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11.不慮の行為

次の日。


「おおお」


 レベルが20をこえていたのは驚きだったけど、それ以上に驚きなのは最大MPは447と一気に上昇していたことだ。

 昨日見た時は150ぐらいしかなかったので一気に300近く増えたことになる。


「もしかして20レベルを境にして一気に上昇している?」


 早速調べてみるとその予想は当たっていた。

 正確には10レベルごとに大きく上昇するらしく大体レベルの十の位の2乗ぐらい上昇するらしい。


「やっぱり強いものが強くなりやすいシステムな気がする」


 高レベルほどレベルが上がりづらいからMPの増え方が大きいのは理解できる。

 最大MPが高くなれば魔法もたくさん作れて経験値も稼ぎやすくなる。

 これ自体は一般的なゲームデザインだろう。


 問題は経験値稼ぎが能動的に行えない点だと思う。

 単純に言えば一人でスライム(経験値)を倒し続けてもレベル100とかは出来ない。

 一日に出現する量(最大MP)が決まっているからだ。

 高レベルになるにはどうやっても他人頼みとなる。


「なにか意味があるんだろうか?」


 他人に対してだけ利益のある魔法や防御系の魔法は消費MPが少ない点を見ても他人と積極的に関わらせたいという意図は感じる。

 ただそれ以上は分からないな。


「朝だー、朝だー、朝だー」

「気合を入れそうな言い方で起こしに来るな!?」

「お母さんが気合い入れて起こしてこいって言ってた」


 もうそんな時間か。

 急いでご飯を食べて学校に向かう。

 せっかくMP増えたことだし翔にお勧めの魔法を教えてもらって試そうか。


 学校につくと既に翔は来ていて世界書とスマホを並べて使っていた。

 何か調べているっぽい。


「翔ー、なんか面白い魔法ない?」

「面白い魔法なぁ……ならこれはどうだ、[伸びる手は感覚を共有する]」

「直訳みたいな名前だけど海外の人作成?」


 綺麗に意訳されていることもあれば直訳っぽいこともあるのが不思議だ。

 なにか違いがあるんだろうけど元の文章を見るすべがないので難しい。


「別に名前ぐらいどうでもよくないか?」

「何言ってるんだよ、名は体を表すっていうよ」

「そこで言う名ってのは原文のことで翻訳文のことじゃないだろ」

「原文が分からないからこそ翻訳が大事なんじゃないか」

「よくわからん」


 椅子をギシギシ揺らしながら答える翔。

 こういうところから作成者の思想が読み取れるというのにまったく興味なさそうだ。


「まあ魔法バカの話は置いといて、効果は手が伸びる」

「はぁ!? そんな事出来るわけ無いだろ!?」


 人間の体は簡単に伸び縮みするようなものじゃない。

 効果が終わったら戻るなんて無理だろうし、逆に伸びっぱなしでも問題だ。

 例えば簡単に身長を伸ばすことが出来てしまう。


「なんだ?」

「いきなり叫んだのは能見?」


 しまった、大きな声を出したせいか周りがこちらを見ている。

 こんなに目立ちたくないので声のボリュームを落として話を続ける。


「人の体が伸びるわけないし騙されてるよ」

「まあ実際に手が伸びるわけじゃないだろうな」

「じゃあ何なんだよ」

「触った感覚が普段より遠くなるらしい」

「むしろ余計に分からなくなった」


 聞くより試したほうがいいな。

 世界書を開いてその魔法を検索してみる。


名称:伸びる手は感覚を共有する

登録者:Ash ・ Adams

効果:手が伸びる。

   その手は自分のものであるかのように動く。

   効果は短い。

消費MP:100


 あまりにも直訳すぎて意味が分からない。

 手が伸びるのに自分のものじゃないのかとか効果は短いってなんだよとか。

 しかも消費MPがかなり高いから気軽に試せもしない。

 ただ非常に面白そうなのは確かだし一度使ってみるか。


「【伸びる手は感覚を共有する】」


 うおっ!? なんかすごい違和感があるぞ!?

 使った瞬間、指先に床を触っているような感覚がある。

 でも見た目では指と床は接していないのでものすごく違和感がある。


「どうだ?」

「なんかすごいぞ、これ」


 手を動かすと指に当たる床の感触が変化する。

 これは手のひらの延長線上に感覚があるイメージだな。


「うおっ、なんか触られたぞ」

「相手にも触られた感覚はあるのか、どういう原理だろう?」

「やめろ、くすぐったい」

「こちらからは触れるけど向こうからは無理、と」

「なんも話聞いちゃいねえな」

「力を入れるとそれに応じて弾力が返ってくる、これはすごいな」

「おーい、聞いてるか?」

「感触だけの話なら非接触で接触検査が可能になるんじゃないか? これは検査業界の革命になるかも」

「駄目だ、話にならん」


 そう言いながら翔が動くとその先には藤田さんがいた。

 ちょうどこちらを見ていたようで視線が合った瞬間、


 ムニュ


「ふぁ!?」


 さっきまでの無駄に硬い筋肉の感触から一転して、ふわふわで柔らかい感触になる。

 思わず手に力を入れると、とても心地のいい弾力が返ってきた。

 軟式のテニスボールの大きさだけど柔らかさと弾力は数段上。

 これすごく触り心地いい……。


「おい、真琴、どうした?」


 あまりの気持ちよさに無心で触っていた。

 一体何を触って……ん?

