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12話 裏切り者の神獣達


 翌朝、エンジェリア達は、ゼーシェリオンが気づいた、神獣が減っている件について、話を聞いた。


 原因は、復讐らしい。


 裏切り者とされ、ローシェジェラのように逃げ切った神獣達が、ここにいる神獣達を攫っている。攫われた神獣は、一人も帰ってきてはいない。


 だが、残されていたメッセージから、目的が復讐であるという事だけは、知る事ができたようだ。


「エレは無害で可愛いから、ここはエレに任せるべきだと思うの」


 エンジェリアは、見た目からして、かなり無害そうだ。エンジェリアであれば、警戒される事はないだろう。


「……許可できない。僕が、君を一人で、そんな危険な場所へ行かすと思う? 」


「思わないの。でも、エレが良いの。こんなに無害なエレは中々いないの。きっと無害だって思って、簡単に攫っていくと思うの。エレ、フォルが許可しないって言っても、勝手にいくから。止めても無駄だから」


「……分かった。ゼロ、君は、資料を見ておいて。僕がエレと一緒に行く。エレ一人に、そんな危険な役回りをさせられない」


 エンジェリアが勝手にいくよりも、側で見ておいた方が良いと思ったのだろう。本当なら、連れていく事も避けたいはずだ。


「ありがとなの」


「ほんとは安全な場所で待っていて欲しいんだけどね」


「それはむりなご相談なの。エレは、安全な場所で待ってるなんてしないから」


 フォルの想いを知った上で、エンジェリアは、そう答えた。


 フォルが、心配そうに、エンジェリアの頭を撫でる。


「……帰ってこなかったら泣くから」


「ぷにゃ⁉︎ それはだめなの! エレが見てないところで泣くのはだめなの! ゼロが泣いて良いのは、エレに慰めてもらえる場所だけなの! 」


「逆にそこなら良いのかよ」


 ゼーシェリオンが、呆れた表情でそう言うと、エンジェリアは、こくりと頷いた。


「……可愛いわがまま姫が」


「ふにゅ。そうなの。それで、ゼロ達は、エレのわがままに付き合うの。エレの側でね」


「ああ。当然だろ」


「フォル、ゼロと離れるのは寂しいかもだけど行くの」


「うん。ゼロ、そっちの事はよろしく」


 フォルが、そう言って、転移魔法を使った。


      **********


 両手を縛られ、牢の中に入れられている。


 転移魔法で、転移してすぐに、神獣達に捕まった。


「一匹神獣じゃないのが混じってんな。神獣と一緒にいる時点で同罪だ。恨むなら、その神獣を恨め」


 何かあった時のため、ゼーシェリオンとは、常に共有をするようにしておいた。そのおかげで、ここにいる、裏切り者とされた神獣達が、強い恨みを持っているのが視れる。


 ここの神獣達が、自分達を裏切り者とした神獣達を恨むのは理解できなくはない。だが、聖地にいる神獣は、無関係だ。それに、エンジェリアはそもそも神獣ですらない。


 ここには、エンジェリアとフォル以外囚われていないが、他の場所に、聖地にいた神獣達が囚われているのだろう。


「君らが、こんな場所にいないとならないのは、神獣達が悪いだろう。でも、神獣にも、いくつも組織はある。あそこにいた神獣達は、全員、外界には関わっていない。君らを、裏切り者として始末しようとした神獣達とは無関係だ」


「だったらどうした? 神獣である以上、全員変わらない! 神獣は、一つの巨大組織だ! そんな嘘に、引っかかると思ったか! 」


「嘘なんかじゃないんだけど? もし、ほんとに神獣は全員仲間だとかって言っていれば、ギュリエンで起きた、神獣の侵略なんてなかった。御巫の素質のない姫を、保護する神獣と、始末しようとする神獣に分かれる事なんてない」


 他にも色々とあるだろう。有名な事例が、その二つというだけで。


「それは全て裏切り者として、もう、そこにいない! そんな事も分からないと馬鹿にしてるのか! 」


 神獣の男の言う通りだろう。一部では、手が出せないだけで、エンジェリアに味方をするイールグも、裏切り者として名が上がっている。


 フォルも、本家であるという事から、表立ってはないが、裏切り者として名が上がっているのは事実だ。


 本家や、聖地を敵に回せず、表に出す事すらできないだけで。


「嘘ならもっと、分かりにくい嘘をついてる。少なくとも、聖地にいる神獣が、外界と無関係である事は有名なはずだ。あそこは、かつての王の命に今も従っているだけ。無関係な人にまで手を出せば、それこそ、裏切り者として、処罰を受けるって分からないの? 」


