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23.キリシタンは許されない

 次の日。


「能見ー、いい案浮かんだか?」


 江川が桐谷・鳥海を連れて声をかけてきた。

 ここ数日で馴染みになった光景でそこに翔や阿久津が加わることも多い。


「家に帰って考えてたら妹からめっちゃ怒られた」

「何を怒られるんだよ」

「無許可のサイズ鑑定は無粋、想像に留めておけって言われた」

「なんでそれを妹に言われるんだ……?」

「むう、あれはシスコンの挙動……」

「な、知っているのか? 春日井」

「うむ、真琴は妹を溺愛していて何でも妹に話すのだ」

「そこまでなのか……?」

「風評被害やめろ!?」


 溺愛はともかく何でもは話してない。

 性癖とかちゃんと隠してるし。


「おっぱいのサイズ鑑定の話を妹に……?」

「勇者だな」

「紳士かもよ」

「変態という名の紳士か」

「ちなみに春日井は妹知ってるのか?」

「めっちゃ可愛いしおっぱいも大きいぞ」

「能見、妹を僕に下さい!!」

「100回死ね」

「直球の暴言ありがとう」


 うちの陽菜は世界一かわいいんだぞ。

 初対面でプロポーズする奴に誰があげるか。


「まあとりあえずこれ以上は無理な感じ」

「そうか」

「能見が無理って言うなら仕方ない」

「別の方法検討」


 意外とあっさり納得してくれた。

 てっきりもう少しいろいろ言われると思ってたんだけど。


「信頼されてるな」

「真琴の日々の努力の成果だろ」

「何の努力だよ!?」

「能見と言えば魔法か?」

「違うぞ悟志、変態度だろ」

「よし、阿久津は通す、翔は通さない」

「そんなこと言ってるとLv.3キースフィア盗むぞ」

「盗むの技能がなければとれまい」

「技能はあるぞ」


 そう言って筋肉をアピールし始めた。

 それは盗むじゃなくてぶんどるって言うんだぞ。


「やはり実際に見て想像するしかないな」

「そのためにはやはりプールか」


 俺たちが話している間に江川たちの話も進んでいたようだ。

 どうも今はプールで見せてもらう作戦らしい。


「誰が誘う?」

「江川、お前なら出来る」

「出来る訳ねぇだろうが!?」

「貧相すぎて見せられないんだろ、とか言えば激怒して見せてくるって」

「いつもの感じで煽ればいい」

「その話詳しく」

「え?」


 振り向くと和泉さんが恐ろしいくらいにこやかな笑顔で立っていた。

 その後ろには名雪さんと橘さんがついている。


「身体的な特徴を貶すのは感心しませんねぇ」

「秋穂がかわいそう」

「桐谷、もう一度言ってくれる?」

「あ、あ、あ」

「お、俺は何も言ってないぞ!?」

「ぼ、僕も」


 あ、江川と鳥海が桐谷を見捨てた。

 さすがに判断が早い。

 でも和泉さんは許してくれないようだ。


「キリシタン(巨乳信徒)が存在したら連座に決まってるでしょ」

「横暴すぎる!?」

「僕は神道(貧乳派)なのに!?」

「ヤマトタケルノミコトはいいですよぉ」

「女装した男は貧乳って言うの?」


 いつの間にここは江戸時代になったんだ?

 まあ鳥海はともかく江川は若干キリシタン(巨乳信徒)っぽいからいいだろう。

 そんな感じで他人事のように思っていたら和泉さんがこちらを見た。


「五人組って言葉は知ってる?」

「俺は関係ないよね!?」

「オレも関係ないぞ」

「能見はキリシタン(巨乳信徒)です」

「和泉って妹よりおっぱい小せえよなって言ってました」

「一言も言ってないよ!?」

「ほう、能見君が巨乳好きとは意外ですねぇ」

「最低」

「女性の胸の話題が出たのは間違いないな」

「ほら、証言が出た」

「よく考えたらなんで阿久津は対象外なんだよ!?」


 そうだ、六人で会話してたのになぜか五人組とか言ってた。

 連帯責任にするなら阿久津も一緒のはず。


「阿久津君がそんなこというわけないでしょ、あんたらに巻き込まれただけ」

「横暴だ!?」

「オレも関係ないんだが……」

「俺は嘘が嫌だっただけで……」

「阿久津は絶対見た目だけで内面はエロばっかりに決まってるのに」

「イケメン無罪はずるい」

「こうして阿久津君へのイライラを募らせた彼らの気持ちはやがて暗い劣情に変わり……」

「名雪、もっと詳しく」


 俺達の抗議は全く受け入れられず、阿久津以外はこっぴどく怒られた。

 おまけに藤田さんからはやけに冷たい目で見られるし……。

 阿久津と江川と桐谷には後で絶対報復してやる。


 ・・・


 やはり透視魔法を使えるようにしてみんなに教えるのがいいか。

 ただし阿久津と江川と桐谷には数日やり方を教えないというのはどうだろう?

