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3話 魔法具技師ライバル


 お使いから帰ったエンジェリアは、フィルに素材を渡してきた。


 フィルから呼ばれるまでの間は、何もする事がなく、すぐに自室へ戻り、ゼーシェリオンと話していると、ノーヴェイズが部屋を訪れた。


 ノーヴェイズは、エンジェリアが見ても分かるほど悩んでいる様子。魔法具が上手くできていないのだろう。


 ゼーシェリオンが、紅茶を淹れてくれている間に、エンジェリアは、設計図帳を準備した。


「ノヴェにぃのために、リラックス効果と、頭がすっきりするようなのを選んでみた」


「ありがとう」


「ふみゅ。何に悩んでるの? 」


「……それが」


      **********


 ノーヴェイズが、悩みをエンジェリアに打ち明けた。


 どうやら、ノーヴェイズも新しいという部分で躓いているようだ。


 エンジェリアは、設計図帳をベッドの上に置き、設計図が描いてある紙をいくつか持ってきた。


「ノヴェにぃの助けになるか分かんないけど、エレが精一杯お手伝いするの。そのためにもまずは、起点に帰る事が重要だと思うの。ノヴェにぃ、魔法具は、便利な世界になるために作られているの。始まりは、一つの連絡魔法具。そこから始まって、今では、こんなにも多くの魔法具が生み出されている」


 記憶にはないが、知識としては知っている。これも、エンジェリア達が持つ、崩壊の書の記述だ。


 魔法具の始まりとなった出来事は、遠くへいても会話ができるようにするため。それが始まりだ。


 それから、魔力を使い続けなくとも使える道具を開発して、様々な面で用いろうと、魔法具は増えていった。


 その始まりが、愛姫と生命の双子と記述されている。


 その始まりの一人であるエンジェリアは、記憶がなくとも、魔法具を作った時の想いだけは、身体が覚えているのだろう。


 楽しさの中に真剣さを秘めた表情で、ノーヴェイズを見て話す。


「何もない状態で始めた連絡魔法具の製作は、新しいもの。知らない事ばかりだったと思うの。それでも、いつでも連絡したいとか、それを作る事で得られるものを想像しながら、楽しく作ったんだと思うの。だから、エレは、それを習って、魔法具の設計は、どうしたいかから考えるの」


「どうしたいか? ……便利にしたい。それに、発表会で何ていうのは、きっとエレの言っているのと違うんだよね」


「ふみゅ。ないからあるにしたい。それが必要だと考えているの。エレは、魔法具が市販だと長持ちしないっていうのを買えたくて、予算や技術力を低くして、誰でも作れるようにを心がけているの。ノヴェにぃは、エレよりも色々知ってるから、まずは、不便を考えて、原因を知るもできると思うの」


