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6話 試験準備終了


 エンジェリア達は、素材がなくなったのを確認し、そのまま、見回りを始めた。


「いじょぉないなの」


「そこは異常なしなのではないか? 」


「……いじょぉなしなの」


 エンジェリアは、魔物がいない事を確認し、元気良くフォルに報告した。


「うん。異常なし。なわけないから。目の前に魔物いるのに良く言えたね」


 エンジェリアにとっては、危険性のない魔物。気にせずに見回りを終えようとしていた。だが、フォルが言うからと、仕方がなく討伐をする事にする。


「じょぉか、じょぉかなの」


 エンジェリアは、めんどくさいのを隠さず、浄化魔法を使った。


「これで良いの。これで見回り終了なの。と言うか、エレは疲れたから、ゆっくり休むのをよぉきゅうする」


 エンジェリアは、魔物を浄化すると、その場に座った。これ以上は歩きたくないという意思表示を行動でする。


 フォルが動かそうとするが、エンジェリアは、絶対に動かないを貫く。


「エレ、宿まで頑張って。休んで良いから。宿に行ったら」


「……じぃー……フォルが嘘をついている可能性……あるの。フォルはきっと、そう言ってエレを働かそうとしているの」


「なんでそうなるの。騙してないから。今回は」


 フォルが、困った表情で、そう答えた。


 エンジェリアは、その言葉を信じて良いのか、しばらく考える。


「エレ、ここだと汚れるだろう。エレの可愛い服が可愛くなくなるから、宿まで行ってくれないか? 」


「ルーにぃまで……これは嘘じゃないのかもしれない。本当かもしれないけど……けど……エレは……エレは……もう歩きたくないのー! 」


「……はぁ。ほんとに手のかかる子だよ。好きだからってついこうやって甘やかすけど」


「ぷにゃ」


 エンジェリアは、フォルに抱っこしてもらえた。これならば、宿まで歩く必要はない。


「甘やかしたくなるのは理解できるが、この距離なら歩かせた方が」


「歩かせたら泣くかも。エレが泣いたら、魔物呼び寄せるから。それに、明日頑張るから、このくらいは甘やかしてあげないと。恋人特権でもあるからね」


「……恋人……恋人……なの! 」


 エンジェリアは、フォルの恋人発言に大喜びで、フォルの胸に顔を擦り寄せた。


「……フォル、あまり喜ばせない方が」


「それは僕も分かってるんだけど……これで呼び寄せる魔物はもう諦めるしかないかなって」


 エンジェリアは、感情と魔力を切り離せていない。エンジェリアの魔力は、魔物を引き寄せる。


 エンジェリアは、喜びと同時に、無意識に魔力を放出していた。その魔力を探知した魔物がエンジェリアを襲いに集まってくる。


「ぷにゃ⁉︎ 」


「……ここなら良いか。職人街から近いからね」


 フォルの瞳が黄金に変わった。


 魔物が後退る。


 エンジェリアが見える範囲の魔物から、花が咲いた。恐らく、エンジェリアが見えていないが、この試験会場にいる魔物全てにだろう。


 花がどんどん魔物の身体に増えていく。


 魔物は、花が増える度に浄化されている。


 花が魔物を多い尽くすと、魔物は完全に浄化された。その魔物から、一輪の花が生まれる。


 その花は、薄紅色の美しくも儚い花。


「たまにはこのまま過ごすか。これだけなら負担も少ないから、エレも心配しないでしょ」


「すき……じゃなくて、フォルがどうしてもっていうなら、エレはそれでも良いよって言ってあげるの。でも、やっぱちょっぴりやがある……」


「嫉妬? それは嬉しいなぁ。他の誰でもない、君が嫉妬なんて」


「エレだってそのくらいするの。こうなったら、フォルに大量プレゼント作戦で、エレ以外は見れなくしちゃうの。プレゼント邪魔してもらって」


 プレゼントの山を作り、物理的にエンジェリアの側から離れさせなくする作戦を立てる。


「そんな事しなくても、僕は君だけのものだよ。他の誰かなんて見ない。これで良いかな? 」


