翌朝、エンジェリア達は、ゼーシェリオンが気づいた、神獣が減っている件について、話を聞いた。
原因は、復讐らしい。
裏切り者とされ、ローシェジェラのように逃げ切った神獣達が、ここにいる神獣達を攫っている。攫われた神獣は、一人も帰ってきてはいない。
だが、残されていたメッセージから、目的が復讐であるという事だけは、知る事ができたようだ。
「エレは無害で可愛いから、ここはエレに任せるべきだと思うの」
エンジェリアは、見た目からして、かなり無害そうだ。エンジェリアであれば、警戒される事はないだろう。
「……許可できない。僕が、君を一人で、そんな危険な場所へ行かすと思う? 」
「思わないの。でも、エレが良いの。こんなに無害なエレは中々いないの。きっと無害だって思って、簡単に攫っていくと思うの。エレ、フォルが許可しないって言っても、勝手にいくから。止めても無駄だから」
「……分かった。ゼロ、君は、資料を見ておいて。僕がエレと一緒に行く。エレ一人に、そんな危険な役回りをさせられない」
エンジェリアが勝手にいくよりも、側で見ておいた方が良いと思ったのだろう。本当なら、連れていく事も避けたいはずだ。
「ありがとなの」
「ほんとは安全な場所で待っていて欲しいんだけどね」
「それはむりなご相談なの。エレは、安全な場所で待ってるなんてしないから」
フォルの想いを知った上で、エンジェリアは、そう答えた。
フォルが、心配そうに、エンジェリアの頭を撫でる。
「……帰ってこなかったら泣くから」
「ぷにゃ⁉︎ それはだめなの! エレが見てないところで泣くのはだめなの! ゼロが泣いて良いのは、エレに慰めてもらえる場所だけなの! 」
「逆にそこなら良いのかよ」
ゼーシェリオンが、呆れた表情でそう言うと、エンジェリアは、こくりと頷いた。
「……可愛いわがまま姫が」
「ふにゅ。そうなの。それで、ゼロ達は、エレのわがままに付き合うの。エレの側でね」
「ああ。当然だろ」
「フォル、ゼロと離れるのは寂しいかもだけど行くの」
「うん。ゼロ、そっちの事はよろしく」
フォルが、そう言って、転移魔法を使った。
**********
両手を縛られ、牢の中に入れられている。
転移魔法で、転移してすぐに、神獣達に捕まった。
「一匹神獣じゃないのが混じってんな。神獣と一緒にいる時点で同罪だ。恨むなら、その神獣を恨め」
何かあった時のため、ゼーシェリオンとは、常に共有をするようにしておいた。そのおかげで、ここにいる、裏切り者とされた神獣達が、強い恨みを持っているのが視れる。
ここの神獣達が、自分達を裏切り者とした神獣達を恨むのは理解できなくはない。だが、聖地にいる神獣は、無関係だ。それに、エンジェリアはそもそも神獣ですらない。
ここには、エンジェリアとフォル以外囚われていないが、他の場所に、聖地にいた神獣達が囚われているのだろう。
「君らが、こんな場所にいないとならないのは、神獣達が悪いだろう。でも、神獣にも、いくつも組織はある。あそこにいた神獣達は、全員、外界には関わっていない。君らを、裏切り者として始末しようとした神獣達とは無関係だ」
「だったらどうした? 神獣である以上、全員変わらない! 神獣は、一つの巨大組織だ! そんな嘘に、引っかかると思ったか! 」
「嘘なんかじゃないんだけど? もし、ほんとに神獣は全員仲間だとかって言っていれば、ギュリエンで起きた、神獣の侵略なんてなかった。御巫の素質のない姫を、保護する神獣と、始末しようとする神獣に分かれる事なんてない」
他にも色々とあるだろう。有名な事例が、その二つというだけで。
「それは全て裏切り者として、もう、そこにいない! そんな事も分からないと馬鹿にしてるのか! 」
神獣の男の言う通りだろう。一部では、手が出せないだけで、エンジェリアに味方をするイールグも、裏切り者として名が上がっている。
フォルも、本家であるという事から、表立ってはないが、裏切り者として名が上がっているのは事実だ。
