放課後。
阿久津(とついでに寄ってきた翔)に説明を始める。
「じゃあまずは【禁断の聖域】だ」
「なんか大層な名前だな」
「オレが思うに進入禁止の効果だろ」
「効果は手に持っているものが見えなくなる」
「ほう」
「どこが禁断の聖域なんだよ」
「それについてはさっぱり分からない」
予想が外れた翔が怒っているけど作成者がつけたんだから仕方ない。
ただ気持ちとしては俺も同感、もう少し効果通りの名前にしてほしいものだ。
「あれじゃないか、パーソナルスペース的なやつ」
「それが禁断の聖域って対人恐怖症か何かか?」
「なるほど、その考えは新しい」
人と触れることを禁断と考えるのか、なんか古の部族みたいでカッコいい。
俺に近づく奴はみんな死んじまうぜー。
「真琴、今日は考え込むの自重しろよ」
「ああ、すまん」
「独り言の講義とかツッコミづらいからな」
「好きでやってないよ!?」
「違ったのか」
「やる訳ないよね!? そんなこと思うのは翔のせいだろ!?」
「おいおい、人のせいはよくないぞ、おっぱい博士」
「おっぱいは好きだけど呼び名は魔法博士にしてよ!?」
「意外だな、そういうのは嫌悪するタイプかと」
「草食動物だって繁殖するんだよ!?」
「……たしかにな」
おかしい、俺が魔法のことを話すはずなのになんでツッコまれてるんだ。
しかもおっぱい博士ってなんだよ、博士って言われるほど詳しくないぞ。
「そろそろ本題に戻った方がいいぞ」
「さんざん話を別方向に持っておいて……まあいいか」
翔は昔からこんな感じだからいちいち怒っても仕方ない。
ただいつも陽菜と一緒になって話を別方向に持っていくから本筋をすっかり忘れるんだよなぁ。
「消費MPは1」
「見えなくする割に大分安いね」
「何かトリックがあるんだろ?」
「ご名答、隠せるのが手のひらに収まる紙だけなんだ」
「……それは一発ネタになるのか?」
「ものは使いようだよ」
そう言いながら阿久津の前で左の手の平を見せる。
当然何も持っていない、ように見える。
右手の人差し指で左の手の平を押して、離すと同時に手の平を動かすと……。
「なんだ!? 手の平から何か飛び出てきたぞ!?」
「なんと手の平から蛙が飛び出てきました」
正確には蛙の形の折り紙だけどな。
「見えなくして手の平に置いてたんだろ」
「その通り」
「つまり手品か」
「一発ネタとしては十分じゃない?」
「たしかにな」
「もっとパンチがほしいな、よし、出てくるのを真琴の全裸写真にしようぜ」
「なんで俺の、それも全裸なんだよ!?」
「昔オレの家に止まった時に平然と全裸で歩き回ってたから見せたいのかと」
「全裸で何が悪い!?」
「写真じゃなくて地図だったか」
「おいおい、お前らだけで楽しそうにするなよ」
「阿久津は助けてくれよ!?」
「乗るしかない、このビッグウェーブに」
「さっすがー、阿久津君は話が分かるー」
「お前もそっちのタイプか!?」
まさかビッグウェーブさんを知ってるとはな。
思ったよりノリがいいやつだった。
こんな感じで実演を交えながら魔法の紹介をしていると他の男子も寄ってきた。
やっぱりみんな楽しいことは好きなんだな。
「能見ー、エロに使える魔法はないのかー?」
「そうだそうだ」
「ネタ魔法もいいけど時代はやっぱりエロだろ」
「あるけど教えない」
「なんでだよ」
「独占か、独占したいのか」
「女子に魔法を嫌いになってほしくないだけだよ」
魔法でエロいことされたらきっと嫌な気分になる。
それで魔法を嫌いになって使わないとかになったらもったいない。
魔法にはたくさんの可能性が秘められていてこんなにも楽しいものなんだから。
「と、昼にエロ魔法を使った真琴が言っているわけだな」
「あれは事故だよ!?」
「詳しく……」
「説明して下さい」
「今、僕らは冷静さを欠こうとしています」
「無駄に連携してるな!?」
