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18.陽菜が欲しがる魔法(中編)

 江川はよくバカ騒ぎしている三人組の一人。

 見た目的に特徴はないが、いつも楽しそうにしているのが印象的だ。

 残りの二人は桐谷と鳥海。

 ろくに話したことがないのでどういう人物かはよく知らない。


 和泉さんはその三人組によく注意する女子。

 シャギーカットの綺麗系美人でかなり気が強い。

 言いたいことを好き放題言う傾向はあるけど悪意や敵意を感じないのであまり嫌な気がしない。

 こういうのを人徳と言うのだろうか?

 こちらも女子三人でいることが多いから3対3のカップルみたいに見える。

 ただその内の一人とはあまりカップルになりたがらないだろうけど。


「[ラブチェッカー]は信用できるのか否か」

「信用以前にそもそも聞いたことないわ!?」


 なんだよ[ラブチェッカー]って。

 名前が直球過ぎて逆に何ができるか分からない。

 そういえばたしか90年代ぐらいにそういう相性占いのおもちゃがあったって父さんが言ってたな。

 母さんと使ったら相性100%になったと言ってたけど、後で母さんから100%しか出ないって教えてもらった。

 そこから想像するに相手が自分のことを好きか分かるとか?

 でもそういうのは[対抗呪文]で弾かれるだろうし……。


「ほれ、見てみろ、能見が知らないんだから偽物だ」

「たしかに能見君が知らないならそうかも……」

「俺に対する絶大な信用はどこから出てきたんだよ!?」


 江川はともかく和泉さんまで……。

 ほとんど関りがないのになんで俺の言うことが絶対正しいみたいになってるんだよ。


「だっていつも春日井君や阿久津君と魔法の話してるし」

「いつも男子に突込み、おっとツッコミを入れてますねぇ」

「魔法詳しそうに見えるよね」


 女子二人も会話に混じってきた。

 若干一名の発言がおかしいのは気にしないとして、普段からそういう風に見られていたのか。

 会話内容をある程度チェックされてるならもう少し発言に気を付けた方がいいかもしれない。


「ある程度は分かるけどそこまで詳しくないよ」

「それでも能見なら…能見ならきっと何とかしてくれる…!!」

「信頼してる」


 桐谷と鳥海までそう言ってきた。

 魔法に詳しそうと言われるのは嬉しいけど、数え切れないぐらいの魔法があるんだから知らないものぐらいある。

 さっきの[如意棒]だって知らなかったし。


「……ちなみに効果は?」

「使うと自分のラブ度が分かる」

「ほほう」

「周りにも公開される」

「ほっほう」

「なんと消費MP15」

「ほっほっほう」


「フクロウか?」

「ハトかも」

「シチメンチョウですねぇ」

「え、七面鳥って鳴くの?」

「ええ、ええ、鳴きますよ、それにシチメンチョウじゃないとついてないですからねぇ」

「何が?」


 自分のラブ度っていうのが気になる。

 もしかしたらナルシストかどうかが分かるとか?

 思ったより消費MPが高いので制約とかは無さそうだし一度使ってみるか。

 さっそく世界書を開いて魔法を調べる。


 名称:ラブチェッカー

 登録者:天乃原 こずえ

 効果:あなたのラブ度が明らかに♡ 周りにも伝わるので手間いらず。

 消費MP:15


 たしかにだいぶ怪しい。

 ハートマーク使ってるあたりが特に怪しさを漂わせている。

 それに『周りに伝わるので手間いらず』の意味も分からないぞ。

 自分のラブ度とやらを伝えてどうするんだ?


 ただ登録者名から見ておそらく女性だろう。

 名前をタッチすると似たような感じの魔法が出てきた。

 ふむ、どれもほどほどに消費MPが高いし説明文も違っている。

 少なくても詐欺目的で魔法を量産しているようには見えない。


「【ラブチェッカー】」


 ん? なんか視界内にウィンドウが出たぞ。

 こんなゲームみたいな仕様もあるのか。

 えっと『顔を思い浮かべて名前を入れてください』か。

 なるほど、名前を入れた相手へのラブ度が分かるのか。


 ……父さんが言ってたラブチェッカーと同じ効果っぽい。

 つまり下手な名前を入れるとさらし者になると考えていいな。

 うん、とりあえず適当な芸能人の名前を入れて誤魔化そう……。

 そう思って芸能人の顔を思い出そうとした時、たまたま視線の先にいた藤田さんと目があう。

 その瞬間ウィンドウに名前が書き込まれた。


『能見真琴から藤田透子へのラブ度は90%』


「ふぁぁぁぁぁ!!!!!」


 何だよ!? なんでいきなり入力されてるんだよ!?

 目か!? 目が合ったからか!?

 しかもなんで実行されてんだよ!?

 普通『実行しますか?』とか出るだろ!?


「なるほど、こういう風になるのか」

「効果あったという口コミは間違ってなかったわね」

「是非春日井君や阿久津君とのラブ度も知りたいですねぇ」

「90%って意外と高いのね」

「100%じゃないんだな」

「10%はビビってるせいだと思うぞ」


 ビビッてるってあんな美人相手にビビらない方がおかしいわ!?

 俺みたいな男が好きになっていいのかって思うに決まってるだろ!? 


「意外と実用性はあるか?」

「言いづらい子が告白の代わりとするならありかも」

「口に出せない秘めたる思いをメッセージで伝える、あこがれますねぇ」

「あ、名雪にもそういう感情あったんだ」

「無理やりってのはちょっとどうだろうな」

「真琴にぴったりだろ」


「知ってたなら教えてくれよ!?」

「いや、だって速攻試すとは思わないし」

「面白そうな魔法は試すに決まってるだろ!!」


 そうだ、藤田さんの様子は!?

 慌てて藤田さんの方を見ると特段いつもと変わりない状態だった。


「あ、あの、藤田さん?」

「……何?」

「いや、これは違うんだ、その」


 説明をしようとしているのに言葉が出ない、こんなこと初めてだ。

 口をパクパクさせていると翔が肩を組んできた。


「まあラブ度というのが何を表してるか分からないし気にすんな」

「気にするよ!?」

「もっと気になることがあるだろ、魔法のこととか」


 言われてみればたしかに興味深い魔法だった。

 空間に文字が投影されるとか初めての結果だ。

 例えば真偽鑑定の魔法とかは結果が本人以外分からないので、今までだとその人を信用するか自分でも使うしかなかった。

 でもあんな感じで鑑定結果が出れば誤魔化せないのでは?

 これはデメリットになるから制約として機能するかも。


 後、あれは他の人にも見えたけどカメラとかでも見えるのかな?

 もし撮影できるなら鑑定結果を記録できることになる。

 いちいち記憶してるより手っ取り早くていいよな。

 あ、でもそうするとメリットもあるってことだから制約にならない?


「それに入力欄が出るのもすごいよな、どういう設定なんだろうか」

「あ、また能見が自分の世界に入った」

「この世界が嫌になったんでしょ、全部江川が悪い」

「はぁ!? お前が絡んできたのが発端だろうが!?」

「何よ!!」

「何だよ!!」

「自動で書き込まれたのはそういう設定? それともウィンドウの仕様? 検証が必要だな」


「よし、これで一件落着だろ」

「悪化したと思うぞ」

「実に楽しそうですねぇ」

「春日井くんと名雪の感性が分からないよ……」

「なんだか知らんがとにかくよし」

「どうして「よし!」って言ったんですか」


 俺の意識が魔法から離れたのはチャイムが鳴ってからだった。

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