本家や、聖地を敵に回せず、表に出す事すらできないだけで。
「嘘ならもっと、分かりにくい嘘をついてる。少なくとも、聖地にいる神獣が、外界と無関係である事は有名なはずだ。あそこは、かつての王の命に今も従っているだけ。無関係な人にまで手を出せば、それこそ、裏切り者として、処罰を受けるって分からないの? 」
「黙れ! 」
神獣の男の拳が、フォルの腹部に入る。
「かふっ」
「神獣は全員同罪だ! 魔法に精通している神獣なら当然知っているだろう。魔力器官に強い衝撃を受ければ、痛みとともに、魔力を扱う事も出来なくなると。自慢の魔法を使えず、何も出来ないまま、そこで、その小娘が、どうるかよぉっく見とけ。次は貴様だからな! 」
「……りゅりゅ」
エンジェリアは、小声でりゅりゅを呼んだ。
りゅりゅに縄を解いてもらう。
「凍って」
地面が凍る。裏切り者とされた神獣達の足が凍る。
エンジェリアでは、これが限界だが、これだけで十分だろう。
「エレ、大丈夫だから落ち着く」
「ぷみゃ⁉︎ 」
自分で縄を解いたのだろう。フォルに、背後から抱きしめられた。
「大丈夫。こういう事くらい、慣れてるから」
「慣れてるはやなの! エレが守るの」
「守ってくれてるよ。いつも」
巨大な花が、裏切り者とされた神獣達を呑み込んだ。
「フォル」
「指示は僕だけど、他は全部君だから、大丈夫。心配しないで」
「心配するの。だって、フォルは、昔から」
「……エレ、ごめん。話は後。オルにぃ様が来てる。心配かけたくないから」
フォルが、そう言って、転移魔法を使った。エンジェリアの魔力を使って。
**********
「ぷみゅぅ。フォル」
「大丈夫だって」
フォルは、昔から身体が弱い。それを知っているエンジェリアは、フォルの事を心配する。だが、フォルは、笑って、大丈夫としか言わない。
「やっぱり、ここにいた」
「フィル……心配してきてくれたの? 」
「当然。ゼロが泣いてる。何かあった気がするって言って」
エンジェリアの感情が伝わったのだろう。
エンジェリアは、ぷぅっと頬を膨らませた。
「エレ? 」
「ゼロはエレのいる場所でしか泣いちゃだめって言ったのに。ゼロに文句言ってやるの。エレのお願い無視するなって。フォル、帰るの」
「うん」
「……お熱あるの」
エンジェリアは、フォルの額に触れて、熱があるか確かめた。かなり熱い。今すぐにでも、休ませてあげたいが、外で休ませるわけにもいかない。
「……魔物さんがきてるの。エレ、ご機嫌斜めだから、やつ当たってくる」
エンジェリアは、そう言って、収納魔法から宝剣を取り出した。
「……エレ、行かないで」
「……むにゅぅ……でも……むにゅぅなの」
「行かないで? 側にいて? 」
「非常事態って事で、転移魔法で帰っても良いと思う。おれとフォルなら、転移魔法で直接あそこへいける事くらい、みんな知っているから」
フォルを早く休ませてあげるためにも、その方が良いだろう。それに、それなら、魔物はほっといても良い。
「ふみゅ。そうするの。フォルも、それなら良い? 」
「エレが側、いてくれるなら」
「側にいるの。側にいるから、ちゃんとやすむの」
エンジェリアがフォルに抱きつくと、フィルが、転移魔法を使った。
**********
「エレー。エレのエレー……ゼロのエレー」
ゼーシェリオンが、エンジェリアに泣きながら抱きついた。
「……変な間違いからしてるの。エレのエレって何か聞きたいの」
「ゼロのエレ。エレはゼロの」
「エレはフォルのなの。ゼロはエレの持ちもの的立ち位置なの。だから、忘れものして寂しいとは思っていたの……ぎゅぅも良いけど、おかえりのちゅも大事だと思うのはエレだけなの? 」
ゼーシェリオンが、エンジェリアの額に口付けをする。
「おかえり」
「ふみゅ。ただいま」
「……エレ、側いないとだめ」
「ぷみゅ。ゼロ、資料はフィルと一緒にがんばって」