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13話 裏切り者の原因


 エンジェリアがフォルの看病をしている間に、ゼーシェリオンとフィルが、資料を読み終えた。


 エンジェリアは、ゼーシェリオンからメモを受け取り、フォルの看病を交代した。


「ふみゅふみゅ。エレの字が読めないの」


「ああ。暗号解読みたいで大変だった。フォルの苦労を身をもって知った」


「エレの字は可愛いものだよ。僕がやっていた暗号解読は、もっと難しかったから」


 エンジェリアの字は、全てゼーシェリオンが訳してくれいる。そのおかげで、難なく読む事ができる。


 裏切り者とされている人物に共通するものは、いくつか見つけられた。


 愛姫を溺愛していない。


 影響力が大きい。


 御巫に疑いを持っている。


 神獣の王の教えを反対している。


 詳細不明の命令が一度以上与えられている。


 世界の声を信じていない。


 エンジェリアが見つけたのはこのくらいだ。


 愛姫を溺愛するのが、神獣の役割とでも、言われているのだろう。不可解な点がある裏切り者の神獣達の半数以上が、他に想い人が存在している。

 その半数以上以外にも、愛姫に何らかの疑いでも持っていたのか、単に溺愛対象として見れなかったのか。愛姫を溺愛していないと記述されていた。


「愛姫は王達にさえ愛されてれば良いのに。これだけじゃないとしても、愛姫を溺愛しないといけないなんてないの」


「そうだな。もし、本物の愛姫が無理やりそこにいさせられて、みんなに溺愛されていたら、拗ねるかも。愛姫を溺愛できる権利は、俺らか、俺らが認めた相手以外だめなんだ」


「って、嫉妬深い氷の弟様が言っているの。エレも同意見ではあるけど」


 愛姫は、ジェルドの王達。ゼーシェリオンはフォル達のためだけの存在。エンジェリアは、ジェルドの王達にだけ愛されていれば良い。


 それ以外は望まない。


 ジェルドの王達が認めた相手であれば良いが、認めた時点で、エンジェリアに好意的な感情を抱いているため、望む必要はない。


「ちなみに、フォルとフィルはどうなの? エレが、大勢から溺愛されていたら、どうなの? 」


「……嫉妬はすると思う。エレは、おれ達だけの愛姫なのにって。おれ達の事が一番だと知っていても、何度も、本当にそうかって聞くかも」


「ふみゅ。フィルの意外な一面発見。フィルもそういう事するんだ。というか、思うんだ」


 フィルは、遠くから見守る兄タイプとエンジェリアは、勝手に思っていた。そんなフィルから、嫉妬してという言葉が出るとは、思っていなかった。


 エンジェリアは、こっそり、フィルの可愛い一面とメモをとっておく。


「エレは特別だから」


「ぷみゅ。ありがと」


 フィルがエンジェリアの頭を撫でる。これも、特別だからなのではと、エンジェリアは、いつも以上に喜んだ。


「それで、フォルは? フォルはどうなの? エレがみんなから溺愛されたら嫉妬してくれるの? 」


「今嘘考えるだけの気力もないって知ってて聞いてんの? 」


「ふみゅ」


「……嫉妬は当然する。エレが、誰の目にも届かない場所で、愛情たっぷり与えて、二人っきりで暮らす。エレには、僕だけの愛情以外必要ないから」


 嘘をつけないとは理解して聞いたが、そんな答えが返ってくるとは思ってもいなかった。


 エンジェリアは、顔を真っ赤にして、ゼーシェリオンの背に隠れる。


「君が言わせたんだけど? 」


「だ、だって、そんな返しがくるなんて思ってなかったんだもん」


「なぁ、俺らの事は? フォルの言ってる内容だと、フォルだけなんだが? 俺らは良いだろ? 家族のようなもんなんだから」


「……家族のよう……なら良いけど。エレは、僕と結婚して、僕と幸せに暮らすんだから」


 熱のせいというわけでもなさそうだが、フォルが、エンジェリアしか見えていない。エンジェリアの事以外は考えていそうにない。