 でもちょっと陰険すぎるかな……?


「能見、能見!! 聞こえないふりをしている能見!!」

「ふぁ!?」


 気づくと先生が目の前に立っていた。

 このパターンは……。


「お前には資料運搬の大役を授ける」

「前もやりましたよ!?」

「やりたくないか聞いて返事がないのは能見だけだったしな」


 本当かと思って翔を見るとニヤニヤしている。

 くそう、分かっていて助けなかったな。


「今日は特別多いからな」


 いつも思うけど、せめて台車を用意するとか工夫しろよ。

 というか持ってこれるのに持って帰れないってなんだよ。


「その答えは『持ってくるときも手伝ってもらっている』だな」

「あ、いや、その」

「まあ工夫して持ってきてくれ」


 先生は手ぶらで帰っていった。

 少しは持っていけばいいのに。

 にしても文句まで無意識に口から出ているのはやばいな。


「いやぁ、大変だな真琴」

「そう思うなら手伝ってくれよ」

「先生から真琴が頼まれた大事な仕事を手伝うわけにはな」

「先生は常々助け合いは美徳だと言ってるぞ」

「助けると甘やかすは別だな」


 ああ言えばこう言う。

 翔は地味に口が強いので言い負かすのは難しい。


「魔法でなにか考えたらどうだ、重力制御とか念動力とかさ」

「思いついたら真っ先に実験体にしてやるよ」

「おお、怖い、怖い」


 そう言いながら自分の席に戻っていった。

 さて魔法でどうにかというのはたしかにありだ。

 わざわざ自力のみで運ぶ必要なんてない。


 物を動かしたいと考えるならまず浮かぶのは念動力だろう。

 触れずに動かすことができれば重さなんて関係ない。

 ただ非接触で物を動かすのは今のところ出来ないし、接触して動かすにしても消費MPが馬鹿みたいに多い。

 手で持てる大きさでようやく消費MP10000ぐらいなのでまず無理。


 次に重力制御。

 重力を0にするのは無理でも軽減するぐらいは一応出来る。

 ただこちらも相応に消費MPが多いのが問題なんだよな。

 普通は制御できない重力というものを扱うからだろう。


 他には空間跳躍も思いつくけどこれは完全にNG。

 なぜかどうやっても作成すらできない。


 やっぱり筋力強化が一番いいか。

 重くて辛いなら筋力があればいいという考えだ。

 元々手で持てる重さなので非常に良いアイディアなんだけど一つ問題がある。


「どう見ても持てないよなぁ」


 形がバラバラで不安定なので一度にまとめて手で持つのはきつい。

 重さ自体はたいしたことないんだけどなぁ。


「うーん、やっぱり何度か往復するしかないか」


 物体をくっつける魔法はあるんだけどあくまで1:1なんだよな。

 複数の小物をまとめてくっつけようとすると不要なものまでついてくるし。

 時間があれば狙った効果の魔法は作れると思うんだけど、それをする時間で往復できそうなんだよな。

 うん、とりあえず今回は保留。

 世界書を取り出して開く。


「【筋肉はマッスル】」


 一ヶ月間適切に筋トレした時の筋力を10分間体感することが出来る魔法。

『筋トレしたいけどどの程度効果があるんだ?』 と思う人向けの魔法だが一時的な筋力強化にも使える。

 某アニメが元ネタらしい。


「おお、意外といけるな」


 資料を持ってみると明らかに軽い、これなら余裕で持てそうだ。

 一か月でこれぐらいの筋力になるなら筋トレしてみようかな?

 でも適切に筋トレってどのくらいの頻度・負荷なんだろう。

 今度、翔にでも聞いてみるか。


「あ、くそ、微妙に持てない」


 うまく積み上げればいけるかと思ったけど微妙に小物が乗らない。

 今からでもくっつける魔法使うか?

 あ、でもそれだと世界書を出して魔法を調べて……うん、面倒だ。

 諦めて二往復しようと思った時に小さな手が小物を掴んだ。

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