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1話 試験官の発表


 少し遡り、エンジェリア達が、神獣の聖地からエクリシェへ帰ってきた日。


 エンジェリア達は、エクリシェにいる神獣達とアディとイヴィで集まっていた。


「……そんなに被害者が」


「うん。この後の事だけど、すぐにすぐ手出しはできなくて。ロジェが早くどうにかしたいのは分かってるけど、全てを公に出すとなれば、混乱を招くから」


 今まで信じてきたものが全て嘘だと知られるだけでなく、今までの体制すら崩される場所もあるだろう。


 その際に起こる混乱を最小限にするための準備もそうだが、何より、フォルが懸念しているのはエンジェリアの安全だろう。


「待つのは良いけど、条件がある。また、契約して欲しい。僕から落ち着いた後に言おうと思ったけど、こんな条件で言う事しか、できなくて」


「うん。喜んで。ありがと、ロジェ。僕の元に戻ってきてくれて」


 フォルとローシェジェラが契約している間に、エンジェリアは、イールグに抱きついた。


「……(くんくん)……ふみゅ」


「エレ? 甘えたいのか? 」


「ううん……うんかも。エレ、ずっと、ずっと、不安だったの。もう……」


 エンジェリアにとって、世界は大切な存在。その世界の声が、減って、もう話せないと不安になっていた。


 今までは、それを隠していたが、イールグが世界の一人であると仮説を出し、実際に確認し、その不安が涙となって出てきた。


「ルーにぃはエレを甘やかさないとなの。エレの事、守ってくれないとなの」


「エレ、ルーにぃが困るから離れろ」


「やなの! 」


「……寂しかったのか? 今日は気が済むまで一緒にいてやる」


 イールグがそう言って、エンジェリアの頭を撫でた。


「ぷにゅ。ゼロ、エレが言っていたのお話するの。エレは、ぎゅぅだから」


「僕が説明するよ。ルー、エレの話だと、君は、エレを愛姫と選んだ世界の一人らしいんだ。エレの言う世界は、いくつかの意思。君はその一人で、記憶を消して身体を持った」


「ふみゅ。だから、ルーにぃはエレのだいすきな一人なの。だいすきで、大切で」


 エンジェリアが泣きながら言っていると、イールグからクッキーをもらった。


「これでも食べて落ち着け」


「ありがと」


 エンジェリアは、イールグからもらったクッキーを食べる。


「世界の意思か。知ったところで何も変わらないが、知れた事は喜ぶべき事だろう」


「そうだね。君が世界の意思であろうと、僕の初めての友人である事は変わらない」


「ぷにゃ⁉︎ 魔法具技師協会の発表来たの! 」


 エンジェリアは、連絡魔法具にメッセージが届き確認すると、魔法具技師協会からだった。


 エンジェリアが待っていた、発表会の日程とお題。


「ぷにゅ……ね、ねぇ、これ、エレ、これやりたい」


「ちょうど良いかも知れないね。あの発表会なら、有名な商人とかも来ている。それ以外にもね。利用しない手はない。できるだけ興味を持たれるような魔法具を作れば、向こうから声をかけてくれる」