「黙れ! 」


 神獣の男の拳が、フォルの腹部に入る。


「かふっ」


「神獣は全員同罪だ! 魔法に精通している神獣なら当然知っているだろう。魔力器官に強い衝撃を受ければ、痛みとともに、魔力を扱う事も出来なくなると。自慢の魔法を使えず、何も出来ないまま、そこで、その小娘が、どうるかよぉっく見とけ。次は貴様だからな! 」


「……りゅりゅ」


 エンジェリアは、小声でりゅりゅを呼んだ。

 りゅりゅに縄を解いてもらう。


「凍って」


 地面が凍る。裏切り者とされた神獣達の足が凍る。


 エンジェリアでは、これが限界だが、これだけで十分だろう。


「エレ、大丈夫だから落ち着く」


「ぷみゃ⁉︎ 」


 自分で縄を解いたのだろう。フォルに、背後から抱きしめられた。


「大丈夫。こういう事くらい、慣れてるから」


「慣れてるはやなの! エレが守るの」


「守ってくれてるよ。いつも」


 巨大な花が、裏切り者とされた神獣達を呑み込んだ。


「フォル」


「指示は僕だけど、他は全部君だから、大丈夫。心配しないで」


「心配するの。だって、フォルは、昔から」


「……エレ、ごめん。話は後。オルにぃ様が来てる。心配かけたくないから」


 フォルが、そう言って、転移魔法を使った。エンジェリアの魔力を使って。


      **********


「ぷみゅぅ。フォル」


「大丈夫だって」


 フォルは、昔から身体が弱い。それを知っているエンジェリアは、フォルの事を心配する。だが、フォルは、笑って、大丈夫としか言わない。


「やっぱり、ここにいた」


「フィル……心配してきてくれたの? 」


「当然。ゼロが泣いてる。何かあった気がするって言って」


 エンジェリアの感情が伝わったのだろう。


 エンジェリアは、ぷぅっと頬を膨らませた。


「エレ? 」


「ゼロはエレのいる場所でしか泣いちゃだめって言ったのに。ゼロに文句言ってやるの。エレのお願い無視するなって。フォル、帰るの」


「うん」


「……お熱あるの」


 エンジェリアは、フォルの額に触れて、熱があるか確かめた。かなり熱い。今すぐにでも、休ませてあげたいが、外で休ませるわけにもいかない。


「……魔物さんがきてるの。エレ、ご機嫌斜めだから、やつ当たってくる」


 エンジェリアは、そう言って、収納魔法から宝剣を取り出した。


「……エレ、行かないで」


「……むにゅぅ……でも……むにゅぅなの」


「行かないで? 側にいて? 」


「非常事態って事で、転移魔法で帰っても良いと思う。おれとフォルなら、転移魔法で直接あそこへいける事くらい、みんな知っているから」


 フォルを早く休ませてあげるためにも、その方が良いだろう。それに、それなら、魔物はほっといても良い。


「ふみゅ。そうするの。フォルも、それなら良い? 」


「エレが側、いてくれるなら」


「側にいるの。側にいるから、ちゃんとやすむの」


 エンジェリアがフォルに抱きつくと、フィルが、転移魔法を使った。


      **********


「エレー。エレのエレー……ゼロのエレー」


 ゼーシェリオンが、エンジェリアに泣きながら抱きついた。


「……変な間違いからしてるの。エレのエレって何か聞きたいの」


「ゼロのエレ。エレはゼロの」


「エレはフォルのなの。ゼロはエレの持ちもの的立ち位置なの。だから、忘れものして寂しいとは思っていたの……ぎゅぅも良いけど、おかえりのちゅも大事だと思うのはエレだけなの? 」


 ゼーシェリオンが、エンジェリアの額に口付けをする。


「おかえり」


「ふみゅ。ただいま」


「……エレ、側いないとだめ」


「ぷみゅ。ゼロ、資料はフィルと一緒にがんばって」

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