本来一人で言う台詞をわざわざ三人で言いやがった。
ちゃんと「僕ら」って複数形にしてるし。
「いやぁ、オレの口からはとても言えない」
「誤解を招く言い方やめろ!?」
「誤解が」
「あったんですね」
「詳しく」
ほらみろ、興味持ちやがった。
悪用されたら大変だから絶対に言わないぞ。
・・・
この後は上手く誤魔化すのが大変だった。
それにしても結構な数の男子が見てくれたな。
次は誰かがぜひとも面白い魔法を作って紹介してくれると嬉しいんだけど。
家に帰って夕ご飯を食べゆっくりお風呂につかっていると、藤田さんのおっぱいを触ったことを思い出した。
事故とは言えがっつり揉んでしまったんだよな。
あんなに弾力があって柔らかいとは思わなかった。
藤田さんと付き合えたらいずれ触る日が……。
あああ、駄目だ、思い出したら興奮して大きくなってしまう。
下手に大きいまま風呂を出たら誰かに見られるかもしれない。
人がいるのに平然と脱衣所の扉開けてくるから油断ならないんだよな。
一度母さんに大きくなったのを見られた時はものすごく優しい目で見られて死にたくなった。
なんとか鎮めて風呂を出ると、相変わらず陽菜が下着姿でうろついている。
改めてみると大きい割に柔らかそうなおっぱいだな。
「なんか今日のお兄ちゃんの視線イヤらしい」
「そんなことないぞ!?」
「大人の階段を登った雰囲気がある」
「シンデレラにセクハラしたら王子様に殺されるわ」
「王子様、お兄ちゃんがセクハラしてきたんです!!」
「俺が王子様かよ!?」
「王子様曰く、「責任を取って結婚しろ」と言ってたよ」
「発言捏造の上にセクハラの責任が結婚って女性にデメリットしかなくない?」
「インドはそんな感じだよね」
「海外はいろいろと常識が違うから……」
前提条件が違うのに行為だけ見ても仕方ない。
例えば海外だと幼稚園ぐらいの異性の子どもと一緒にお風呂に入るのすらNGとか聞いたことがある。
両親が揃っているならともかくシングルマザーで男の子だった場合であっても許されないらしい。
まあ日本人なら一人でお風呂に入らせて溺れたらどうすると考えるだろうけど、海外はお湯を貯めないから溺れる危険はかなり少ない。
そういった前提条件をすり合わせない議論ほど意味がないものはない。
今の陽菜の格好だって本人が好きでやっているという前提がなければ海外どころか日本でも逮捕されかねない。
「好きで脱いでるんだよ」
「うん知ってた」
「そこは驚くところでしょ」
「むしろ父さん・母さんより下着つけてる分まし」
「あれだけオープンにしてるのってすごいよね」
親のチンコを見慣れた子どもってかなりレアだと思うんだけどな。
まあうちはそういう文化で育ってるからそういうものだと思ってるし、少なくても両親から性欲をぶつけられたことはない。
「で、なんでおっぱい凝視してたの?」
「凝視してないし」
「ふんふん、まあ事故で触ったなら仕方ないよ、ラッキースケベってやつだね」
「エスパー!?」
「お兄ちゃんのことはまるっとお見通しだ」
ポーズまで決めてるのがかわいい。……ちょっと揺れたし。
「やっぱり視線がイヤらしい」
「揺れたら気になるだろ!?」
「普段気にしてないよね?」
「普段は普段、今は今」
「よし、土下座して触らせてくださいって言えば触らせてあげよう」
「それをする時は人生が終わるときだな」
「なるほど、つまりお兄ちゃんは生涯童貞と」
「女の子が童貞とかいうのやめなさい!?」
もう少し女の子としての恥じらいを持ってほしい。
せっかくの美人が台無しだ。
「お兄ちゃんにしか言わないよ?」
「上目遣いで首を傾げながら言ってるのは100点」
「もう、演技じゃないのに」
うちの妹が可愛すぎる件、ってそんなラノベあったか。
大きくなったら避けられるかと思ってたけど、なんだかんだで仲は良い。
まあ陽菜に彼氏ができたらこういうやり取りもなくなるんだろうな。