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39.MP吸収魔法(前編)

 魔法は徐々に日常の中に溶け込んできた。

 なくしたものを探したりその場に足りないものを補ったりとちょっとしたことに便利だからだ。

 ただそうなると問題が一つ出てくる。


「どうしてもMP回復手段が欲しいよな」


 現状、何をするにしてもMPがネックだ。

 俺は魔法が人気になったおかげでレベルが大分あがり最大MPも1000以上ある。

 でも普通の人は精一杯頑張っても最大MPが40もいかない。

 これをなんとか譲ることができればいいんだけど……。


「単純なMP譲渡は極端に効率悪いんだよな」


 普通にMPを譲渡する魔法を作ると効率が0.1%になる。

 1000消費して1回復とか使い物にならない。


「制約をつけても大して変わらなかったし」


 長い詠唱を入れると多少ましになったけどそれでも0.11%だった。

 他にもいくつか制約を入れても0.12%でほとんど意味がない。

 自身に不利な要素が少ないからだろうか?


「そういう時は考え方を変えるんだよ、お兄ちゃん」

「だからお前はなぜひとりごとにツッコむんだよ」


 隣の部屋にいる陽菜がツッコミを入れてきた。

 そんなに大きな声で話したつもりはないのに聞こえるのか。


「お兄ちゃんは構ってあげないと死んじゃうからね」

「兎か!?」


 まあでも息抜きしたほうがいいか。

 人と話したら意外と良い案が生まれるかもしれない。


「で、何の考え方を変えるんだ?」

「回復量が100%になるように設定すればいいんだよ」

「は?」

「そうすれば勝手に何かが調整されるよ」

「天才じゃったか」

「知らなかった?」


 声だけでもドヤ顔してるのが分かるな。

 でもたしかにその通りだ。

 回復量が少ないのが問題なのだから、一度回復量を上げて設定してみるのはありだな。


「おお、設定できた……、けど成功率がついたか」


 回復量が100%になるようにしたら、今度は成功率が設定された。

 それもかなり低い設定値で0.0001%以下になる。


「つまり回復量と成功率がトレードオフってことだよね」

「そうなるな」

「ドヤァ」

「なぜそこで勝ち誇るのかは理解できないぞ」

「世界の真理に一歩近づいたよ」


 こっそり陽菜の部屋の前に行きドアから中を覗くと、他に誰もいないにも関わらずドヤ顔してる妹がいた。

 そのまま部屋に入り、あごをタプタプする。


「あばばば」

「最近肉が少ないからタプりづらいぞ」

「あごに肉がつくのはそうとうヤバいよ」

「まあたしかに」


 仕方ないのでほっぺたをムニムニしておく。

 こちらも肉は少ないけど掴めるぐらいはある。


「いひゃい」

「ドヤ顔する陽菜はかわいいなぁ」

「えへへ」


 陽菜のほっぺたを堪能しながらさっきの話を考える。

 回復量と成功率がトレードオフということは期待値が最大になる地点があるだろう。

 ただそれでも0.2%までいかないだろうな……。


「普通は妹のほっぺたをこんなに自由に揉めないんだよ?」

「揉んでるんじゃない、揉まされているんだ」


 どう見ても揉んでくれって顔してるのに何を言ってるんだ。

 昔からなぜかほっぺたを揉まれるのが好きなんだよな。


 ん? 揉まされる?

 何か閃いたので陽菜のほっぺたから手を放す。


「どうしたの?」


 いきなりほっぺたから手を離されたので気になったようだ。

 俺が世界書を取り出したら後ろに回り込んできたので、座って覗き込みやすいようにしてやる。


「MPを渡すのを主目的にしなければどうかと思って」

「……どういうこと?」

「端的に言うと魔法被弾時吸収」

「なるほど、お兄ちゃん冴えてる」


 魔法被弾時吸収。

 具体的には敵から魔法を受けた時にその魔法の使用MP分のMPを回復させる。

 有名なゲームにも存在する魔法だ。


 ただし実際にゲーム中で使ったことがある人は少ないだろう。

 そのゲームの場合、味方からの魔法では回復できず敵からの魔法に限られる。

 雑魚相手だと魔法を受ける前に敵が死ぬしボス相手だと大体補助魔法打消しで消される。

 そもそもそんな受動的な回復手段に頼るよりアイテムとかでMPを回復すればいい。

 ただしそれはあくまでゲームの話だ。


 この世界であれば味方は自分自身しかいない。

 例えば俺が陽菜に魔法を使うのは敵判定だろう。

 大した被害がなくそれでいて消費MPの高い魔法を使えば十分に使える。

 しかもMP回復手段は他に存在しないとくれば有効な回復手段となりえるんじゃないか?


