いつも晩御飯はみんないっしょに食べる。
小さい時からの習慣になっているんだけど理由は子どもの情操教育と言っていた。
「有希のご飯はいつも美味しいね」
「はいはい」
ただそれは建前で、実際は父さんが母さんと一緒にご飯食べたいだけだろう。
まあもう慣れっこなので無視するにかぎる。
さて今日はテレビで魔法特集をやるので楽しみだ。
『今日は話題の魔法の作成者にインタビューします』
「名前しかわからないのに見つかるものなんだな」
「自分から名乗ってるのだろうさ、僕ならそうする」
「私も売り込みに行くよ」
「ええー、そこまでする?」
「そうまでして目立ちたいものかしら?」
「名前だけより顔も知ってるほうが安心して魔法を使えるからさ」
「名前と顔を売る機会なんてそうそうないんだよ」
目立つことのメリットを二人が説明し始めた。
比較的静かに説明する父さんと大ぶりなアクションを交えて説明する陽菜の違いが面白い。
「でもねぇ、有名になったら危険とかないのかしら?」
「それは分かるよ、有希が有名になったら襲われるかもしれない」
「まあそれはないでしょうけど」
「いやいや、有希ほどかわいい女性はいないからね」
「はいはい」
こういう時、父さんは主に母さんに説明する。
父さんのほうが説明が上手いというのもあるけど、基本は父さんが母さんといちゃつきたいだけだ。
そのため自然と陽菜は俺に説明する。
「顔を覚えるだけで安心するものか?」
「だから芸能人がCMしてるでしょ」
「あれは誰かが宣伝しないといけないからじゃないのか?」
「なら政治家の応援に芸能人が来る意味考えてみて」
「……確かに理由が思いつかない」
「名前と顔を知っている人が応援している、それだけで信用が得られるんだよ」
なるほど……、魔法をたくさん使ってもらうのも同じか。
たしかに有名なyoutuberが作った魔法とかは一定の人気がある。
あれは信用があるからだったのか。
『一人目はあの[手洗い綺麗]の作成者の工藤若菜さんです』
『どうも』
「うわ、すっごい美人」
「有希には負けてるな」
『あんな若い子と比べられるなんて嫌ですよ恥ずかしい』
[手洗い綺麗]は手に有害な細菌・ウイルスが付着しているかを判定する魔法だ。
昨今の感染症対策で手洗いが推奨されているけど、細菌・ウイルスは目に見えないのでちゃんと手洗い出来ているか分からない。
それがこの魔法を使うことでちゃんと出来たか分かる。
『いやー、わたくしも使わせてもらっていますが便利ですね』
『ありがとうございます』
『どういったきっかけでこれを?』
『感染症対策ですね』
「だよね」
「ですよね」
「それ以外に何があるのか」
「パパ的にはもう少し聞き方を工夫してほしかったな」
「お父さんならどう聞くの?」
「パパね、パパ」
「わかったよ、お・父・さ・ん」
あ、ショックを受けたふりをして母さんに抱きついた。
母さんもいい大人が胸に飛び込んできたのによしよししてるし。
「だしに使われた気がする」
「落ち込んでるのも確かだと思うぞ」
小さいころから陽菜にパパと呼ばせようとしているけど、陽菜は小さい頃に数回パパと呼んだきりでずっとお父さんと呼んでいる。
多分あまりにも露骨にニヤけていたので気持ち悪がられたんだろうな。
「お兄ちゃんも子ども出来たらパパって呼ばせたいの?」
「いや、別に好きに呼べばいいんじゃないかな」
「そうなんだ……、あっ!!」
「ん?」
一度納得した素振りを見せた後、突然声を出してニヤリと笑いながら近づいてきた。
「パパー」
「パパだって!?」
「お父さんは呼んでない、ステイ」
「しょぼーん」
「ねぇパパー」
「って俺かよ!?」
「あなたの娘です、認知してください」
「村正!?」
「銀星号だよ」
「よし、真琴ちょっとこっちに来なさい」
「陽菜と年の差考えろよ!? 二歳とかで子ども作れるか!?」
「子どもすら虜にするとは有希は魅力的すぎるんだよ」
「はいはい」
『なるほど、どうもありがとうございました』
「あ、そんなこと言ってたら終わったじゃないか」
「まだ一人目だしいいじゃないか」
「魔法は一つなんだよ」
「綺麗な女の人だったから見たかっただけだよね?」
「違うわ!?」
いやまあたしかにものすごい美人だった。
もしかして適当に女優を使った仕込みかもしれないな。
『続いては災害現場で大活躍だった[誰にも届かないかすかな光]と[届いたよその光]の作成者の能見真琴さんです』
『こんばんはー、よろしくお願いします』
「は?」
「え?」
「真琴と一緒の名前じゃないか」
「あらあら可愛らしいお嬢さんね」
何言ってるんだ、あの魔法は俺の魔法だぞ。
陽菜と顔を見合わせると珍しく動揺した表情をしている。
その普段見掛けないその表情を見て少し冷静になった。
「へ、へぇ、やっぱり女の子だったんだ」
「真琴は知ってたのか?」
「そりゃ同姓同名だからね、学校でも聞かれたし」
父さんと話しながら陽菜を見ると目が若干揺れている。