 遠くにいる藤田さんが何かを訴えかけるような目で見ている。

 それも俺の顔ではなくちょっと下を見ているような……あっ!?

 改めて自分の状況を見ると、何もない空間で手をワキワキさせている。

 どう見ても何かを揉んでいるような仕草にしか見えない。

 そしてこの手に感じる今まで触ったことのない柔らかさと弾力の物体は……?

 慌てて胸の前に構えていた手を下ろす。

 どう考えても藤田さんのおっぱいを触っていた、いや揉んでいたよな!?

 ど、ど、どうしよう!?

 藤田さんも気づいていたみたいだし謝った方がいいよね!?

 でもなんて言えばいいんだ、魔法でおっぱい触りましたってどう考えても許してもらえないだろ!?

 ならこのまま黙っていれば誤魔化せる? 

 さすがに魔法でそんなことが出来るとは思わないだろうし、手の動きがおかしいぐらいで済むんじゃないか?


「ん、ははーん、そういうことか」

「ち、違う、翔が動いたから」


 俺と藤田さんを見比べてすぐに真相にたどり着いたらしい。

 ニヤニヤしながら俺に話しかけてくる。


「いやぁ、有用な魔法の使い方だな、真琴」

「悪用だよ!?」

「なるほど、悪用した自覚はあると?」

「言葉の綾だよ!?」

「いやぁ、いきなり本丸を攻めるとは」

「まさか届くとは思わないだろ!?」


 数m離れているのに届いているとは思わなかった。

 というか、効果は短いって射程の話じゃないのかよ!?


「しかも[対抗呪文]もされなかったし……」

「手の延長線だからじゃないか?」


 なるほど、面白い考察だ。

 物理的に手で触るのを[対抗呪文]は防ぐことが出来ないからその延長線も無理、か。

 でもそうなると刃物を伸ばして刺すとか出来るんじゃないか?

 翔が「くすぐったい」って言っていたから間違いなく感覚はあるだろうし。

 あ、でも押した感覚しか届いてないなら突き刺すとかは無理?

 皮膚に触られた感覚だけ届いているのかそれとも優しく押すとOKなのか。

 検証が必要だな。


「ただ衝撃すら伝わらないなら危害を加えるのは無理か」

「また独り言モードに入ってるな」

「お、春日井、ちょうどよかっ、それどうした?」

「真琴がゾーンに入った感じだな」

「いや、嫌悪感を持たせるぐらいは出来るか」

「ぶつぶつ言うパターンの人間は見たことあるけどここまではっきり喋ってるのは珍しいな」

「ほとんど普通に喋ってるよな」

「この魔法が痴漢に使われるのは間違いないな、陽菜にも言っておかないと」

「おっと、そろそろ終わりそうだろ」

「分かるのか?」

「大体陽菜ちゃんが出てくると結論だな」

「陽菜ちゃん?」

「真琴が溺愛してる妹」

「へぇー、能見に妹なんていたんだな」


「あれ? 翔と……阿久津がいっしょなんて珍しい」

「ようやく意識が戻ったか」

「人を死んだみたいに言うなよ」

「能見って意外と面白いのな」


 阿久津が笑っているけど何かあったっけ?


「とりあえず本題、先輩が呼んでたぞ」

「あー、そういえば約束してたんだった」

「約束はちゃんと守れよ」

「真琴に言われるのはしゃくだな」

「俺はちゃんと守ってるよ!?」


 風評被害もはなはだしい。

 というか普段から約束破っても笑って誤魔化すくせに何を言ってるんだ。


「じゃあな」

「また明日」

「おう」


 翔が先輩のところに行ったので阿久津と二人になる。

 ほとんど会話したことないのでどうすれば……?


「能見は魔法好きなのか?」

「藪から棒にどうしたの?」

「いや、さっき独り言で魔法のこと言ってたからさ」


 また口に出していたらしい、恥ずかしい。

 そういう時は翔が止めてくれたらいいのに、実際はニヤニヤしながら見てるだけなんだよな。


「ちなみにコストが安くて一発ネタになりそうな魔法ってあるか」

「それならいっぱいあるぞ!! ただ紹介する時間が足りないから放課後な!!」

「あ、ああ、わかった」


 魔法に興味を持ってくれる人がいるのは嬉しい。

 せっかくだから良い魔法をたくさん紹介しよう。


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