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41.少しずつ縮まる距離

 昼休み。


「面白い魔法を見つけたんだ」

「ほう?」

「今まで生きてきて何km歩いたかわかるって魔法」

「いや……使い所がないだろ?」


 翔が呆れた様子で俺を見ている。

 こいつ、またろくに考えずに印象で答えてやがるな。


「何言ってんだよ、そんなの調べようがあるか!?」

「調べる気にならないと言うのが正しいな」

「いやいや、調べる気があっても無理だよ!!」


 この前のことでまだ反省してないな。

 魔法でしか出来ないことっていうのはものすごい価値があるんだぞ。


「つまり今まで食べたパンの枚数も分かるってことだよ?」

「吸血鬼にならんと不要な情報だな」


 そんなこと言ってると石仮面かぶせるぞ。

 特定のものを装備することで発動する魔法は作れるのでパン以外食べられないようにしてやる。


「また始まったな」

「能見君って今まで目立たなかったけど変人だよね」

「そうそう、魔法好きって言ってるけど正しくは魔法狂い」


 あいつ、俺の悪口に乗じて和泉さんと仲良くしてやがる。

 この件は絶対に許さない、後で覚えておけよ。


「仮に一万km歩いてたと分かったとして、それに何の意味はあるんだ?」

「一万kmって言ったら地球の四分の一を踏破してるってことだよ、すごいと思わないか!?」

「思わない」

「この情報を元になんかすごい魔法が使えたりするかもしれないじゃないか!?」

「ないな」

「LEDだって最初はカスレアだったって聞いたぞ!?」

「先見の明がなかっただけだろ?」


 LEDとはM:tGのカードで〘ライオンの瞳のダイアモンド〙の通称だ。

 かつてはカスレアと呼ばれて10円でも売れ残っていたらしいけど、今では数万出してようやく買えるぐらいになっている。

 これはカードの真価を理解できなかったからではなく、当時は本当に使い道がなかったらしい。

 それを先見の明のなさと言うのは言語道断。


「藤田さんもそう思うよね!?」


 翔だけでは反応が鈍すぎるので応援を呼ぼう。

 藤田さんならきっと賛同してくれるはず。

 チラリと藤田さんの方を見ると、返事はないけど若干口元が微笑んでるので同意しているはずだ。


「ほら、藤田さんも同意してるし」

「透子ちゃん何も言ってないだろ……」

「表情で分かるよ!?」


 どう見ても口元が笑ってるだろ。

 あれは同意してくれた時にしかしないんだよ。


「露骨に藤田を巻き込んでいくな」

「藤田さんは能見君のお話をよく聞いてますからねぇ」

「そうなのか?」

「ええ、ええ、すべて受け入れるでしょうねぇ」

「どおりでな、納得だ」


 阿久津と名雪さんまで外野に混ざってきた。

 ただ絶対話しが噛み合っていない。

 巻き込むって話をしているのによく聞いてるってなんだよ。


「面倒を見てもらってるのはどっちなのか」

「たしかに最近は藤田さんの方が保護者みたいに思えてきた」


 江川の方が和泉さんに面倒見てもらってるだろうが。

 最近は一緒に勉強してるとか言ってたし実質付き合ってるようなもんだろ、爆ぜろ。


「まあ真琴の妄想は置いといて」

「おかしい、どうして理解してもらえないんだ」

「理解しやすい魔法作ろうぜ、テストで百点取れる魔法とか」

「それ全員使ったら結局意味なくない?」

「まあたしかにな」

「あえて八十点ぐらい狙ってみるのもありかも」

「それはそれで点数配分が分からないとつらいだろ」

「あ、そうか」


 満点は全部正解すればいいけど中途半端な点数は配分が分からないと無理だ。

 なるほど、同じことを狙っているのに挙動が変わることもあるのか。


「面白い」

「またなんかいい出したぞ」

「何か応用が出来たりしないかな」

「これはしばらく帰ってこないだろうしもう帰るか」

「よく分かるな」

「長い付き合いだからな、あ、透子ちゃんちょっと」

「……なに?」


・・・


「うん、使えそうだし家帰って試してみよう、翔、さっきの話なんd……あれ?」


 気づいたら翔はいなかった。

 それどころか人がほとんどいない。 


「考えるのは終わり?」

「え?」


 振り向くと藤田さんがいた。

 でも藤田さんの席から離れている場所にどうして……?