まだ落ち着いてなさそうなので近寄ってほっぺたをつまむ。
「陽菜はお姉ちゃんのほうがいいってか」
「あ、い、いひゃいよ、おひいひゃん」
「真琴よ、そういうことするから嫌われるんだぞ」
「父さんが母さんにしてることのほうが嫌われると思う」
「そんなことないよね、有希!?」
「はいはい、そんな事ありませんよ」
「ほれみろ」
なぜドヤ顔でそんなこと言えるのだろうか。
もう少し親らしい態度を取ってほしいと思う。
「あなた、陽菜も嫌がってませんよ」
「え、そうなの?」
「見てください」
「お兄ちゃんは不安になるとすぐ私のほっぺた触るから」
「だって触り心地いいし」
「ほっぺたのお肉少ないよ?」
「陽菜はもう少し肉があってもいい」
「おデブは嫌だよ」
「おデブでも可愛いぞ」
「えへへー」
「嫌そうですか?」
「気持ち悪いぐらい仲いいな」
「陽菜はお兄ちゃんっ子ですから」
「パパっ子にはなってくれないのに!?」
「そうなりたいなら私より陽菜の面倒を見たらどうですか?」
「わかった、諦める」
「諦めがよすぎですよ」
とりあえず陽菜の精神は安定したかな。
つい動揺してしまったけど偽物が出てくるぐらい当たり前だろう。
さっきも女優を使ってるっぽかったし。
それにしてもいろいろ喋ってるけど全部デタラメだな。
二つの魔法に分けた理由が『愛し合う二人が寄り添うイメージ』っておかしいだろ。
なんでそんな手間増やさないといけないんだよ。
明らかに魔法について知識ないな。
『どうもありがとうございました』
『次回も呼んでくださいね』
『え、あ、まあ番組次第ですね』
「アクティブな子だね」
「あれくらい攻めないと仕事は取れないよ」
「なんでそんなことを知ってるんだよ」
「陽菜は可愛いからきっと芸能界に興味あるのよね」
「陽菜は芸能界になんて入らせないぞ!!」
「お父さんに決める権利はないよ」
「はいはい、お父さんは黙っていましょうね」
「有希、こういうのはちゃんと」
あ、父さんが引っ張られていった。
これはしばらく帰ってこないな。
「陽菜は芸能人になりたいのか?」
「全然」
「ならさっきのは?」
「お父さんは干渉し過ぎだからお仕置き」
たしかに変なところで過保護なんだよな。
まあ陽菜もそんな感じだし親子でよく似てる。
「とりあえずテレビ見よ」
「そうするか」
次に出てきた[アルファ水上移動ちょっとだけ]の作成者は本物っぽかった。
水上にラインを描きその上を一定距離移動できる魔法なんだけど、実際にはラインを描いた部分は沈む速度が遅くなるので沈む前に次の足を出すって感じで歩ける。
てっきり重力制御をしているのかと思っていたけど解説を聞くと全然違っていた。
まさか局所的に水の粘度を変えて沈み込みづらくしてるとはね。
ゴザみたいなのを浮かべてその上を歩くと沈みづらい原理だ。
こういう発想が面白い。
名前についても質問されていた。
どうもアルファとかちょっとだけは検証でつけていたらしい。
最初はちゃんとした名前で作っていたけど、作っては消してを繰り返しているうちに面倒になってそのままだとか。
気持ちはよく分かる。
もう少し話を聞きたかったのに新しい人に交代になってしまった。
かなり興味深い話をしてくれていたので残念だ。
ちょっと期待して次の人の話も聞いたけどこれはひどい。
[虫の知らせを確実に]の作成者と言うことだけど、変わった制約をしまくってコストを極限まで下げてるのに、
その制約の理由どころか内容すら知らなかった。
作成者ならあり得ないだろう。
あんな制約を思いつくなんて本当の作成者はどんな人間なんだろうな。
「お兄ちゃんが画面を食い入るように見てる」
「今の魔法の原理を理解しようとしてるだけだぞ!?」
「あんな間違った説明で?」
「そこは俺なりの解釈を……」
「なら画面見なくてもいいよね?」
「それはたまたま視界に入ったからで……」
「これはお仕置きが必要だね」
「理不尽すぎる!?」
陽菜はたまに理不尽に怒る。
きっと父さんと一緒で他の人には分からない何かがあるんだろう。
いつも良い子の陽菜がこういうことをする時はリアクションだけして素直に受け入れることにしている。
わがままを相手に言えるのは信頼の証だろう。
ちなみにその後も有名な魔法の作成者が出てきたけど全て美人の女性だった。
うーん、どこまで仕込みなんだろうな。
次の日。
「どうもー、能見真琴です」
朝ニュースを見ていると昨日見た偽物が出演していた。
陽菜の顔色が変わっているのでほっぺたを揉みほぐしておく。
「お兄ちゃん、いいの?」
「いいも何も彼女が"本物"だからな」
「でも……」
「相変わらず陽菜はかわいいな」
「あばばー」
俺に気を使ってるようなので、気にしなくてもいいという気持ちを込めてアゴをタプっておく。
「お兄ちゃんは気にしなさすぎだよ」
「かーんけーいないさー」
「すぐ誤魔化すんだから、まったくもう」
ようやく普段どおりに戻ったようだ。
ほんと自分自身のことは無関心なのに家族のことになると気にするな。