「ぶみゃぁ。もう歩くのやなの。エレを置いていけなの」
岩と木しかない景色。地面がゴツゴツとしていて、いつも以上に疲れる。
エンジェリアは、歩き疲れ、歩くのを止めようとした。
「お前が一緒に行く言ったんだからついてこいよ」
「愛姫、自分がおぶりましょうか? 」
「リリフィン、ここぞとばかりに、甘やかすのは」
「うん。というか、この子の婚約の話知ってる? 仮にも婚約者の目の前で、それはどうかと思うんだけど? 」
笑顔のフォルに、エンジェリアは、瞳に涙を溜めて、抱っこを求めた。フォルに求めた事が良かったのか、抱っこしてもらえた。
「ぷみゅぅ。そもそも、本当にあるの? ここに神獣の歴史を知る古代魔法具なんて」
「分からないけど、頼まれて、君が引き受けたから、確認だけでもしないと」
ここへ来るきっかけとなったのは、今朝の事。
朝起きたエンジェリアは、聖地の神獣が失くした歴史を記述する古代魔法具を探して欲しいと頼まれた。
エンジェリアは、困っているのと、これがあれば、神獣の歴史を知る事ができるというので、すぐに引き受けた。
エンジェリアに頼んだ神獣の話によると、それを失くしたのは、今いる場所らしい。
そこへ行くのには、危険が伴いため、心配したその神獣が、ジェルドの王である、リリフィンとヨージェアナにも同行するように頼み、エンジェリア達は六人でこの場所を訪れていた。
だが、探しても古代魔法具は見つからない。
エンジェリアは、歩き疲れ、探すのを放棄した。
「休憩すれば探すから」
「……エレ、お前なら魔法具探知とか作れるだろ」
「作れはするけど、素材が足りないの。もっと素材がないと、そんなの作れないの。エレは今いっぱい素材持ってるわけじゃないから。とっても少ないから」
エンジェリアは、魔法具の素材をエクリシェへ置いてきている。戻れば作れなくはないが、戻ろうとは思わない。
「……ぷみゅぅ。仕方ないの。仕方ないからエレが働くの。なんとなくで探すの……ぷみゅぷみゅ……なんとなくその辺にありそうなの」
エンジェリアは、勘だけを頼りに、ゼーシェリオンに探させた。
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「あった。本当にすごいよな。エレのやせい……本能」
エンジェリアの勘を頼りに探していると、五分ほどで見つかった。
エンジェリアは、言葉には出してないが、褒めてと言わんばかりの表情をしている。
「……すごいっつったのにそれカウントされてない」
「エレが褒めて欲しいのは、すごいじゃなくてえらいだから。なでなでだから。それ以外受け付けないの。エレのわがままに付き合ってくれるって言っているのはゼロ達なんだから、なでなでするの」
「……はぁ」
ゼーシェリオンが、呆れた表情で、エンジェリアの頭を撫でた。
「……ぷみゅぷみゅ。これの時が一番効果あるの。お疲れ様の魔法なの」
「わざわざそのためだけに」
「だって、ゼロはいつもエレのためにがんばってくれているから。エレがご褒美をいっぱいあげないと。隠れて甘いもの一緒に食べるとかも良いけど、いつもフォルにバレて怒られるまでセットになるから、それはやらないの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンが頭を撫でている間、癒し魔法を放出していた。頭を撫でるため至近距離にいたゼーシェリオンには効果があっただろう。
「ふみゅぅ。見つかったから帰る? 帰る? 早く帰る? ……帰れ」
「お前はフォルに抱っこしてもらってるだけだろ。自分で歩いてから言え」
「さっきまで歩いていたの。歩いていたのに疲れたの。だから帰るの……ぴみゃ⁉︎ 魔物センサーはつどー」
エンジェリアは、魔物の気配を察知した。フォルに下ろしてもらい、収納魔法から宝剣を取り出す。
「……ぷみゃ⁉︎ どうして、これがこんな場所に……ふみゅ。考えるだけむだなの」
