目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

17.陽菜が欲しがる魔法(前編)

 最近はテレビで魔法特集をやってくれるので参考にしている。

 動画サイトとかで魔法の動画を作る人は多いんだけど、レベルを上げづらいのでどうしても消費MPが低いものが多い。

 かといって高レベル者の動画だと消費MPが高い魔法をバンバン紹介しれる代わりに自分の魔法の宣伝がついてくるのがだるすぎる。

 その点、テレビは視聴者受けしやすい派手めの魔法をいろいろ見せるだけなので楽しいんだよな。


「おお、協力魔法か」


 花火玉だけで花火を打ち上げる魔法なんだけど、位置を固定する人・着火する人・爆風の方向を調整する人・微調整をする人に分かれている。

 一人でこの作業をやると消費MPがかなり大きくなってしまう。

 作業を分担すれば消費MPも分散される上になぜかトータルも少なくなる。

 協力魔法と呼ばれて研究が進んでいるけど悪用も出来そうなのが問題だよな。

 ちなみに四人でも極大消滅呪文は使えなかったらしい。


「最近お兄ちゃんと絡んでない気がする」


 お風呂から上がってきた陽菜がいきなりそんなことを言い始めた。

 でも家に居る時は大体陽菜と話してるんだけどな。


「は!? まさか私に欲情してるから声をかけられない!?」 

「意味不明すぎる」

「兄妹なのにそんな……、きっと我慢の限界が来て襲ってくるんでしょ、エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」