「……なら、演技で塗り固められてないフォルを見せて欲しいの。可愛い方でも、黒い方でも」


「両方断りたいんだけど。でも、二人っきりの時に少しずつ。あまりフィルに心配ばかりかけているわけにもいかないから」


 エンジェリア達、ジェルドの王達が知っているフォルの秘密。


 エンジェリアですら、それを見るのはかなり貴重だと感じている。


「みゅにゃ。そういえば」


 エンジェリアは、魔物に襲われないよう、これ以上魔力を放出しないよう、景色を見る事にした。


「……調合師免許取る時を思い出すの。あれはむじゅかちかった」


 職人街で試験をする免許は、基本的に試験会場が同じだ。会場を眺めて、調合師免許試験を思い出すの事もあるだろう。


「ああ、あの実技か。あれは面白かったよ。限りある素材で、誰も見た事ないような調合するの」


「そういう試験じゃなかったと思うの。エレも既存の調合しなかったけど」


 エンジェリアの場合は、既存の調合で薬を作る事ができず、仕方なくやっただけだ。それを面白がってなどいない。


 エンジェリアは、楽しそうなフォルを見て、これ以上何かを言う気はない。


「でも、そのくらいしないと満点合格はできないって噂だよ? 確か、ルーも満点だったよね? 」


「そうだな。これも、オルベア様の教育のおかげだろう」


「そうじゃないと思うけど」


「ぷにゃ⁉︎ なんだかあまあまチャンスが到来していた予感! 」


 エンジェリアの甘えチャンスアンテナが反応している。過去形だが、反応している。


 エンジェリアは、甘えチャンスが何か考え、甘えようとするが、この会話の中で甘えチャンスなど思いつかない。


「……エレ、過去形ならもう遅いよ。まぁ、僕はいつでも甘やかしてあげるけど」


「もうすでに甘やかしているだろう」


「ぷにゅ。これは魔物センサーだったかも。それとか、危険人物センサー」


 エンジェリアのアンテナは、一つしかなく、詳細は確認できないのか、何に反応していたのか定かではない。エンジェリアが、甘えチャンスと勝手に思っているだけで、他の可能性もある。


「……ぷにゅぅ。分かんないの。エレのセンサーは、そんなに良くないの」


「……危険人物センサーじゃない? エレ、早く宿に戻ろう」


「ぴゅにゃ? 」


「エクシェフィーの御巫の訪問日だ」


 神獣が唯一本物と認めているエクシェフィーの御巫夫婦。


 エクシェフィーの御巫夫婦は、定期的に各所を訪問している。その予定は、一般市民には知らされない。


 エクシェフィーの御巫夫婦が、訪問する日は、必ず多くの神獣達が護衛として付いてきている。その神獣達にエンジェリアは、会わない方が良いだろう。


「ぷにゅ、訪問……エレはひっそり暮らさないとなの」


「本来なら君は、こんなふうに暮らさなくても良いのにね。できるだけ早くどうにかしたいけど……ごめん」


「フォルが謝らなくて良いの。エレはフォルがいてくれるから、ひっそりでも我慢できるの。でも、ベッドだけは高級が良い。ねむねむさんは、高級なふかふかさんじゃないとだから」


 最も良い睡眠を取るには、高級なふかふかベッドでゆっくりと眠る事。それがエンジェリアの持論だ。


「……ぷにゃ⁉︎ ふっふっふ、エレはとっても良いものを思いついた。世界中の、眠りの浅い朝に弱い人達よ、エレのこの魔法具ベッドにひれ伏すが良いのー」


「どうしたの急に悪役みたいな事言って」


「魔法具は、家具に取り付ける事も良いと思うの。今までにない魔法具がきっと生まれるの……新しい魔法具を考えてる時はこんなの浮かばなかったのに、考えてない時にばかり浮かぶのは謎なの」


 今までにない新しい魔法具。設計図を考えている時にこれが浮かんでいれば、発表会に出す魔法具はこれになっていただろう。


 そう都合良くいかないものだが、よりにもよって、変更してもギリギリ間に合いそうな時期にと、不機嫌になった。

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