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プロローグ 新しい魔法具


 聖地へ帰ってきて、歴史を見ようとしたが、古代魔法具が初期化されてしまっていた。


「むにゅぅ。流石にこれはエレお手上げ」


「おれも、これは」


「そもそも、この手の古代魔法具は、初期化されたら全部のデータ消失するから、どうする事もできないの。直せないの。というか、戻せないの」


 エンジェリアは、足場が悪い中、我慢して出向いて、なんの成果もないという事で、やる気が消失している。


「とりあえず、これでここでの用も終わったから帰る? 今日の集り終わってからだけど」


「ふみゅ。集まりは楽しみなの。ジュースとかケーキとか。楽しみ。エレは、夜ふかしのために、ねむねむするの」


 エンジェリアは、そう言って、フォルの隣で眠った。


      **********


 集会が終わり、エクリシェへ帰ったエンジェリアは、一人で部屋の中にいた。


「……ぷみゅぅ。これはむずかしいを通り越してむじゅかちいの」


 エンジェリアは、一人である魔法具の設計図を描こうとしているが、筆が進んでいない。


「やっと今回のお題が出たのに。というか、今回お題出るの遅かったの。素材とかは十分すぎるほど集める時間はあったけど」


 魔法具技師協会の魔法具の発表会のお題。今回は、新しいもの。


 エンジェリアは、そのお題に合うような魔法具の設計図を描こうとして入るが、何も思いつかない。


「新しいって、エレの中では全てが新しいのに……新しいってなんだろう。エレが新しいって思えれば新しいのかな? 」


 新しいというのは、エンジェリアにとっては、かなり困難なお題だ。


 エンジェリアの新しいと、魔法具技師協会の新しいが一致しているとは思えないからだ。


「今回の魔法具の発表会は重要だから、良いのを出したいのに」


「まだ悩んでんのか? 」


「ふみゅ。新しいが分かんないの」


「……お前が描くのならなんでも新しいだろ」


 ゼーシェリオンが、エンジェリアの隣に来た。


 エンジェリアはゼーシェリオンの言葉を聞き、全く関係なさそうだが、新しいというものを思いついた。


「そうなの! ゼロ、ありがと。エレは決めたの。何を新しいにするか。それは、魔法具に必要な回路とかを新しくするの。誰も見た事がないようなものを生み出すの。低予算で簡単に作れるような魔法具にするの! 低予算、長持ちを目指すの! 」


 呪いの聖女の件で訪れた洞窟。そこで見た、明かりが消えてしまった魔法具。そして、技術力と予算の掛け合いでそうするしかない現状。


 エンジェリアは、それを解決できるような魔法具を設計する事に決めた。


「でも、低予算ってどうすれば良いんだろう……ゼロ、お勉強しに行くの。エレが行っても分かんないから、ゼロが一緒に行くの」


「……まずは、素材の予算を抑えろ。あとは技術がなるべく必要じゃないように」


「ふみゅ。分かったけど、どのくらいにするとかそういうの苦手」


 計算が苦手なエンジェリアには、予算計算などできない。誰かに頼んでやってもらうしかない。


 だが、その誰かは、最も信頼できる相手が良いだろう。その相手がゼーシェリオンだ。


「そうだな……魔法具一つにかかる素材予算は、五千から一万が無難だろうな。安いもんだと、二千くらいだ。高級品となると、五万くらいなのもあるが、今回は低予算だからここは必要ねぇだろうな」


「ふみゅ。おかしお話なの。エレの普段の魔法具は、素材五万でも足りないのに。そもそも、半分以上非売品とかもあるのに。だから研究予算って百五十万くらいしかないんだ」


 エンジェリアの魔法具は全て素材にこだわっている。市販品を使う事は少なく、自力で取ってくる事が多い。だが、その素材自体が売っていないというわけではなく、売り物であれば、エンジェリアが求める質より低い上に、一個で十万とかするものが多い。


