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14話 神獣の王の謎


「神獣の王の教えを反対してる、か。これに関しては、教えの内容だよね」


 かつての、神獣という種族を作った神獣の王は、疑われて反対されるような教えなど作っていない。平和を重んじるものばかりだ。


 その教えに反対したからと言って、処罰もない。話を聞く程度の事はあっただろうが、それだけだ。強制力すらない。


 この、神獣の王の教えを反対するというのは、その王とは別の神獣だろう。


「……そもそも、神獣の王って、ずっと変わってねぇよな? 神獣の王は、神獣という種の祖だから」


「うん。本来であればね。でも、それを知っていながら、神獣の王を仕立てている。それが誰かまでは、分からないけど。その神獣の王は、かつての教えを全て変えたらしい」


「ぷみゅ。神獣の王は、二人しかいちゃだめなの。そういうものなの。愛姫の偽物と一緒に、正体を突き止めるの」


 エンジェリアは、愛姫の偽物以上に、神獣の王の偽物に良い感情を抱いていない。


 たとえ、神獣の王の偽物が、本物のように、神獣達の平和を考えていたとしても、それは変わらないだろう。


「うん。そうだね。これ以上、神獣達の間で、こんな事が起きないためにも、必ず、偽物の正体を突き止めないとだ。それが、僕にできる……ううん。なんでもない」


「償いなんかじゃないの。一緒にいるための、らぶ生活のための投資なの。フォルは、エレ達と、フュリねぇ達と一緒にいられるような場所を作ってくれようとしているの」


 フォルにとって、神獣達に関する事は、償いというのが大きいだろう。かつてのギュリエンの地で起きた事。そこで犠牲になった、フォルの大事な神獣達への。


 だが、エンジェリアは、それだけのために動いてほしくはない。過去ではなく、未来のために動いて欲しい。


 特に、フォルには。


 笑顔でそう言ったエンジェリアの想いは、フォルに伝わったのだろう。


「そうだね。ごめん……ううん。ありがと、エレ。過去に囚われている僕を、いつだって君は、今に連れ戻してくれる」


「エレは、フォルだいすきだから。らぶだから、当然なの。エレが、いつだって、フォルにらぶな今を見せてあげるの。ついでにペットにしてもらうの」


「だから、飼わないって。こんな気まぐれで、可愛いペット、僕には合わないよ。恋人なら、別だけど」


 そう言って、無邪気に笑うフォルを見て、エンジェリアは、顔を真っ赤に染めた。


「……ゼロ防御なの! ゼロで防御するの! 」


「それ意味ねぇだろ。それでなんの効果があるんだ? 」


 ゼーシェリオンの背に隠れて、声に出さずにしゃぁーと威嚇しているエンジェリア。ゼーシェリオンが、呆れた表情を浮かべている。


「いつも君が言ってる事なんだけど」


「エレが言うのは良いの! それに、これは反則なの! 普通に反則なの! エレは、反則を言い渡すの! 」


「エレ、教えの情報入手。少しだけしかできなかったけど」


 エンジェリア達が、わいわいと話している間に、フィルが一人で、神獣の王の教えを調べてくれていたようだ。


「ふみゅ。ありがとなの」


「簡単に言えば、神獣の王に逆らうな。他種族を圧倒する権威を持って、全種族の頂点に立て」


「そんな事言うはずないの。本物の神獣の王は、そんな事は言わないの。とっても優しく、一緒に手を取り合ってがんばっていこうって言うの。エレは非常にしゃぁーなの」


 フィルが調べてくれた神獣の王の教えに、エンジェリアは、機嫌を悪くした。


 声には出さず、ずっと威嚇している。


「……よしよし……とかやれば機嫌直ってくれる? 」


 フォルが、不機嫌なエンジェリアの頭を撫でて、機嫌を直そうとしている。


 エンジェリアは、他でもないフォルにされた事により、機嫌が直った。


「フォルらぶなの。フォルはらぶなの」


「うん。機嫌直ってくれて良かったよ。まぁ、これで不機嫌になるのは分かるけど」


「ぷみゅ。エレのケアまでするフォルがらぶすぎるの。エレは、フォルのらぶによって、ご機嫌が決まるの」


 機嫌が直るどころか、更に良くなったエンジェリアは、フォルの胸に顔を擦り寄せた。


「それで、次の共通点は何? 」


「ふにゅ。詳細不明の命令が一度以上与えられているなの。フォルのように勝算があるようなのじゃなくて、勝算が低くて、そこへ行けとしか言われていないような命令なの。そこへ行けば伝えるみたいな」