「ノヴェも誘ってみよう。魔法具技師協会所属だからな」


「うん。なら、ルーはノヴェを手伝うとして、エルグにぃ様もノヴェを手伝ってあげなよ。ロジェとルナも頼める? 」


 エンジェリアは魔法具設計師であり、フィルに魔法具を製作してもらう。だが、ノーヴェイズは、全て一人でやっている。


 期間内に間に合わすためにも、手伝いを増やした方が良いのだろう。


「うん。ノーヴェイズは、ピュオの大事な人だから、手伝いたい」


「よろしいですわ。あの秀才魔法具技師の魔法具製作をを間近で見られるなんて、そうそうありませんわ」


「ありがと。エレは」


「フィルがいるから大丈夫なの。でも、情報交換とかしたい。お話して色々案を出し合う事で、お互いに魔法具を思いつく事ができると思うから。エレはそれだけで良いの」


 エンジェリアは、魔法具技師免許の試験管としての魔法具も製作しなければならない。何日も徹夜になる可能性があるため、誰かをそれに巻き込みたくはない。


 というのもあるが、この時は、このお題の魔法具を簡単に設計できるだろうと思っていた。自分があんなにも悩むとは想像もしていなかった。


「そう? もし何かあったら教えて。いつでも手伝うから」


「ふみゅ」


      **********


「って事になったの」


「神獣の事を完全にほっといて良いかどうかの話してねぇだろ」


 エンジェリアが、魔法具の発表会の話をし出し、神獣達の件はこれ以上話がなかった。ゼーシェリオンが気になっているのはそこのようだ。


「そこは大丈夫だよ。常に情報だけは入ってくるようにしてあるから。リリフィンとヨージェアナに頼んでおいた」


「流石はフォルなの。準備が良いの」


「うん。という事だから、エレは発表会に集中して良いよ。その前に試験があるけど、エレなら大丈夫だよ」


「ふみゅ。一緒にがんばるの」


 エンジェリアは、その情報を持っているため知っているが、ゼーシェリオンは、一緒という言葉に疑問を持っているだろう。


「ふっふっふ、聞いて喜ぶが良いの。今回の試験の試験管は、エレとフォルとフィルなの」


「……悲報。魔法具技師免許の試験の試験管が全員知人だった」


「なんで悲報なの! 朗報なの! 良い事なの! 」


「今回試験受ける人が可哀想」


 ゼーシェリオンが、ボソッとそう呟いた。


 エンジェリアは、それには否定できない。


 エンジェリアとフォルとフィルが試験管という回は必ず、最難関試験となる。


 魔法具技師免許の試験の筆記と実技の三種の試験のうち、最難関試験での合格者は極めて少ない。


 上、中、下と試験管達は、試験を分けているが、それぞれの合格率はこうだ。


 筆記試験

 下、九割。

 中、七割。

 上、三割。


 実技試験

 下、八割。

 中、五割。

 上、一割以下。


 最難関の上がきた回は、捨て試験とすら言われている。そこで合格すれば、魔法具技師界の伝説とも呼ばれる。


「可哀想なのは否定しないの。でも、エレ達って事で、その覚悟を持った人のみが受けるから大丈夫なの。昔はそうじゃなかったけど、エレ達が有名になって、最難関試験はエレ達に任せる事で、試験管がエレ達だからって覚悟を持ってくるの」


 エンジェリア達、最難関試験突破組が試験管となる事で、受験希望者にその事実を知らせる。それでもくる猛者は、それだけの覚悟持ちか、免許所持者で、最難関を突破して免許の皆伝をしたい者のみだろう。


「むしろ、それを知らずに最難関受けたエレ達が可哀想なの」


「そうだな」


「最難関受けるとエレを生で見れるっていうのもあって人気なのは、エレ本人は知ってそうにないね」


「でも、それだけで来る人はいないの。ちゃんと本気で魔法具技師免許を取りたい人だけなの。だからエレも、ちゃんと向き合ってあげるの」


 エンジェリアは、受験者一人一人に向き合っている。それも人気の理由だが、エンジェリアがそれを自覚してはいない。


「エレにアドバイスをもらったら次の試験に余裕で合格したって人が後を立たないの知ってる? エレのアドバイスをもらって次を受けようとした人達で、中と下の合格率が大幅に上がっているのも」


「エレのアドバイスが難しくて挫けるらしいから、最難関受ける覚悟より、エレのアドバイスをもらう覚悟の方が重要そうだな」


「エレは優しいアドバイスしてるつもりなのに……」


「優しいには優しいが、意味不明な事ばかり言っているとしか思えねぇのが大半だろ」


「ぷにゅぅ。ふみゃ⁉︎ これどうかな? 今思いついたの。ちょっと描いてみるから待ってて。すぐに描くから」


 エンジェリアは、ゼーシェリオンとフォルと話していて、魔法具の設計図を思いついた。


 思いついた設計図を描く。


「ぷにゅ? なんか違う気がするの? 」


 こういう事も少なくはない。思い描いた設計図と描いている設計図が違う。


 そうなると、一度手を止めて、どこが違うか考える。


「……ここかも……ふみゅ。これなの」


 エンジェリアは、思いついた設計図を描き終えた。

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