「あれ、藤田さん?」
「手伝う」
「ど、どうして?」
「友だちを手伝うのは当然」
その言葉を聞いて、以前の「友だちになりませんか?」を覚えていてくれたことに感動した。
薄情者の友だちとは大違いだと思いながらそちらを睨むと翔はニヤニヤしてるし阿久津は温かい目で見ている。
あいつらこれを想定して手を貸さなかったな、ありがとう。
「邪魔?」
「いやいやいや、是非手伝ってほしいです!!」
「そう」
少し悲しそうな声色でそんな風に聞かれたら申し訳ないにもほどがある。
表情やリアクションを含め全力で喜びを伝える。
「阿久津の作戦通りだったな」
「いや、あそこまで上手くいくとは思わなかったが」
「直球勝負で成功することもあるんだな……」
「死ねばいいのに」
「能見は貧乳も巨乳もいける?」
てっきり翔の作戦かと思ったら阿久津の作戦だったらしい。
褒美に五人組の件は水に流してやろう。
あと俺は無宗教(おっぱいの大きさに格差はない派)だ。
「行かないの?」
「あ、ああ、ごめん、行くよ」
持ちきれない分を藤田さんに持ってもらう。
倉庫までの大して長くない距離とはいえ会話できるのは嬉しい。
「……能見君はキリシタン?」
「ぐはっ!?」
歩いてすぐに藤田さんの口からとんでもない質問がきた。
これは返答次第で大変なことになるぞ。
「ち、違うんだよ、俺はキリシタン(巨乳信徒)じゃなくて」
「……じゃあ神道?」
ここで神道(貧乳派)と答えたら藤田さんのおっぱいが小さいと認めることになるんじゃないだろうか。
「む、無宗教(なんでもOK)だよ」
「……そう」
沈黙が怖い。
もしかして信じてもらえてない?
本当に俺は好きな子のおっぱいならなんでもOKなのに。
何か、何か手はないか。
そうだ、たしか鑑定魔法で……。
「か、【鑑定結果オプン】、おっぱいの好み!!」
この魔法は自身に対する鑑定結果を周りに公開する。
嘘偽りない情報を公開できるので疑われている時とかに使うのが効果的だ。
ちなみにオプンになっているのは誤字らしい。
『能見真琴のおっぱいの好みは、好きな子のおっぱいならサイズ形問わない』
「ほら、無宗教(なんでもOK)って出ていr……ん?」
慌てて魔法を使ったけどよく考えるとこれって……?
「ち、違うんだよ!? 変態とかじゃなくて好みの話でね!?」
「……分かってる」
少し顔を赤くしてるのは可愛いけど、どう見ても俺の性癖を聞いて恥ずかしがってるだけだよな!?
やってしまった!! やってしまった!! やってしまった!!
俺の頭の上に出ていて名前も書いてあるから誤魔化しも出来ない。
地味に効果時間長いし、早く消えろよ!?
「ついた」
「あ……」
そんなことをしていたらまたろくに会話出来ないまま目的地についてしまった。
どうしようか悩んでいると藤田さんが扉を開けて資料を置いてそのまま去っていった。
大失敗すぎる。
女の子におっぱいの話とか最低だ……。
明らかに恥ずかしがっていたし嫌われたかもしれない……。
ショックを受けつつ教室に戻ると翔たちが楽しそうに近づいてきた。
「お、どうだった?」
「全部お前らのせいだ」
「その様子だと失敗か」
「あそこまで準備が整っていてどこで失敗するんだ?」
「どうせ余計なこと言ったんだろうな」
「変態には荷が重かった」
好き放題言ってくれる。
責任の一端はお前らにもあるんだぞ。
「人のせいは良くないぞ、真琴」
「雨が降っても自分のせいという格言がある」
「失敗したら誰かのせいにしたくなるだろうが!?」
「筋肉と一緒で常に改善を続けるのが大事だろ」
「人のせいにしていたら進歩はない」
言ってることは正論だけど、地味にモテる翔と普通にモテる阿久津から言われると腹立つな。
お前らみたいに次があるわけじゃないんだよ。
「まだ取り返しがつくなら頑張った方がいいと思うぞ」
「江川は良いやつだな、それに比べて翔と阿久津の辛辣さよ」
「愛のムチだろ」
「能見は叩けば伸びるタイプだと思うんだ」
「おのれ、無駄に足並み揃えおって」
叩けば伸びるって叩かれる側の気持ちを考えろよ。
「能見に彼女はまだ早いということよ」
「無宗教に神は居ない」
くそう、桐谷と鳥海は調子にのってやがる。
人の不幸がそんなに楽しいか。
「楽しいに」
「決まってる」
「「イエーイ」」
息のあった会話でハイタッチまでしてる。
こいつらもこいつらで無駄に足並み揃ってるな。
「で、具体的に何を失敗したんだ?」
「言いたくない」
「それでこちらのせいにされても困るぞ」
「……キリシタンかと聞かれたから無宗教と答えた」
「普通の答えだな、それで?」
「疑われてそうだったからつい鑑定魔法を使って証明してしまった」
「いいじゃないか」
「それは……やばいな」
「使ったのか、すごいな」
「ないわー、それはないわー」
「勇者」
「どうした、みんな? 普通のことだろう?」
阿久津は不思議そうな顔で俺を見ている。
もしかしてこいつ何も理解してなかったのか?