 まるで、そこで処分するとでも言っているような命令。中には、その命令を遂行できず、裏切り者とされている神獣も存在している。


 怪しすぎるが、命令に関する事は何も書かれてないため、その命令が裏切り通告のようなものであるとは言い切れない。


「怪しいのに証拠がないのが怪しいの。きっと証拠隠滅なの。これを調べれば、何か分かるかもしれないけど……しゃぁー! 」


「急にどうしたの? 」


「フォルはだめなの! エレが神獣って偽って確かめるの! やるなら絶対そうするの! 」


 フォルはそもそもそうならないという事を忘れ、エンジェリアは、フォルが確認するというと思い、威嚇して止めようとしている。


「……可愛い。そんな事しないから安心してくれて良いけど。そもそも、僕が行ったとこで、どうにもできないから。君にも行かせる気はないけどね」


「ふぇ? そうなの? 」


「うん。この辺は、ロジェやルナ辺りに聞けば何か分かるんじゃないかな」


「ぷみゅ。分かったの。じゃあ、次行くの。エレが見つけた共通点は次で最後なの。次は、世界の声を信じていないなの」


 裏切り者と書かれている神獣達は、世界に意思があるという事を信じていないようだ。ルーヴェレナやローシェジェラも、そう書かれていたが、エンジェリアが世界の声を聞く事から、信じるようになったのだろう。


 他の御巫候補と違い、エンジェリアが聞く世界の声は、都合の良い事ばかりではない。他の御巫相手とは違い、今の世界は、エンジェリアに優しくはない。


 多くの神獣達が知っている、エクシェフィーの御巫には、都合の良い言葉以外はなかっただろう。それで信じられなかったのだとすれば、エンジェリアを見て信じるようになったのは頷ける。


「世界の声とか、神獣達には特に意味ないと思うけど、どうして、それが共通点なんだろう。偶然? 」


「世界の声を信じないつぅ事は、エクシェフィーの御巫を信じていないと同義とでもなってんじゃねぇのか? それで、御巫を信じないのなら必要がないみたいな」


「……御巫を信じないじゃなくて、現在の神獣の在り方を否定する行為と見做されてるのかも。世界は少しずつ歪んでいった。それ自体もおかしな話だけど、それ以上に、エンジェリアを愛姫として扱わないという事。それが本来あり得ない事だ」


 エンジェリアの意思一つで、世界は簡単に滅ぼせてしまう。だからこそ、エンジェリアを、愛姫を、世界はそれ相応な扱いをしなければならない。


 初めはそうではなかったのだろうが、世界が変わるにつれて、そうなっていっていた。そして、現在は、それすら失われている。


 エンジェリアが愛姫であるという事を知っているのか知らないのかは不明だが、エンジェリアに世界じぶんを滅ぼさせないようにするというのはない。


「ぷみゅ。エレが愛姫って知らないからなのかなって思ってたけど、こんなに言っているのを見ているなら、変わってもおかしくないの……エレは頭を使いすぎたの。もう疲れたの。考えるのが疲れたの。あとはゼロが全部考えてくれるって」


「……誰かが世界の意思に介入してるとかか? 俺に任せられても、こんな事分かるわけねぇだろ。俺はエレと違って、世界について詳しくねぇんだから」


「ルーにぃ達が何か握ってると思うの。突然世界様の二人が、こうしてエレを守るようになるなんて、何かないとだと思うの。記憶ないから分かんないだろうけど、エレはそう思うの。って事でおやすみ」


 エンジェリアは、フォルの隣に寝転んだ。自らフォルの抱き枕になるという意思表示をする。


「……可愛い」


「一緒にねむねむなの」


「うん。おやすみ♡」

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