目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

4話 試作品


 エンジェリアは、ノーヴェイズとの勝負宣言を経て、より一層やる気を出していた。


「あれ? フォルは? 」


「フィルと一緒じゃねぇのか? 」


 エクリシェ商店街から帰ってきてから、フォルがいない。


 だが、いつもの事のため、そのうち帰ってくると、探しには行かなかった。


「ゼロ、発表の内容考えるの付き合って」


「ああ。それも重要だからな。どれだけ魔法具が良くても、発表が上手くできないと、注目を集めるなんてできねぇから、何度か練習もした方が良いかもしれねぇな」


「ふみゅ。まずは、魔法具のお名前を決めてあげないと。明かりを灯す魔法具じゃ、パッとしないから、もっと可愛い感じで」


 展示会ではなく発表会。当然、発表の内容も重要となる。エンジェリアは、まずは商品として売り出すためにも商品名を考える。


 多くの人々に認知されやすく、どんな商品なのかを商品名を聞いただけで分かるような。そして、可愛らしい名前。

 それが、エンジェリアが求める商品名だ。


「ふみゅぅ。あかともちゃんとか? 」


「赤色の友達か? それより、ぴかぴかちゃんはどうだ? エレ好みだと思うが」


「ぷにゅ。ちょっぴりパッと力が足りないの。それに、それだときれいでぴかぴかと間違っちゃうかも」


「……なぁ、宣伝文句みたいなの入れるのはどうだ? 例えば、朝起きて背中が痛い悩みとおさらば、ふかふかベッドみたいな」


 ただ商品名を言うだけよりも、欲しくなりそう。エンジェリアは、ゼーシェリオンの宣伝文句に購買意欲を刺激されている。


 これを活かさない手はないと、宣伝文句も一緒に考える事にした。


「従来の灯りの魔法具は、長持ちするのは高すぎて買えない。安いのを買うとすぐに消える。そんなあなたにおすすめ。このぴかぴかちゃんなら、安くて長持ち。しかも、灯りが消える前に警告があるから、突然消える心配はなし。灯りが消えても本体を買い直す必要なし。灯りを灯す部分だけの付け替えだから、とっても節約できちゃう……とか? 」


「……なんか、発表会じゃなくて、買い物番組になってんな。新しくてウケも狙えるかもしれねぇが」


「……おっきぃかちっちゃいかだけで変わんないの。今回の発表会も、自分の商品を売る場なんだから」


 売るのが、消費者ではなく、商人というだけで、商品を売る場という事には変わりないという理由で、エンジェリアは、この方法を突き通そうとしている。


「……俺は止めねぇから安心しろ。むしろ、面白そうだから、とことん付き合ってやる」


 悪ノリしているゼーシェリオンが、エンジェリアを止めない。


「ふみゅ。エレは、今回はぱっと見ですごいってならないかもしれないから、こうやって、みんなに欲しいって思ってもらうの。ちょっぴり発表会と違うって思っても、これでやり切るの」