巨大な人のような形をしている魔物のような生物。それは、かつて神獣達がギュリエンを攻め入る時に使っていた、人工魔物だ。
なぜ、そんな魔物がここにいるのかは気になるが、今は、安全のためにもこの魔物の討伐が先だろう。
「ゼロ、エレの浄化魔法は効かないの。浄化魔法以外の方法を考えるの」
「物理」
「ふみゅ。ゼロに聞くのが間違いだったのかも……フィル、フォルの事お願い。エレ達がどうにかするから」
「……大丈夫? 」
エンジェリアとゼーシェリオンでは、人工魔物に対抗できるだけの実力はないだろう。フィルがそれを心配している。だが、それでも、フィルにフォルを任せるしかない。
「大丈夫じゃないかもだけど……大丈夫にするの」
「……フィル、心配しなくて良いよ。エレがあんな事言ってくれているから、手助けしてあげてとは言わないけど」
「……フォル」
人工魔物は、フォルの仲間の仇だ。そんな魔物を目の前にして無理しないかと心配だったが、平然としている。
「エレ、あの魔物って、綺麗で大人っぽくて、スタイルの良い子以外は無視するらしいよ? 前の時も、君は無事だったよね? 」
「……ふしゅ……ふしゃぁー! エレだって、子供っぽくても、魅力なくっても、女の子なのー! 」
エンジェリアの怒りに生じた、巨大な氷の塊が、魔物を押し潰した。
「ふみゅ。エレだって女の子なの。女の子扱いされないとふしゅぅってなるの」
「うん。僕はエレの事女の子として見てるよ。愛らしくて、愛でていたい。とても可愛い僕のお姫様」
「ぷにゅぅ。ふみゅにゅ」
「……本当にフォルの都合の良いようにできてんな。エレって」
エンジェリアは、フォルの言葉を素直に信じている。実際にエンジェリアが襲われた記憶がないからという事があるのだが、ゼーシェリオンには、関係ないのだろう。
「エレはフォルのエレだから。フォルの言う事は信じるの。フォルの都合の良い生き物なの」
「生き物なのじゃねぇよ。それの被害者を考えろ」
「被害者って、君以外に被害者はいないよ? 明らかに敵です的な相手以外は」
「その被害者が言ってんだよ」
面白いからと言う理由で、エンジェリアの、元を辿ればフォルの被害者となっているゼーシェリオン。
エンジェリアは、フォルの言葉を信じた行動のため、エンジェリアには強く言えないのだろう。ゼーシェリオンは、フォルに対して言っているようだ。
「俺がなに言っても信じないからな。ああなったら。全部避けられるから良いけど」
全部避けられる。
それが、エンジェリアには禁句だった。
フォルに文句を言いまくっているゼーシェリオンの後ろにこっそりと回る。
「君が疑われるような性格だったんじゃないの? 」
「お前の言葉を信じすぎるからだろ。それでなってるんだろ」
エンジェリアは、宝剣の刃をしまい、両手でぎゅっと持つ。
ゼーシェリオンがフォルに気を取られているのを確認すると、宝剣を持ち上げ、ゼーシェリオンに向かって振り下ろした。
「ぷみゃ⁉︎ 氷なの! 」
ゼーシェリオンの頭上に氷の塊ができている。エンジェリアの宝剣は、その氷で防がれた。
「なんで防ぐの」
「なんで当てようとしたんだ? 」
「ゼロが避けられるって言うから。エレは、ゼロに避けられるなんてないのって証明しようとしたのに」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに防がれ、むすぅと不機嫌になった。
「帰るの。早く帰るの。ゼロだけ一人で走って帰れなの。エレ達はゆっくり歩いて帰るから」
「なんで俺だけ走らないといけねぇんだよ。俺も歩く。走らない。絶対に走らない」
「ならエレを抱っこして……それはフォルが拗ねるかもしれないから、エレはフォルに抱っこしてもらうとして、エレをねむねむさせるの」
「睡眠魔法かければ良いのか? 」
「じゃないの。もう良いの。早く帰るの」
目的のものを見つけたエンジェリア達は、神獣の聖地へ戻った。