの。おやすみ」