「ああ。フォルにも一緒に聞いて欲しかったが、来ないから、発表会でびっくりさせてやれ。魔法具技師免許の方も忘れんなよ」


「ふみゅ。明日は準備に行かないと。お泊まりだから、ゼロとは一日離れちゃう。寂しいから、今日は一日中一緒なの」


 魔法具技師免許の試験は、前日に泊まり込みで試験管が準備をしなければならない。

 試験管以外は、前日に会場へ入るのは許可されていない。受験者は、前日から当日まで、会場周辺を訪れる事はできない。


 エンジェリアは、ゼーシェリオンに前日から当日まで会う事ができない。その寂しさを埋めるためにも、エンジェリアは、今日一日、ゼーシェリオンを堪能する。


 まずは、ゼーシェリオンの膝に頭を乗せて寝転ぶ。


「フィルから連絡なの。試作品できたって。ゼロ、一緒に確認しに行こ」


「ああ」


 フィルからメッセージが届き、エンジェリアは、ゼーシェリオンを連れて、フィルの部屋へ向った。


      **********


 フィルの部屋へ向かうと、エンジェリアは、目を輝かせて、魔法具を見つめた。


 低予算、短時間、低技術。まずは、そこをクリアしている。だが、この後、実際に使ってみた後の事が一番重要だ。


「フィル、つけて、つけて」


「うん」


 部屋を暗くし、フィルに試作品を起動してもらう。


 灯りは、広い部屋を十分に照らしてくれている。不具合は見られない。


 これならば、製品として販売しても問題はないだろう。


 だが、エンジェリアが求めているのは、ここからだ。どれだけ持つか。これを一番重要視している。


「時魔法を使えば、どれくらい持つか分かると思う。やってみる? 」


「みゅ。お願いなの」


 エンジェリアが頼むと、フィルが時魔法を使った。少しずつ、試作品の時間を進めていく。


 大体、五十年くらいだろう。試作品が機能しなくなった。


「……五十年……ぷにゅ。まずまずなの。ゼロ、従来の魔法具はどれくらい? 」


「持って十年だ。平均的に三年」


「……それなら、良いと思うけど、なんだか満足しないの。でも、これ以上は時間もないから……ぷにゅぅ。仕方ないの……みゅ? これ……ふみゅ。これは満足なの。そういえば、付け替えればまた使えるの忘れてた」


 エンジェリアは、試作品に満足した。この魔法具であれば、自信を持って、発表会に臨めるだろう。


 後は、大勢の前で、エンジェリアが発表できるように練習を重ねるだけ。


 魔法具の発表自体は、それでどうにかなるだろう。


 だが、問題はこの後だ。発表した魔法具をその場で、商会と契約する時間がある。エンジェリアは、そこで、大規模な商会の商人に目をつけてもらい、契約をとるまでが目標だ。


 商会の中には、商いの知識は少ない魔法具技師を利用するかのような、商会もある。そういう商会に引っかからないようにするのもエンジェリア達のやる事だ。


 エンジェリアは、ゼーシェリオンとフィルがいるが、エンジェリア自身もある程度は契約の話をできるようにしなければならない。

 最低でも、商会に騙されなくなるくらいには知識をつけておいた方が良いだろう。


「商いの勉強が一番大変なの。全然分かんない」


「エレは騙されないようになっておけば良いだろ。エレが騙されれば、顔に出るから」


「ふみゅ。騙されないの……どうやって騙されないようにすれば良いか分かんないけど騙されないの」


 エンジェリアは、騙されない極意がないか、フィルの部屋の本で探す。だが、そんな本は見つからない。


「……とりあえず、顔に出さずに、古代語喋りまくれば良いんじゃねぇのか? 俺らにしか伝わらないように」


「その手があったの。それなら、お勉強は必要ないからそうするの。でも、その前に、エレは聞く権利があると思うの。このぴかぴかちゃんの契約金をいくらにするか」


「契約金って……どこでそんな事覚えたんだ? 魔法具は、売上の五パーが妥当らしいからな。それで良いだろ」


「ぷにゅ。分かったの。エレは、みんなのためにも、がんばってとっても大きい商会に欲しいって思ってもらうの」


 エンジェリアは、そう言って、ゼーシェリオンに抱きついた。


「だから、褒めて。そうなったら褒めて。がんばるから」


「ああ。そうなったら褒めてやる。つっても、エレとフィルの場合、そうならねぇ方が珍しいんだが」


「欲しい魔法具じゃないと、商会が目をつけてくれない。こればかりは運次第だ」


 エンジェリアとフィルは、何度か大規模の発表会を経験している。そこで、商会の欲しいと思う魔法具でなければ、どれだけ良い魔法具でも、契約をするのが難しいという事を知った。


 だが、商会がどんな魔法具を求めてきているのか、それを知る事ができない。


 その時は欲しいと思ってはいなくとも、発表を聞いて欲しいと思う事はかなり稀だ。


 発表会での契約は、運要素が大きい。


「エレ、発表会用に魔法具を製作するから見ておいて。発表にどれだけ低技術なのかを紹介するのに使えるから」


「ぷにゅ」


 エンジェリアは、メモ帳を手に取り、フィルの魔法具製作を、見守った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?