「お、やっぱり既に作られている」


 魔法を設定すると既に登録されていた。

 これぐらいなら絶対誰かが作っているものだと思ったよ。

 ただ説明文を読むとこれでも0.2%らしい……。


「駄目だ、まだ0.2%だった」

「魔法に効果があるから駄目なんだよ」

「は?」


 陽菜がドヤ顔をしながらよく分からないことを言い始めた。


「効果も欲しい、MPも欲しいなんて贅沢だよ」

「いや効果を打ち消してMPも欲しい方が強欲だろ」


 M:tGで、打ち消してそのマナコストを吸収して自分のものにする魔法があるけど、強すぎて狂っていると言われるぐらいだ。


「ちっちっち、そうじゃないんだよ、お兄ちゃん」


 指を振ってそう答える陽菜。

 ちょっと調子に乗っているのでほっぺたをつまむ。

 何度触っても本当に触り心地が良い。


「いひゃい」

「調子に乗ってる子は誰かな」

「あたひ」

「可愛いんだからもう少し気をつけなさい」

「はーい」


 かわいくて調子に乗る子は嫌われるのである程度自重するようにさせないと。

 元々いじめられた原因も陽菜がダントツにかわいかったからだし(※作者注 そんな事実はありません)


「で、どうしたんだ?」

「被弾側にメリットのある魔法もデメリットのある魔法もいっしょくたにしてるから駄目なんだよ」

「ふむ、続けて」

「辻ヒール受けてMPまで回復したら強すぎるでしょ?」

「たしかに」


 そうか、被弾する側にメリットのある魔法を受けてもMPが回復するということになるのか。

 そしてそれは制約として機能しないから効果が抑えられた、と。

 でもデメリットがあるかないかなんてどうやって区別すればいいんだ?

 状況次第でいくらでも変化しそうだし定義が難しい。


「だから魔法を打ち消すんだよ」

「……理屈は分かるけど打消しのコストが高すぎるだろ」


 たしかにかけようとしてきた魔法を打ち消すなら魔法の効果は関係ない。

 でも魔法を打ち消すのはかなりコストが高い。

 当たり前だ、魔法の打ち消しなんて使い勝手がよすぎる。

 その上で消費MPを吸収してコストを賄えるならみんなバンバン使うぞ。


「ふふーん、考えが甘い、まだまだだね」

「ツイストサーブぐらいひねった回答を期待するぞ」

「[対抗呪文]で打ち消した時に発動する制約にすればいいんだよ」

「は?」

「打ち消しというコストは[対抗呪文]に持ってもらう、どうよ」


 鼻息荒くちょっと顔を上に向けてドヤ顔している。

 かなり調子に乗っているけど、それだけの価値はある内容だ。


 あくまで[対抗呪文]が発動した時に効果がある魔法として設定する。

 それなら魔法を打ち消しているので魔法を使われてメリットがあるとはいえない。

 制約として発動条件がある魔法として認識されるだろう。

 しかも特定の魔法が発動した時に限るならかなり厳しい制約のはず。

 ちょっとやってみよう。


「おお、0.33%まで来た」

「うーん、もうネタがないよ、お兄ちゃん」

「よく頑張ったな、えらいぞ」

「えへへー」


 褒められると素直に喜ぶのが陽菜の可愛い所だ。

 こういうのは大きくなっても変わらないでいてほしい。


「しかしもう少しって感じなんだけどな」


 なんとか吸収率0.33%まで到達したけど手詰まりだ。

 その状態で一応吸収率100%にしてみたけどやっぱり成功率がついてしまった。

 成功率0.1%じゃ期待値も0.1%なのでほとんど意味がない。


「ただなんか既視感があるんだよな」

「バランス調整に?」

「そうなんだよ」


 成功率と吸収率のどちらを優先したほうが良いか。

 安定性と期待値の高さ、普通に言えば期待値の高さの方が優先……。

 はっ!?


「太陽マリシャスだ」

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