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36.因果応報

昼休み。

ご飯を食べ終わったあと、暇そうにしている翔に会話を切り出す。


「翔、この魔法はどうだ?」

「なんだ、次はどんなのが来るんだ?」

「能見の魔法は変わっているのが多いから楽しみだ」

「言うなれば任意カウントシステムかな」

「なんか便利そうな響きだな」


 呼んでないのに阿久津が混ざってきた。

 陽キャは楽しそうなことにすぐ混ざろうとするな。

 まあ今回は許してやろう。


「へぇ、そうか」


 翔は椅子をギシギシさせながらこちらを見ている。

 魔法名を聞き返そうともしないのでまったく興味ないんだろう。

 阿久津ぐらいには関心を持ってもいいだろうに。


 だがいつまでそうしていられるかな?


「能見君の目が真剣で輝いてる、いいですねぇ」

「え、いつも通りの馬鹿っぽい目じゃない?」

「秋穂、それはさすがに失礼」


 真剣だと分かっているなら集中力を乱すのはやめてほしい。


「これは自分が認識した対象物を自動で数えてくれるんだ」

「自分で数えればいいだろうに」

「まあまあ、集中しなくても良いってのは大きいぞ」

「その対象物は自分で決めたルールで仕分けることが出来るので物体に限らない」

「相変わらず分かりづらい設定にしてるな」

「それは同感」

「なによりすごいのは自動で仕分けされること、焦って間違えるとかがない」

「ふぁ、そうか、それはすごいなー」

「……ちょっと待てよ?」


 あくび交じりで答える翔。

 対して何かに気づいたようなリアクションをする阿久津。

 やる気の差が理解度の差になっているのがよく分かる。

 さて、やる気がないにもほどがあるがここからが見ものだ。


「例えば、特定の動きをカウントすることも出来る」

「……ん?」

「ジャブ、フック、ストレート、ボディ、アッパー、落ち着いてそれだけ見ればすぐ分かっても試合中に連続で繰り出されれば覚えていられない」

「なに?」

「だけどこの魔法なら落ち着いた環境で見た自分の認識通りにすべて正確に記録される」

「すげえ」

「外から撮影してもどうしても角度的に見づらいので正確さに乏しい」

「その通りだ」

「だけど翔は興味ないみたいだしなー、仕方ないなー」

「そんなこと一言も言ってないだろ!?」

「なるほどな」


 よし、興味を持ったな。

 この機会に全力で煽りに行くぞ。


「目は口ほどに物を言うっていうしなー、態度が物語るとも言うしなー」

「いや、いつもちゃんと聞いてるだろ!?」

「ならばこの前教えた右手の親指と人差指で挟んでいる物体の長さを測る魔法の魔法名を言ってみろ」

「……覚えてない」

「はー、それでちゃんと聞いてるってよく言うわー」

「能見は本当に楽しそうだな」


 阿久津からそう言われたけど当たり前だろ。

 見ろよ、翔のこの悔しそうな顔。

 この顔を見てるだけで最高にハイって気分になるぜ。


「いい」

「名雪が敬語を捨てた」

「そこまでいいの……?」


 なんか視界の端で名雪さんが興奮してるのが見える。

 あの人が興奮してるとちょっと怖いな。

 もうそろそろ自重したほうがいいか。


「お前、調子乗って畳み掛けてくる所は陽菜ちゃんそっくりだよな」

「気に入った、魔法名は教えてやろう」

「ちょろい」

「その一言で教えるってよっぽどだな」

「シスコンだからな」

「シスコンで何が悪い!!」

「是非一度会ってみたいな」


 ちょうど自重するタイミングを探していたし、陽菜に似ていると言われたら嬉しいから仕方ない。

 ちなみに阿久津には会わせないぞ、イケメン死すべし慈悲はない。


「陽菜さんという方が気になりますねぇ」

「能見の妹らしいわよ」

「ほほう、一度お会いして見たいものですねぇ」

「能見君にお願いしたら会わせてくれるんじゃないかな?」


 なんで皆そんなに陽菜に会いたがるんだよ。

 そしてどう見ても名雪さんの目つきがやばい。

 絶対に会わせる訳にはいかないな。


「胸でも見せればいけますかねぇ」


 俺も男子高校生なので美人のおっぱいを見せてくれると言われれば動揺する。

 ただそんな気持ちもこちらを見ている名雪さんの表情を見るとあっという間に掻き消えた。

 なんであんなに気持ち悪い笑顔なんだろうか。


「真琴、魔法名は?」

「あ、ああ、魔法名は[自動カウントシステム]だ」

「まんまじゃねぇか」

「日本語と英語が混じっているのが日本人らしいな」

「ややこしい名前にすると使ってもらいづらくなるし……」

