目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

5話 試験準備


 魔法具技師免許試験前日。


 エンジェリアは、試験会場を訪れていた。


「フォル、昨日いなくて寂しかったの」


「ごめん。昨日は、試験の魔法具を準備していて」


 魔法具技師免許試験では、試験管全員が魔法具を用意しなければならない。それの準備であれば、会えなくとも仕方がない事だろう。


 エンジェリアは、机と椅子を並べる。試験会場には、机も椅子も人数分試験管が用意しなければならない。


「エレ、受験者の名簿を作ったから、確認よろしく」


「ふみゅ。エレは力仕事が苦手だからそっちの方が良いの」


 エンジェリアは、フィルから名簿と受付票をもらい、名簿の確認をする。


「フォル、最難関試験の準備どうする? 」


「あのお題は、ちょうど良い場所を作らないとだから時間がかかるんだよね」


「ふみゅ。素材はいっぱいあるんだけど、それを隠す事とか、大変なの」


 素材はかなりの量がある。それを全て隠すのは、時間がかかる。他の作業もある中で、素材隠しもとなると、一日では足りないのではと思いたくなる。


「フォル、こっちは良いから、素材隠しをお願いなの。エレも終わったらそっち行くから」


「うん」


 フォルに素材隠しを任せ、エンジェリアは、急ぎめで名簿確認を進める。


「フィル、机の数二つ足りない」


「分かった」


「愛姫様、手伝いに参りました」


「わたくしも、免許は所持してるので、手伝いといたしましょう」


 エンジェリア達が準備していると、イヴィと、ジェルドの王の一人、オジュフォーレが手伝いに来た。


 免許を持っているのであれば、手伝う事は可能だ。明日のために、やる事を済ませておこうと、忙しく、手伝いに来れない魔法具技師達は多いが。


「ぷにゅぅ。とっても助かるの。じゃあ、素材隠しを頼みたいの。フォルがやっているから、行けば分かると思うの」


「……エレは、オジュフォーレと変わって。オジュフォーレは、名簿終わったら、テストの確認とかして欲しいから」


「……ぷにゅ。適材適所なの。イヴィ、一緒に行こ」


 フィルが、エンジェリアよりもオジュフォーレに任せた方が適任だと判断したのだろう。エンジェリアは、その判断に任せ、オジュフォーレに名簿を渡し、実技会場へ向った。


      **********


 実技会場は、魔物が出てもおかしくはない森の中だ。


 森には天然の素材も多い。だが、その素材だけでは、魔法具を作れないと言う受験者も出てくるだろう。その時のために、素材を隠しておく。


 これは救済処置のようなものだ。


 隠す素材は全て、魔法具の素材としては有名なものばかり。この森に自然と存在している素材のほとんどは、魔法具の素材としてどころか、その素材自体の認知度が低い。


 全て、自然の素材だけで魔法具を作る事ができれば、合格間違いなしだが、そんな受験者はわずかだ。


「隠すのは……適当に隠しておけば良いの。エレはお菓子を隠すのが上手だから簡単に見つからないと思うの」


「……フォルも大変ですね。毎度あの手この手で隠れて、お菓子を食べようとする愛姫様とゼロを見つけるのは」


 エンジェリアは、お菓子をフォルから隠していると考えながら素材を隠している。


 隣で、イヴィが、風魔法を駆使して、素材を隠していた。


「それ便利なの。でも、どこに飛ぶか分かるの? 」


「会場内とだけ。私は分かりますが、答えを言ったらつまらないでしょう」


「それはそうなの……この風の威力からして……今の素材は、あっちの洞窟付近なの」


 エンジェリアは、イヴィの風魔法の威力を計算し、どの辺に落ちるか予測した。


 それを聞いたイヴィが、目を細める。


「正解です。さすがは愛姫様です。魔法に関する事でしたら、もう、愛姫様に敵わないかもしれませんね」


「エレはそうは思わないの。魔法具なら負けないかもだけど」


 エンジェリアとイヴィは、会話しながらも、素材を隠しているが、素材は減らない。


「エレ、この前のお礼にきたよ」


「最難関試験の準備は大勢でやらないと終わらないからな。エルグも行きたがっていたが、あいにく仕事が忙しいようで、応援していると伝言だけ貰ってきた」


 イールグとノーヴェイズが、手伝いに来た。


「ノーヴェイズ殿、魔法具は順調ですか? 」


「はい。エレがいるから、何をとは言えませんが、手伝ってくださり感謝しております」


「いえ。我々はもう、仲間ではありませんか……今の時代は友人と言うのでしょうか? なので、助け合うのが当然かと。それに、そんなに堅苦しくならずとも、いつも通りのノーヴェイズ殿を見せてください」


