「太陽マリシャスだ」
「お兄ちゃんが昔やってたゲームのやつ?」
「そうそう」
かつてやっていたオンラインゲームで同じような話を見たことがあったんだ。
ある武器は成功率100%・吸収率1%でHPを吸収。
もう一つの武器は成功率12%・吸収率60%でHP吸収。
後者の方が期待値が高くかつ攻撃回数が多いゲームだったので期待値通りに収束しやすい。
その結果、前者はゴミ扱いされてきた。
でもある日誰かが気づいた。
二刀流したらどうなるのか?
具体的には、片手に成功率100%・吸収率1%の武器を持ち、もう片方に成功率12%・吸収率60%の武器を持つ。
もちろん普通に考えれば個別に計算されるだろう。
しかしなぜか100%の確率で60%近く吸収する結果となった。
このゲームは武器ごとにダメージ計算する癖になぜか特殊効果は両方の武器に乗る。
同じ効果は加算、別種の効果は乗算される仕様があるのでおそらく確率が合算されて成功率112%・吸収率61%になったのだろう。
当たり前だけど確実に成功する吸収率61%の効果は絶大だ。
みんな手のひらを返して、そのゴミ扱いしてきた装備を買っていた。
まあ俺もその一人なんだけど……。
明らかにバグっぽい挙動だけど長く修正されなかった。
もしかしたら同じような挙動が起きる可能性が……。
「魔法を作ってみた、試しに使ってくれ」
「分かったよ」
陽菜に今作った魔法二つを使ってもらう。
次に適当に[対抗呪文]の対象になりそうな魔法を使う。
「【炎】」
「わっ、MP9回復したよ」
「待て待て、まだ運が良かっただけかもしれない」
追加で2回試してみても同じように9回復した。
三回連続で0.1%を成功させる確率は0に近い。
「やった、これで効率的にMP回復出来るぞ!!」
「やったね、お兄ちゃん!!」
「おいやめろ」
そんな鬱フラグ立ちそうなセリフは危険だ。
「続編で鬱フラグクラッシャーになったらしいよ」
「何それ知らない」
「後で読むといいよ」
あの漫画に続編が出てあのセリフが鬱フラグクラッシャーになるってどういうことだよ。
「ただ100%吸収にはならなかったな」
「そうなったら無限に経験値稼げるよ」
「なるほど」
たしかに無限ループ出来たらレベルアップが簡単になりすぎるか。
しかしそれを潰すなら確率の方も100%じゃない可能性があるな。
「確率も検証してみるか」
「いいよ」
2人で吸収し合って合計500回ほど魔法を使ってみたけど、失敗することは一度もなかった。
「絶対成功すると断定はできないけど、気にするほどでもなさそうだな」
「私のカンは絶対成功だと言ってるよ」
陽菜がそう言うなら絶対成功なんだろう。
でもそうだとしたらちょっと違和感がある。
「なんというか中途半端にバランスが取られているように思うな」
「そうなの?」
「バグは残すけど致命的にならない程度に抑えてる感じ」
「お兄ちゃんのカンは当てにならないからなー、……いひゃい」
「たまには当たるんだぞ」
まあ細かい部分は置いといてとりあえず効果があったのは間違いない。
これで新しい魔法の検証に付き合ってもらう時に相手のMPを心配しなくてもよくなる。
検証用という名前で作ってたので一度消して改めてみんなが使えるように形を整えよう。
「でもこれ無限じゃなくてもかなり危険な気がする」
「え、どうしてだよ?」
陽菜が難しい顔をしている。
いいことずくめだと思うのになぜ?
「等差数列の総和は項数に比例して飛躍的に増えるんだよ」
「は?」
いきなり等差数列とか言われても何を言ってるのかさっぱりだ。
数列って言うから数学なんだろうけど……。
「授業で習ったよね?」
「まったく記憶にございません」
「政治家的発言ならよかったんだけど素の発言だよね」
「そんなの習ったか?」
「まあ概念は難しくないよ」
そう言うと世界書を閉じてこちらに顔を向けてくる。
真剣な表情をしているのは珍しいな。
「1から30を全部足した数はいくつ?」
「……そんなの分かる訳ないだろ」
「答えは465だよ、じゃあ1から1000は?」
「さっきのが分からないのに分かる訳ないだろ」
「答えは500,500だよ」
「計算早すぎだろ」
「コツがあるんだよ、まあそれはともかく桁外れの差だよね」
「たしかに飛躍的に増えてるな、それがどうしたんだ?」
「つまりレベルが高い人ほど効率がいいんだよ」
まあたしかにそうなるよな。
一度に使える量が多いし使える回数も多い。
でもどんな使える量が多くても受け取れる量に限りがある。
あふれた分は吸収できないから、実際はそこまで稼げn……ん?