「普通はおっぱいの好みを女性に言うか?」
「言う訳ないだろう」
「真琴はそれを言ったらしいぞ」
「はあ!?」
「だってとっさに証明しなきゃって……」
「信仰の有無を証明するのになぜそんなことを」
「え、あれって女のおっぱいのサイズの話だぞ?」
「はあ!?」
翔の説明を聞いて驚く阿久津。
ただこっちも驚きたいけどな。
「阿久津はまじめすぎ」
「巨乳好きがキリシタン、貧乳好きが神道」
「もう少し詳しく教えてくれ」
阿久津は鳥海の解説を真剣に聞いている。
そこまで真面目に聞くことでもないんだけど……。
「なるほど、これはひどい」
「だろ?」
「どう見てもお前らが悪いよな」
「100%能見が悪いな」
「真琴100%だろ」
「アキラ100%みたいな言い方するなよ!?」
別にすべてをさらけ出したい訳じゃないんだよ。
「謝ったのか?」
「それは……一応」
「どうせ言い訳言っただけだよな、真琴?」
「一応『分かってる』って答え返ってきたよ!?」
「何を分かっているかが問題だな」
「そりゃあ変態度だろ」
「またそこに戻ってくるのかよ!?」
「ちょっと嫉妬したが、しょせんへたれはへたれということか」
「この機会に神道に入るべき」
「嫌だよ!?」
「能見はおっぱいの大きい妹が好きらしいから無理か?」
「妹に振られたら改心するに違いない」
「陽菜ちゃんはブラコンだから無理だと思うぞ?」
「違うよ!?」
陽菜のどこにブラコン要素があるんだよ!?
俺で遊ぶのが好きなだけだろ!?
「え、こんなへたれを?」
「ありえない」
「ひどい言われようだ」
一応声をかけることは出来たしへたれじゃないと思いたい。
……ちょっと失敗は多いけど。
「妹ちゃんは男の趣味わるそーだな」
「同意」
「あ?」
「だってこんなお兄ちゃんを好きとかよほどの物好きだろうに」
「蓼食う虫も好き好き」
「俺への侮辱は許すが妹への侮辱は許さん、【汝は悪、罪ありき】、重ねて【悪・即・斬】」
「それは本気だしすぎだろ!?」
魔法の詳細を知っている翔が大慌てで距離を取った。
流石に巻き込まれるのは嫌らしい。
「おい春日井、何の魔法だよ!?」
「悪認定する魔法と悪に裁きを与える魔法だろ!!」
「それ冤罪だろ!?」
元ネタは竜認定だったけどまあ悪認定でも似たようなものだろう。
同じゲームで冤罪バックドロップとかあるし。
「ま、魔法で危害は加えられないって聞いたんだが」
「天罰が下るんだ」
「元ネタは自分の手で実行するはずだろうが!?」
江川の奴、意外と詳しいな。
まあ今アニメやってるし知っていてもおかしくないか。
「大丈夫、対象は桐谷と鳥海だから」
「そ、そうなのか」
「なんでだよ!?」
「変態同士仲よくしよう」
「あの世で陽菜にわび続けろ桐谷鳥海ーーーーッ!!!」
ちなみに天罰は女子から攻撃されることだったらしく、桐谷は膝蹴り鳥海はエルボーを食らっていた。
ただ鳥海は食らってニヤけていたので罰になってない気がする。