 イヴィがそう言って、ノーヴェイズに、右手を差し出した。


「はい……うん。俺も、イヴィが、何かあったら、助けるから、遠慮なく言って」


 そう言って、ノーヴェイズが、イヴィの右手を握った。


 ここ数日でかなり仲が良くなっているのだろうと、エンジェリアは微笑ましく、二人が握手を交わす姿を見ていた。


「素材隠しの後に、見回りとか、魔物避けとか色々やらないとだけど、みんなで一緒ならすぐに終わるの」


「そう言うなら手を動かしてくれる? 僕の可愛いお姫様」


「ふにゅ。フォルがやきもちだからエレはフォルと一緒に手を動かしに行くの。ルーにぃもきて」


「ルー、エレが迷子にならないように二人がかりで監視したいから一緒に来て」


 今までは、フォルが一人で行動し、エンジェリアとイヴィが、二人で一緒に行動していた。


 だが、人数が増えた事と、フォルの機嫌を取りで、フエンジェリアとフォルとイールグ。ノーヴェイズとイヴィで行動する事となった。


      **********


 かなり隠しているが、まだ半分しか終わっていない。


「こんなに必要だと思えないの。もっと少なくて良いと思うの」


 受験者に対して、素材の量が明らかに多すぎる。今までは、それについて何も言わなかったが、中々終わらず、とうとうそれを口にした。


「それは僕も思っていたけど、一人の量が分からないから、これくらい用意するのが規定でしょ」


「それはそうだけど……そもそも、自然に素材あるんだから、それで良いとエレは思うの。がんばってあと半分もやるけど。どうしてわざわざこんな事するんだろう」


 これでは、勘違いする受験者も出てきそうだ。


「知識があって話を聞いていれば勘違いはしない。実技に技術以外はいらないわけじゃないから」


「エレは、勘違いが可哀想と思うのだろう。だが、これも試験だ」


「……これも試験……ふにゅ」


 受験者を騙すのは気が引けるが、これが試験であれば、受験者が、この最難関を合格するに値するのかを判断するためにも必要なものなのだろう。


 エンジェリアは、そう思う事にした。


「それより、明日、どうする? 試験始まる前に時間あるけど」


「当然、魔法具技師協会には顔を出すの。それに調合協会の方にも」


 試験会場は、少し離れた場所にあるが、ここは、技術者達の場所。


 様々な分野の技術者達がこの場所に集う。職人街ホベイード。


 エンジェリア達の宿も、職人街の中にある。


 エンジェリア達が、試験管を喜んで引き受けるのは、職人街に無償で泊まれるという理由が大きい。この機会を逃さぬよう、計画を立てておく。


「お洋服を見るのも良いと思うの。それに、お昼ご飯のために、美味しいご飯を買っておくの。可哀想だからゼロの分も」


「うん。そうだね。頑張って試験受けてるから、そのくらいはしてあげないと。明日は、デザートも買ってあげようかな。溶けないアイスをゼロに買ってあげて、エレにはフルーツタルトを買ってあげる」


「フルーツタルト⁉︎ ありがとなの。フォルだいすき。ルーにぃは、明日どうするの? 見学で、エレ達と同じくらいしか時間取れないと思うけど」


 イールグ達は、エンジェリア達の推薦枠で、明日の試験の見学に参加している。試験中は、自由に出歩く事ができないため、エンジェリア達試験管と同じくらいの時間しか取れないだろう。


「俺は、イヴィに着いていく約束だ」


「ふみゅ。じゃあ、エレがノヴェにぃもらっちゃおっと」


「良いね。ノヴェの魔法具の話とか聞きたいから」


 エンジェリア達は、会話しながらやっていると、いつの間にか、素材がなくなっていた。


 これで、一番の重作業は終わったで良いだろう。だが、まだ見回り等残っている。準備が終わるのは、まだ先になるだろう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?