「春日井くんから頼まれた」

「翔から?」

「『これにサインして家まで持ってきてほしい』と伝えて欲しいって」


 そう言われて藤田さんの手元を見るとボクシングの観戦申し込み用紙だった。

 そういえば週末に大会があるとか言ってたな。


「つまり藤田さんにこんなしょうもないことを頼んだ、と」

「期限今日中だからって」

「だからって」


 それなら待っていればいいのに。

 面倒だから人に頼むなんて最低なやつだな。


「友達だから構わない」

「あ……うん、ありがとう」

「……一緒に帰る?」

「あ、ぜ、ぜふお願いします」

「ぜふ?」

「是非!!」

「……堅苦しい」


 ふおおおお、かわいいいい。

 ちょっとほっぺたを膨らませた姿を見て天にも登りそうな気分になる。

 名前をつけて保存しておきたい、名前は天使降臨で。


「そのまま天国に連れて行く」

「また聞かれてた!?」


 天使だけに天国行き!?

 トラック転生は嫌だー。


「パトラッシュは置いていく」

「この後の戦いにはついていけないからね」


 目線を斜め上にそらして少し考え込んでいる。

 しまった、さすがにドラゴンボールネタは通じなかったか。

 藤田さんがフランダースの犬でボケてくれたのでつい嬉しくて俺もボケてしまった。


「……何の戦い?」

「ドラゴンボールって漫画でそういうネタがあってね」


 元ネタを説明すると興味深そうに聞いてくれた。

 なんかもうこれだけで幸せだ。


「いろいろ詳しい」

「いや別にたまたま好きなものだったから……」 

「最近は阿久津くんとよく喋ってる」

「あいつは何なんだろ、なんか絡んでくるんだよな」

「そういう言い方は失礼」

「気をつけます……」


 怒られてしまった。

 そうだよな、他人の悪口なんて聞きたくないよな。

 つい余計なことを言ってしまう癖があるから気をつけよう。


「……何km歩いたかわかるって魔法は面白い」

「え? あ、うん、そうだよね」

「毎日記録して歩幅で割れば歩数計いらず」

「おお、言われてみれば」


 そうか、累積しか考えていなかったけど毎日使えば前日の量になるのか。

 しかも移動距離という点で言えば歩数計なんかよりよっぽど正確なのでは?

 記録する魔法とセットしてなにか出来そうな気が……。


「能見くんの魔法の選び方は面白い」 

「そ、そうかな? あんまり自覚はないんだけど」


 おっと、藤田さんと一緒に歩いているんだった。

 こんな夢みたいな状況なのに自分の考えに没頭するのはもったいない。


「ワタシは好き」

「好き!? ってああ、違う、ごめん……」


 つい好きって言葉に反応してしまった。

 藤田さんも……あれ? なんか見たことのない表情だ。

 なにか言いたいけど言えない感じが伝わってくる。

 どうしたんだろう?


「何か話したいことがあったりする?」

「……別に」


 顔を伏せてしまった。

 あ、これは無理に聞いちゃいけないパターンだ。

 陽菜もたまにこんな感じになることがあるから分かる。

 しつこく聞くと怒り出すんだよな。


「今日はここまで」

「え、あ、うん」


 まだ藤田さんの家に到着してないけど仕方ない。

 無理についていったら嫌われるかも。


「また明日」

「う、うん、また明日」


 やった、お別れの挨拶してもらった、嬉しい!!

 ただ顔を見て挨拶できなかったのは残念だな。


 ちなみにボクシングの試合は見たけど一方的に翔が殴っているだけだった。

 もっと泥試合的なのを想像したのになんというかスマートすぎて地味だな。

 まあ学生だしこんなものなのかな?

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