「よし、さっそく使ってみるぞ、【自動カウントシステム】」


 楽しそうに世界書を取り出して魔法を使うとすぐに辺りをキョロキョロと見回し始めた。

 おそらくなにかを数えているんだろう。


「おお、ちゃんとカウントされてるな」

「どうだ、すごいだろう?」

「何をカウントしたんだ?」

「いやぁ、クラスにDカップ以上が3人もいたとは気づかないもんだ!!」

「は!?」


 突然大声でとんでもないことを喋り始めた。

 内容が内容だけに男子はもとより女子も一斉に注目している。


「いやぁ、カウントしてくれると楽でいいな!! クラスのカップサイズ計測が捗る!!」

「そんな用途で作ってないよ!?」

「まったく真琴の作った魔法は最高だな!!」

「悪用してるだけだよね!?」


 まるで俺がカップサイズを測る魔法を作ったかのようにアピールしている。

 こいつ、分かってやってやがるな!!

 女子の視線がかなり冷たいので明らかに主犯格として認識されている。

 これはまずい。


「能見、どういうことかしら?」


 和泉さんが普段使わない敬語で話しかけてきた。

 ブチ切れずに笑顔を装おうとしてるのが逆に怖い。


「い、いや、あの魔法は数えるだけでおっぱいのサイズとかは」

「ああ?」

「いえ、はい、すみません……」


 弁解しようとしたら恐ろしいほどのプレッシャーを感じてつい謝ってしまった。

 後ろにスタンドが見えた気がするよ……。


「いやぁ、全部真琴の指示だったんだ」 

「嘘つくなよ!?」


 ニヤニヤしながら答える翔。

 こいつやり返されたからって根に持ちやがって。


「春日井もそうだけど次使ったら潰す」

「はい……」

「真琴の指示次第だろ」


 返事を聞いて不機嫌そうな顔をしながら席に戻っていた。

 明らかに視線が下がっているので何を潰すかは明白だ。

 でもあれだけ殺気立っていたのに翔はどうしてこんなに落ち着いているんだ!?


「自重してれば秋穂は何もしないだろ」

「なら自重しろよ!?」

「真琴殿の指示に対して前向きに善処する方向で検討することを考えております」

「やる気ねぇ!?」


 絶対また使うに決まってる。

 いっそあの魔法消した方がいいか?


「待て待て、魔法を消すのはなしだ」

「悪用される魔法は消さないとな」

「せっかくまともに使えそうな魔法なんだから大事にしようぜ」

「今までの魔法がまともに使えないってことか!?」

Exactlyそのとおりでございます」 


 喧嘩だな。 喧嘩を売ってきたんだな。

 売られた喧嘩は買わなければならない。

 まともに使えないと言われた魔法でボコボコにしてや「お楽しみ中申し訳ありません」


「へ?」

「なんだ名雪、珍しいな」


 そう思っていたら名雪さんが割り込んできた。

 よく話しかけてくる人だが、あまり会話に割り込むタイプではないので珍しい。


「陽菜さんという方は妹さんですかねぇ?」

「そうだぞ」

「なんで翔が答えるんだよ!?」

「もしかして陽菜さんも能見君と同じくらい面白い方ですかねぇ?」

「うむ、陽菜ちゃんは面白いぞ」

「翔、黙れよ!?」


 興味を持たれたら面倒だろ!?

 せっかく適当にごまそうとしたのに台無しだ。


「なるほどなるほど、是非オトモダチになりたいものですねぇ」


 さらに迫ってくる名雪さん。

 やばい、完全に興味持ってる。

 陽菜と名雪さんは相性が良さそうだから絶対悪影響受けるぞ。


「よければ紹介頂けますかぁ?」

「お断りします」

「それなりの大きさの胸ですがこちらは紹介料ということで」


 そう言って襟元を広げて前かがみになって近寄ってきた。

 俺も男なのでつい目線が下がってしまう。


「交換条件とか最っ低」

「真琴の人間性を疑うな」

「勝手に差し出されたのに評価下げないでくれますか!?」

「ばっちり見てるじゃない」

「覗き込んでるだろ」

「能見は胸に興味ないと言ってたけど嘘だったんだな」

「興味ないとはいってないだろ!?」

「つまり興味あるのね?」

「紹介料受け取ったんだから紹介しないとな」


 こうして陽菜の連絡先を教えさせられた。

 変な道に染まらなければいいんだけど……。


 ようやく一段落したところで藤田さんが近寄ってきた。

 無表情なのにこころなしか怒っているように見える。


「ふ、藤田さん?」

「……大きいのが好きなら好きって言えばいいのに」


 そう言い残して教室から走り去っていった。


「違うんだーーー!!!」

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