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8.初めての魔法作成

 教室につくとみんなざわついていた。

 まあ当たり前だよな。


「おは、テレビ見たか?」

「おはよう、見たよ」

「せっかくの魔法なのに悪用するってどういう心理なんだろうな」

「気持ちはわかるよ」


 使えるなら使ってみたいのが人間の心理だ。

 それが良いものでも悪いものでも変わらない。

 俺だって透視魔法使ったし。


「だからこそ[対抗呪文]があるんだろうね」

「あれすげーよな、自動発動かつ24時間何度でも有効って」


 ニュースでやっていたけど[対抗呪文]が非常に効果的だったらしい。

 犯罪に使えそうな効果は全て打ち消されるのでいかに潜り抜けるかの抜け道探しになっているとか。


「使われたことに気づいていない時は問答無用で発動するのも強いよね」

「こっそり使っても無駄だからな」


 凶器を作り出して後ろから刺そうとしたら、当たった瞬間に消えたらしい。

 なので基本的に危害を加えることは出来ない。


「ただおかげで消費MP30の魔法が次々消えてるんだよなぁ」


 翔が嘆いているが仕方ない。

 これだけテレビで危険性と[対抗呪文]の有用性を示されたら誰だって使わないとまずいと感じる。

 しかも他にも使った方がいい魔法が出てくるかもしれない。

 例えば[真実の目]の幻覚見破りは使った方がいいだろう。(正確な効果はともかく)


「そういえば魔法の人気順のソートが出来るようになってたぞ」

「前からあったのでは?」

「ネットじゃなくて世界書の方」

「なにそれ!?」

「名前の検索欄の右の空白をタッチしてみろ」


 言われた通りに世界書を出してやってみる。

 すると新着順・人気順・消費MP順に並び変えることが出来た。

 こんな機能有ったのか!?


「話題になったのは今日だな」


 俺の顔を見てそう答える翔。

 最初からあったのか追加されたのかはわからないけどこの機能は非常に便利だ。

 スマホアプリのDLランキングとかと一緒で、人気がある=実用性があると言える。

 説明文詐欺の魔法はおそらく上位に来ないだろう。

 使いたい効果で検索し人気順でソートすれば簡単に目当ての魔法にたどり着くことが出来るんじゃないか?


 今日ニュースで紹介されていた[真実の目]は人気一位になっている。

 世界的に使われていると言っていたから当然だろう。

 他にも[炎]が人気ランキングに入っている。

 分かりやすい名前だし最初期に作られていたからかな?


「ネットのランキングなんか目じゃないな」

「むしろネットのランキングはどこも既にそれのコピーになってたぞ」

「さすがに判断が早い」


 他者に申告させて集計するよりそれを転記する方が正確で早い。

 多分そこから多少手を加えて、効果と消費MPを考慮したランキングとか作るんじゃないかな。


「あ、ランキングで見つけて思い出したけど[真実の目]は使わない方がいいかも」

「なんでだ?」

「説明文通りに作ると[幻は効かない ]って魔法になった」

「制約があるだけだろ?」

「消費MPが10倍なんだよ」

「まじか」

「そんなことになる制約が何か分からないのが怖いと思う」

「たしかにな」

「それと陽菜が怪しいって言ってたのもある」

「陽菜ちゃんがか」


 親指と人差し指でアゴをさすって考えている。

 翔が考える時の癖だ。

 翔は幼馴染なので陽菜の直感がよく当たることを知っている。


「ならやめておくか」

「それがいい」


 半減ぐらいならまだ分かるけど1/10になっているのはよほどの制約だと思う。

 なのに誰も制約があることに気づかないなんて一体何が仕込まれているのか怖い。


「藤田さん」


 返事はないけど顔を上げてこちらを見てくる。

 眉をひそめて不機嫌そうだけどいつものことなので気にしない。


「[真実の目]って魔法より[幻は効かない ]って魔法の方が良いかも」

「……そう」

「それだけ、じゃあね」


 必要なことだけ伝えて自分の席に戻る。

 今日も藤田さんの反応があったことを考えるとやっぱり興味あるんだ。

 話しかけるきっかけにする作戦は成功と言っていいな。


 席に戻ると驚いた顔の翔がいた。


「お前……すげえな……」

「え、何が?」

「いや、うん、分からないならそれでいい」


 肩をポンポンと叩かれたけど一体何だったのか。

 そのまま翔も席に戻っていった。


 授業が始まるとすぐ魔法について考える。

 人気度でソート出来るなら一度人気が取れれば安定するはず。

 安定して使われるためにはどういう魔法がいいだろうか?