 エンジェリアは、そう言って、ノートとペンを取り出した。


「って事で、エレと一緒に、今の魔法具のここが便利ここが不便。もっとこうすれば良いのに。こういうのが欲しいのにをいっぱい考えるの」


「……うーん……あっ⁉︎ 植物に水を与える魔法具が、広範囲だと自分にかかって、狭いと時間がかかる。広範囲で、自分がびしょ濡れにならない魔法具が欲しい」


「ふみゅふみゅ。早速見つかったの。それで良いと思うの。お次は、それをするためにはどうすれば良いかを考えるの」


 エンジェリアは、ノーヴェイズが言った事をノートに書いた。このノートは、ノーヴェイズに渡すためのもの。できるだけ丁寧な字で書く。


「……エレ、俺が代わる」


「ふにゅ」


 ゼーシェリオンが、エンジェリアのやりたい事に気づいたのだろう。代わりにノートに書いてくれる。


「今の水撒き用の魔法具の設計図はこれなの。設計図ノート便利。こうやって、用途ごとにまとめているんだ。自分が興味あるのだけだけど」


 エンジェリアは、参考になればと、水撒き用の魔法具の設計図をまとめたノートを、ノーヴェイズに渡した。


「……今の魔法具は、中心からだから、前方に」


「それはとっても良い考えだと思うの。でも、そうしたら、手前の植物にはお水さん届かないかもしれないの。それに、中心からよりも、範囲が狭くなる」


「そうなんだよ。俺も、そこは考えたけど、それ以上を見つけられなくて」


「……エレは、他の魔法を合わせるの。エレの意見だけど、結界魔法とか。魔法具技師免許の最難関試験の応用」


 エンジェリアが考えた魔法具が、現状可能な技術で一番広範囲に水を撒く事ができるだろう。


 しかも、水に濡れる心配もない。


 答えはノーヴェイズに委ねる。


「おうよ……結界の範囲内に空中から雨のように水を降らす! 結界の境界線に、魔法具を設置していれば、濡れる事もなく、従来の魔法具を超える範囲に水を撒ける。エレ、初めからこれを思いついていてた? 」


「ふみゅ。ノヴェがこれを選んだ時に。エレがやらないのは、エレだと、またフォルに世に出せないものだって言われそうだから。水の自動化とか色々とやって」


「……エレ、お前それ体験談だろ。その魔法具があるんだが」


 ゼーシェリオンが、エンジェリアの魔法具置き場から、魔法具を取り出した。


「良く分かったの。その通りなの。自動化と人認知をとれば、フォルも許可してくれたんだろうけど、エレにはできなかったの」


「……とりあえず、参考資料として、形だけ描いておくか。ノヴェにぃなら、これだけ描いておけば作れるだろ」


「ありがとう、エレ。ゼロも。新しいというのじゃないけど、参考になった」


「……それは違うの。ノヴェにぃが作る魔法具は新しいの! ノヴェにぃは、これに今までのノヴェにぃの知識や経験も入って、エレには作れない全く新しい魔法具になるの! エレはそのためのお手伝いを今日しただけ。だから、もっと自信もって、この魔法具を作って! 」


 エンジェリアは、ノーヴェイズの事を心から尊敬している。憧れを抱いている。


 ノーヴェイズが作った世界管理システム。エンジェリアは、あれを真似する事などできない。あれは、ノーヴェイズだからこそできたものだ。


 今回の魔法具もきっと、ノーヴェイズが、今日の会話を参考に新しい魔法具を作り出す。エンジェリアでは真似できないような、最高の魔法具を作り出す。


 少なくとも、エンジェリアはそう信じている。


 だからこそ、その作品と向き合う前には、これが新しいのだと、もっと自信を持って臨んで欲しい。


 エンジェリアは、ノーヴェイズに、あるノートを一緒に渡した。


「これ、エレがノヴェにぃの魔法具がどれだけすごいか、真似できないか、いっぱい書いてあるの。だから、これを見て、またエレをびっくりさせる魔法具を作って。エレも、発表会で、フィルと一緒にノヴェにぃをびっくりさせてあげるから」


「……俺の魔法具でエレをびっくりさせられるのかな」


「俺は、魔法具にそこまで詳しくねぇが、エレもフィルも、ノヴェにぃの魔法具を宝物にしている。こんな魔法具を作れる人なんて他にいないとか言って。だから、そんな謙遜しなくて良いだろ。エレとフィル相手で、自分が眩んでいるとでも思ってんだろうが、十分すぎるほど輝いてるから」


 ゼーシェリオンが、そう言うと、エンジェリアは、こくこくと頷いた。


「……うん。ごめん、せっかくそんなに認めてもらっているのに、これは、エレとフィルに失礼だね。発表会、エレとフィルの魔法具よりも注目を集める魔法具を作る。魔法具は、便利を求めるものだから、優劣なんてつけたくないけど」


「ふみゅ。エレもそうなの。一生懸命作ったものに優劣なんてないの。でも、時にはそうやってお互いを高め合う事も大事だと思うの。そういうのは、お互いにお互いのいい部分と悪い部分を見るきっかけになる事もあるから」


「うん。エレの魔法具の良い部分を存分に見せてもらうよ。そして、ライバルとして負けない」


「エレもなの。ライバルとして、ノヴェにぃの魔法具をいっぱい知って、負けないの。発表会では、エレとフィルの魔法具が一番注目を浴びるの」


 エンジェリアとノーヴェイズは、互いに互いを高め合うための勝負を発表会でする事を宣言した。


「……なんか変な感じがするんだよな。何か忘れているかのような」

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