 一応、御巫として、エンジェリアとゼーシェリオンが、寄り添うという事になっているのだが、ゼーシェリオンの事は考えていないのだろう。


「ぜ、ゼロも一緒だよ! エレとゼロは、二人で一つなんだから。星月の御巫なんだから」


「……ゼロは……持ちもの的な……エレを手に入れれば、自然と入ってくるような」


「……ふみゅ。間違ってはないの。エレとゼロは一緒だから。って、そんな事より、共通点の調査なの」


 エンジェリアは、次に見つけた、影響力が大きいという点をメモした。最初の愛姫を溺愛していないと一緒に。


 神獣の中もそうだが、外でも影響力が大きい神獣達がばかりだ。エンジェリアが、知らないだけの神獣もいるだろう。


 中でも、ローシェジェラは、特に影響力が大きかったといえるだろう。本家の当主は、神獣の王候補として名が上がる。それだけでも、十分影響力が大きいが、ローシェジェラはそれだけではない。


 神獣達がより生きやすいようにと、各地に出回っていたと記述がある。そこで、様々な国の王と面会し、困っている事があれば助け、協力を得ていたとも。


「ロジェは一、二を争うほど影響力が大きかっただろうね。今の本家は敵に回せないけど、その頃は違うっていうのもあって、裏切り者にできたんだろう」


「今は……どういう事なの? 」


「リミェラは別として、僕らが裏切り者とされないのが、それなんだけど。今の本家が持っているものが関係してるんだ。僕も、詳しくは知らないんだけど、世界の意思と関わる何かを持っているらしい」


 世界の意思。エンジェリアは、それを聞いて、オルベアとイールグを思い浮かべた。


 エンジェリアだからこそだろう。愛姫として、世界の意思と触れ合ってきた感覚は、身体が覚えている。


「……オルにぃとルーにぃなの。誰かオルにぃに連絡したの? あそこに裏切り者がいるとか」


「してない」


「エレの勘違いかもだけど、オルにぃは、世界と関わりがあるんだと思う。エレは世界様って呼んでいるけど、世界の意思と言われているのは、初めの人達。それは、身体を持つ時もあるけど、基本は、魔力体って聞いていたけど」


 何らかの理由で、記憶を消して身体を持った可能性がある。オルベアの方は、記憶があるかもしれないが。


「ルーにぃの不思議な事についても、これで説明できるの。エレの勘違いかもしれないけど……でも、エレの感覚でそうだって思ったの。前に、世界様とお話しているから」


「君の感覚は、当たってる事の方が多いんだ。信じないわけないよ。それに、ルーやオルにぃ様が、この世界だけの記憶しかない事がおかしいとは何度も思った事あるから」


「ふみゅ。次に見つけたのは、御巫に疑いを持っているなの。これに関しては、どういう疑いかって、みんな違うけど」


 疑いを持つ理由は違えど、疑は持っている。裏切り者を出している神獣達にとって、御巫を信じない神獣は邪魔でしかないのだろう。


 中には、エンジェリアの件で疑いを抱いているという記述もあり、他人事とは思えない。


 エンジェリアは、御巫となれないと言われる理由は、不確かなもので、御巫の素質は、神獣達の目の前で見せている。それでも、認めないとなれば、別の理由を疑うのは、おかしな事ではないだろう。


「なんだか、ちょっぴり悪い気がするの。エレが、御巫に認められないっていうので、疑いを持って裏切り者ってなったのは。エレにはどうする事もできないけど、悪いかなとは思うの」


「君は巻き込まれてるだけだよ。誰が何を信じて、何を疑うのか。そんなの、誰にもどうする事もできないんだ。偶然、君のその件で疑いを持ってしまったとしても、それは君のせいじゃない。疑いを持った人達のせいでもね。持つなと言われても、できない事はあるから」


「それはそうかも知れないけど……ふみゅ。そうだって思う事にするの。次はちょっとむじゅかちい問題な気がするけど、がんばって考えるの」

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