「そんなウキウキ顔で言うセリフか?」


 本当に襲われたくないなら下着姿でうろつくのを止めた方がいいと思うけどな。

 髪を乾かし終わってるんだから服を着る時間は十分にあっただろうに。

 いやまあ襲う方が言うことじゃないだろうけど。 

 それにしても最近の陽菜はエロ関係でテンション高いな。

 そういうお年頃なのかもしれない。


「お兄ちゃんは淡白すぎるよ」

「普通だよ」

「こーんな美人が脱いでるのに」


 少し前かがみになって豊満な胸の谷間を強調して見せつけてくる。

 髪の毛を下ろしているので髪が胸にかかっているのが素晴らしい。

 非常に魅力的な恰好で男なら誰でも悩殺できるだろう。


「だが妹だ」

「むう」


 それこそ生まれた時から知ってるんだから、かわいらしいと思うことはあっても興奮することはない。

 もし藤田さんにこれをやられたら速攻で押し倒しているけど。


「お兄ちゃんは妹の気持ちがわかってない」


 陽菜がほっぺたをぷくーッと膨らませて抗議してきた。

 昔から怒るとほっぺたを膨らませて丸っこい輪郭になるのがとてもかわいらしい。

 ほっぺたの空気抜きをしてあげようとしたら逃げられた。


「私を侮辱したお兄ちゃんには私用の魔法を作ってもらいます」

「意味わからんわ!?」


 唐突なのはいつものことだけど、どこに侮辱する要素があったのかは教えてほしいぞ。


「女の面子を潰したからね」

「帝国の収入が増えるからね、仕方ないね」

「格闘家じゃないもん!!」


 格闘家の面子を潰すと収入が増えるのはやはりショバ代を要求していたからかな。

 まあ皇帝に即位すれば解決するし陽菜も魔法を作ってあげれば解決するだろう。


「ゼラチナスマターを倒せるような魔法を作って」

「やっぱり格闘家じゃねぇか!?」

「というのは冗談で、私用の魔法です」


 さてどんな魔法がいいだろうか。

 何か困っているとかあれば簡単なんだけど。


「で、どんなのが欲しいんだ?」

「私が欲しい魔法だよ?」

「だからどんなのだよ」

「兄として妹が欲しがるものぐらい分からないの?」


 呆れた様子で俺を見ているけど、せめて方向性ぐらいは教えてもらわないと分かる訳がない。


「あ、出来ないんだ、そーなんだ、あーあ、まさかお兄ちゃんの兄妹愛がその程度だったとは」

「よし、いい度胸だ、その喧嘩買ってやる」


 見え見えの煽りだけどこれは乗らざるを得ない。

 なんとしてでも陽菜が欲しがる魔法を作ってやる。


・・・


「ということなんだよ」

「相変わらず兄妹仲いいな、うちの妹なんて見るたびに「あっちいけ」って言うぜ」

「灯里ちゃんはマッチョが嫌いだから……」


 翔にも妹がいる。

 名前は春日井灯里と言って小学六年生の美人系の女の子だ。

 内弁慶外地蔵なタイプでいつも翔を振り回している。

 昔は兄妹仲が良かったのに翔が体を鍛え始めてから険悪になったんだよな。

 まあ優男っぽい感じだったのがムキムキマッチョになったから仕方ない。

 ちなみに陽菜とは非常に仲が良く、陽菜を姉みたいに慕っている。


「まあそういう訳で良い魔法を探してるんだよ」

「そうか、頑張れよ」


 非常にドライな返事が返ってきた。

 こいつ他人事だと思ってろくに考えてないな。


「一緒に考えてくれたっていいじゃないか」

「お前が始めた物語だろ」

「そんなに重い話だっけ!?」


 単に陽菜の好きそうな魔法を作るだけのことだと思うんだけど……。

 すると翔がアゴをさすりながら俺を見てきた。


「ふむ、その程度の理解か」

「どういう意味だよ」

「お前は陽菜ちゃんの想いを舐めすぎだろ」

「想い……?」


 なんのことだ?

 陽菜のこのノリはいつものことだよな?

 なんか欲しいとか言ってくるのも普段通りだし……。


「まあいいだろ、他人に聞くより自分で考えた方がいいぞ」

「他人の意見も欲しいじゃないか」

「ならオレからの助言としては、陽菜ちゃんが欲しいのはお前からの魔法だ」


 そう言うと教室を出てどこかに行ってしまった。

 もしかして面倒だから適当に誤魔化したんじゃないだろうな。


 一人になったので改めて陽菜用の魔法について考える。

 どんな魔法がいいだろうか。

 以前に肌がきれいになる魔法が欲しいと言っていたけど一時しのぎにすぎないだろうしなぁ。

 それに普段から気を付けてるみたいだからわざわざ魔法ってのものな。

 湯冷め防止の魔法とかどうだろう。

 いつもお風呂上りは薄着だから肌寒い時があるかもしれない。

 でもエアコンは普段から暖かめの温度設定になってるから関係ないか。


「うーん、意外と難しい」


 あれだけ煽られたので、出来れば陽菜をあっと言わせる魔法が良い。

 相談までは出来なくてもいいから何かきっかけがほしいな。


・・・


 昼休み。


 教室ではみんな賑やかに会話している。

 まったく会話がないクラスもあるらしいけど俺は賑やかな方が好きなのでこのクラスでよかった。


「見てろよ、【如意棒】」

「うお、……って見た目だけかよ」


 お、なんか知らない魔法名が聞こえたぞ。

 声がする方を見ると人が集まって何かしている。


「尖ってるものが大きくなるとちょっと怖いな」

「実際に大きくしたら消費MPも多いし使いづらいし」


 なかなか興味深いことを言ってるな。

 見た目だけ伸びる、か。

 [真実の目]を使っていたら効果なさそうだけどネタにはなりそうだな。


「えんぴつ限定?」

「まっすぐな棒状のものなら大抵OKらしい」

「そうかつまりチンコもOKと」

「服に隠れてると駄目だから見せる必要があるな」

「江川くんの、ちょっといいもの見てみたい」

「あ、それ、いっき、いっき」

「よーし、って出せるわけねぇだろ!!」

「また馬鹿なこと言ってる、どうせ粗末なんだからやめておきなさいよ」

「ああん? 見たことないくせに何いってんだ?」

「小さいし曲がってる」

「ぐっ、なんで曲がってるのを……」

「ほらやっぱり、根性が曲がってるから曲がるのよ」

「あ、適当に言いやがったな!?」


「あいつら仲良すぎるな」

「楽しそうなのは良いことだろ」

「うーん、小さくて柔らかい時はまっすぐと言っていいのか……?」

「それ……大事か?」

「真琴にとっては大事なんじゃないか?」

「硬さは関係ない? でもそれで曲がったら棒と言えるのか?」

「いつものことだがもう独り言の域を超えてるな」

「つい返事してしまいそうになるだろ」


 [如意棒]だっけ、帰ったら検証してみよう。

 棒状態であるという判定が何か別の魔法に使えるかもしれない。


「おい、能見、専門家として一言いってやってくれ」

「は?」


 色々考えていたら突然名前を呼ばれた。

 顔を上げると翔と阿久津のほかに江川と和泉さんが俺を見ている。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?