 基本は消費MP1だろう。

 まず使われないと始まらない。

 ただみんなネットで自分の魔法を宣伝しているので普通に宣伝しても埋もれるだけだ。

 何か目立つ特徴がないといけない。


 学校が終わり次第すぐに帰ってきた。

 授業中じっくり考えていたのでいろいろ試したい。

 世界書を開いて魔法の作成画面を出す。


 作ろうとしているのは、光を出し続ける魔法だ。

 人間が絶対に必要とするものでわずかでも効果がある。

 これをベースにアレンジを加えていく。


「うーん、やっぱり明るく出来ないな」


 明るさと時間を調整しつつ消費MP1になる点を探す。

 時間が短ければ明るく設定できるけど実際に使ってみるとそれでも思ったより暗い。

 光源として使うのは難しそうだ。


「あえて限界に挑戦してみるか」


 ネットで蛍光塗料の明るさを調べて設定してみる。

 消費MP1で出来る限界は……30分か。やっぱり光るだけでも大変だな。

 部屋を真っ暗にして使ってみたら本当にほのかに手が光っている。


 これだと非常時に使うのは難しいよな。

 何か上手く使う方法はないものか……。

 光……光……増幅……。


 ん? こういうのはどうだろうか?

 頭に浮かんだ魔法を設定して試してみる。


「おお」


 さっき作った魔法の光が増幅して見える効果の魔法だ。

 輪郭がほのかに光るぐらいだったのが、手にスマホを持っているぐらいの明るさになった。


「ただこれだと意味ないな」


 消費MP1だと効果時間が30秒しかない。

 多分明るくする魔法と増幅する魔法は同じような扱いなんだと思う。

 ただ瞬間的な明かりに使えるのが良いかな。

 うーん、これじゃちょっと利便性が上がった程度か。

 もっといろんな人に使ってもらえる魔法にしたい。


「これ、増幅元の魔法の使用者を制限したらどうなるのかな?」


 いろいろ考えている中でふと思った。

 制約は基本的には自身に不利になるものほど効果が高い。

 もし増幅元となる魔法を自分で使っても意味がないとすればかなり厳しい制約になるんじゃないだろうか?

 試しに増幅元となる魔法を自分が使っても意味がないように設定してみる。


「嘘だろ……」


 消費MP1で30秒だったのが24時間に伸びた。

 これなら十分実用性がある。

 でもたったこれだけで2000倍以上伸びるのはどういうことだ?

 もしかして他の魔法でも同じ?


 気になったので試してみよう。

 炎が出る魔法で自分自身を対象外に設定してみると、結果はむしろ消費MPが上がった。

 なんでだよ!?

 ってよく考えたら炎の魔法だと見た目だけでなく熱さも感じない。

 それなら対象外にした方が使い勝手がいいから制約として機能していないのかもしれない。


 ならもっと分かりやすいものをやってみるか。

 物体移動の魔法は途中まで作成できるけど消費MPが膨大すぎて登録できない。

 ここに自身を対象外にする制約を入れると消費MPは1/10になった。


「どういうことだ……?」


 たしかに消費MPは下がったけどあそこまで極端ではない。

 自分にメリットがないのは一緒なのに一体何が違うんだ?


「あ、もしかして単独ではメリットがないから?」


 物体移動の魔法だと自身が対象外だと使いづらくなるだけだ。

 けど光を増幅させる魔法は、他人が増幅元の魔法を使わないと何の意味もない効果となってしまう。

 だから制約としては厳しいと判定される?


「俺、すごいことに気づいたんじゃ……」

「また調子に乗ってるの?」

「お、妹よ、丁度いい、手伝ってくれ」

「お兄ちゃんが妹呼びする時は大抵面倒なんだけど?」


 そう言いながらも俺の部屋に来てくれる。

 学校から帰ってきた所のようでまだ制服だった。


「俺の作った魔法を試してくれ」

「へぇー、魔法作ったんだ」

「俺の名前で検索したら2つ候補が出るから上の方な」

「わかった」


 世界書を出して手際よく魔法を発動させる。

 声で発動させないから本当に使ったか分からないな。

 そう思ってたら陽菜の手が輝き出した。


「うわっ、お兄ちゃんの手が光ってる」

「おお、成功だ」

「両手が光ってるから変質者みたい」

「変質者って光るのかよ!?」


 まあ陽菜の感想はともかく狙った通りの効果は出ている。

 これなら十分実用性があるだろう。


「ありがとう、助かったよ」

「よく分からないけどどういたしまして」

「でも言われたままに魔法実行しちゃ駄目だぞ」

「なんで?」

「おかしな魔法使わされたらどうするんだよ」

「お兄ちゃんがするわけないよ」


 即答でそう答える陽菜。

 その信頼が照れくさくてついほっぺたをムニムニしてしまう。


「いひゃい」

「陽菜はかわいいなぁ」


 よし、これで俺の魔法は完成だ。

 一応SNSでも宣伝しておこう。

 誰か使ってくれるといいんだけどなぁ。

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