「高レベル同士だとヤバい?」
「その通りだよ」
高レベル同士なら最大値で譲渡しあうことが出来る。
そうすればさっき陽菜が言ったような莫大な経験値が手に入る。
その経験値でレベルが上がればさらに効率が上がって……。
「思ってたより稼げる?」
「経験値稼ぎの土台から覆すかも」
「……うん、公開はやめよう」
「それがいいよ」
無暗にバランスを崩す真似をする必要はない。
俺のMPを譲渡する方法が欲しかっただけなんだから、適当に名前つけて説明文もデタラメなものにしておこう。
「これで終了だね、ほんと長かったよ」
「何言ってるんだ? 効率の良い稼ぎ方を教えてくれたのは陽菜だろう?」
「え、まさか……」
「まずは軽く1000回ほど使おうか、なに、声に出さないなら負担は少ない」
「いやあの私はお兄ちゃんをMPタンクに出来ればそれでいいので……」
「お兄ちゃんのMPを育てるためには誰かが必要だよなぁ」
「あは、あはは、私はこのへんで」
「逃さん……お前だけは……」
「お兄ちゃんの馬鹿ーー」
その後がっつりやったので陽菜のレベルはあっという間に20以上あがった。
陽菜は拗ねてたけど仕方ない。
・・・
レベル上げをしてMPが増えたおかげか今はいろいろな魔法を試しているらしい。
俺と違う視点で魔法を探すのでなかなか参考になる。
「お兄ちゃん、MPほしいんだけど?」
「今度は何に使うんだ?」
「ふふん、明日の天気を当てる魔法だよ」
「おお、すごいな、でもそんなに消費MP多いのか?」
「ただし地域がランダム」
「使えねえ!?」
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるって言うよ、お兄ちゃん」
「ちなみに範囲は?」
「全世界が範囲になっていて1地域2500平方キロメートルぐらいっぽい」
「膨大すぎる!?」
地球の表面積が5億平方キロメートルぐらいだから
10万ぐらい地域があることになるよな。
下手な鉄砲を打つにも玉が足りなさすぎる。
「昨日は3回でこの辺引けたよ」
「豪運すぎることを自覚するんだ」
「お兄ちゃんとは違うんです」
「他の誰とも一緒にならねぇよ」
ある程度近くでOKとしても10万回試行してようやく6割程度だろう。
どんな無茶な確率を引き当ててるんだ。
「狙った地域の天気を予想する形じゃ駄目なのか?」
「消費MPが高すぎるっぽいよ」
確定で当たる天気予報となるとそれぐらい制約がないと駄目なのか。
「ということでMPちょーだい」
某ゲームのBGMを口ずさみながらそう言ってくる陽菜。
壺に入ってる感じで縮こまってるのがポイント高い。
「どのくらいだ?」
「400ぐらい」
「そんなにいるのかよ!?」
確率が低いと分かってるんだから自重はしてほしい。
まあ俺からMP貰えばいいと考えていたんだろうけど。
「マジックポットはエリクサーあげると大量のアビリティポイントくれるけど陽菜は何をくれるんだ?」
「HPをあげるよ」
「ヒットポイント?」
「ヒナポイント」
なんか新しいポイントが出てきたぞ。
ドヤーって顔をしてるからよっぽど言いたかったんだろうな。
「ポイントを使えばなんと陽菜ちゃんが言うことを聞いてくれます」
「ほう」
「今ならMP1ごとに1ポイント進呈」
「なるほど、例えば今回のポイントなら何をしてもらえるんだ?」
「陽菜ちゃんの笑顔がもらえます」
「仕方ないなぁ」
世界書を出してMPを渡す。
もう何度もやっているので慣れたものだ。
「ありがと、お兄ちゃん♪」
いい笑顔でお礼を言う陽菜。
こういう反応が返ってくるならMPなんておしくない。
「ポイントが貯まる気がしないな」
「あ、この笑顔はサービスだよ」
「妹はかわいいなぁ」
「あばばー」
しかし陽菜にしか教えないというのも何かもったいない気がするな。
でも翔は面倒臭がるだろうし阿久津や江川はあんまり魔法を使っているイメージがない。
だれか良い人がいればいいんだけど。