 今まで一個の素材で買った最高額は五十二万。それ以上のものもあったが、それは手に取れなかった。


 エンジェリアは、ゼーシェリオンの言っていた素材の予算をメモした。安ければ安い方が良いが、あまりにも安ければ、質が悪くなってしまう。


 そこも考えて出した予算は、五千。


「ぴみゅ。これくらいでどうにかするの」


「ああ。できるように手伝う。にしても、初めてかもしれねぇな。エレが予算考えるの。あと、研究費百五十万は普通に多いからな? 他の支援とかもあって」


「それは当然なの。そういえば、ゼロ、どうするの? ゼロって、魔法具技師協会の魔法具技師免許欲しいって言ってたけど、そろそろ受付終わるよ? 受けないの? 」


「えっ⁉︎ もう出てたのか⁉︎ 受ける! 受けたいけど、どこに出すかが」


 魔法具技師協会の魔法具技師免許は、入手困難免許と言われている。その理由の一つが、そもそも受験ができないという理由だ。


 魔法具技師免許の受験受付時期は発表されない。知っているのは、魔法具技師協会所属の魔法具技師と設計師だけ。


 しかも、受付を誰が担当しているか毎回変わる。


 受付は、その回の試験管が行う。


「試験管が書類書いても良いけど、エレが書くと読むの大変かもだからゼロ書いて。今回エレ試験管なの」


 試験管となる資格のあるのは、魔法具技師免許の試験で、高得点をとった一部のみ。エンジェリアは、その試験で歴代最高得点を残している。


「すぐに書く。にしても、お前が試験管か……絶対最難関試験にされるな」


「そこで満点取ったエレなんだから当然なの。ちなみに、今回の試験は、かなりの人数が、見学を希望していたらしいの。入らないから選考になったけど」


「そうだろうな。目の前でお前を見る事ができるなら、行きたがなねぇ魔法具技師はいねぇだろ」


「ふみゅ。それのための魔法具はすぐに用意できたのに。やっぱり、発表会はむじゅかちいの」


 試験用に、魔法具技師達は、一個魔法具を作っていかなければならない。それについては、エンジェリアは簡単に作る事ができた。


「ぷみゅぅ。ゼロに手伝ってもらいながらがんばる」


「えー、僕も仲間入れてよ……拗ねようかな? 」


 休養中で自室にいたはずのフォルの声と共に、エンジェリアは背後から抱きしめられた。


「ぷにゃ⁉︎ 拗ねるのはだめなの。拗ねるのは反対。フォルもお手伝いするの。忙しくないならお手伝いするの。エレ、フォルが一緒だと嬉しい。とっても嬉しいエレなの」


 フォルが拗ねないようにと、エンジェリアは、慌ててそう言った。


「うん。いっぱい手伝う。予算とかも、得意だから任せてくれて良いよ。欲しい素材があれば、予算内で全て用意してあげる」


「簡単そうに言うな」


「簡単だよ。普段やってる事だから。経費内に抑えないといけないからって色々と考えて買ってるんだ」


 あまりに経費が高すぎて、しかも、必要以上のものばかりを選んでいると経費申請が降りなかったという話は、フォルから良く聞いている。


「ふみゅ。なら予算はフォルに頼むの。素材はまだ決まってないから待って。設計図の相談係もフォルに頼むの」


 エンジェリアがそう言うと、ゼーシェリオンが、驚きのポーズをとり、瞳に涙を溜めてエンジェリアの腕に抱きついた。


「俺も、俺も」


「エレのお世話は永久的にゼロ担当なの。魔法具の製作中は特にお世話が必要になるから、よろしくなの」


 エンジェリアがそう言っただけで、ゼーシェリオンが、嬉しそうな表情で頷いた。


「ふみゅ。ちょろなの。でもそこが可愛い。らぶってなる。フォル、エレは新しい魔法具を作らないとなの。だから、完成まで何度も試しで作らないといけないからそっちのお手伝いもよろしくなの」


「うん。任せて」


「……つぅか、良いのか? 神獣の事ほっといて」

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