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48.名雪さんからの依頼(中編)

 本気でどうしよう。

 あの後、休憩時間にいろいろ調べていた。

 調べてすぐ分かったのは大して難しい魔法ではないということだった。

 あくまで文章を映像化するだけなので表現範囲が限られるのが良かったんだと思う。


 ただ問題はこれだと俺に頼む理由がない。

 ちょっと調べればすぐ出てくるのにあえて俺に頼んだ理由はなんだ?

 何かを期待してるんだと思うけどその何かが分からない……。


「タコが豆鉄砲食ったような顔してどうした?」

「玉を弾力で弾きそうな顔ってなんだよ!?」 

「……なかなか返しが難しいツッコミだな、もう少しボケ側に優しく頼む」

「一方的にボケてきてそれかよ!?」


 阿久津が絡んできたけど、絡み方がいちいち面倒くさい。

 もう少し分かりやすく出来ないのだろうか。

 誰しもがお前みたいに能力がある訳じゃないんだぞ。


「リアクション芸で返せばいいじゃないか」

「それをしてたから名雪さんに絡まれたのでは?」


 名雪さんは反応してくれそうな人の所に来ている気がする。

 リアクション芸なんてしてたからあんなに絡んできたに違いない。


「絡まれるのは人徳と言うぞ」

「絡まれた結果が今の状況なんですが」


 まあ今回は魔法のことだからいいけど、普段のナマモノの話はSAN値が削られる。

 何が悲しくて鳥海と桐谷のどちらが攻めかを想像しないといけないんだ。


「綾瀬が絡んでくるのは珍しいんだぞ?」

「は? 普段から男女問わずいろんな人に絡んでるじゃないか」

「あれは一方的に話しているだけで個人を見ていないからな」


 たしかに俺もひとりごとのように感じていた。

 いつも名雪さんが一方的に喋るばかりで、話を振っても乗ってくれる印象がない。

 絡んできていると思ってたけど違ってたのか。


「だからお願いされるなんてよほど信頼されてるんだろうな」

「……なんでそんなに詳しいんだ?」

「一応幼馴染ということにはなるな」

「はぁ!?」


 さらっと言われた爆弾発言に動揺してしまう。

 え、幼馴染ってあの幼馴染だよね!?


「一度もそんな素振り見せたことないよね!?」

「積極的に話すほど仲が良い訳ではないからな」

「あんな美人と幼馴染で!?」

「小さい頃からあんなだぞ?」


 やれやれというリアクションで答える阿久津。

 それはそうだろうけど納得できない。


「顔がいい癖にあんな美人の幼馴染がいるとか、豆腐の角に頭ぶつけて死ね」

「凍らせても難しそうだな」


 罵られて楽しそうに返事してるが何がよかったのか。

 もしかしてMか?


「まずいな、綾瀬がやる気になっている」

「は?」


 そう言われて名雪さんの方を振り向くと、よだれが零れ落ちそうな笑みを浮かべている。

 あれは美少女がしていい表情じゃないぞ。


「本のネタになるのは嫌なんだが……」

「本のネタってなんだよ!?」

「綾瀬は小説を書いてみんなに配ってるんだ、実物もあるし電子書籍化もしてる」

「聞いてないよ!?」

「まあ男に知られないようにしているからな」


 だから最近橘さんや和泉さんが洗脳されてきているのか!?

 通りで腐るのが早すぎると思ったんだ。


「でもなんでお前は知ってるんだよ!?」

「小さい頃に手伝わされたからな」


 阿久津が遠い目をしている。

 そうか、大変だったんだな。

 阿久津の見た目は良いからきっとたくさん絡まされたんだろう。

 文字だけとはいえ読んだらSANチェック必須に違いない。 


「ふむ、綾瀬が欲しいのは挿絵を描く際の補助かもしれないな」

「……あまり聞きたくないけど教えてくれ」

「あいつは挿絵も描いてるんだがそれの参考にしたいんじゃないか?」

「万能だな!?」


 チラリと名雪さんの方を見るとものすごい勢いで何かを書いている。

 もしかして今も何か描いてるのか?

 小説を書けるのに絵も描けるってのは素直にすごいと思う。

 それなら一人で本を作れるってのも理解できる。


「あれ? それこそ頭の中にイメージがあるんじゃないの?」

「よほど高い画力がないと上手く表現できないからな」


 たしかに頭の中でイメージがあっても実際に描こうとしたら上手く描けないことはよくある。

 試行錯誤している内に頭の中のイメージも変化してしまってどうしようもなくなる奴だ。

 そんな時に決まったイメージが残り続けてくれるのは助かるってのは分かる。


「……でも文章中じゃ表現しきれていない部分はどうするんだ?」


 頭の中なら全てがイメージになっているけど、文章に落とし込む際にはかなり描写を削っている。

 『ジャンプした』と書かれてもどのようにジャンプしたかは分からない。


「小説全体の内容から推定してイメージ化してほしいんじゃないか?」

「小説全体の内容からの推定?」

「多少調べたんだが魔法を使って文書のイメージ化をする場合って数行ぐらいを読み込むよな?」

「そうだね」

「それを小説全体に拡大するんだ」

「いやいやいや、それだと消費MPが膨大になりすぎるよ!?」


 イメージ化する部分が多いほど消費MPが増えるので必然的に短くなる。

 かといって削りすぎると足りない部分を使用者の想像で補うのでどの程度までにするかがポイントとなる。


「イメージ化しなければどうだ?」

「は?」


 ニヤリと笑ってとんでもないことを言ってきた。

 イメージ化しないってどういうことだよ。


「バックデータとして読み込むだけだ」

「……は?」

「それなら消費MPは少なくて済むだろ?」


 まてまてまて、よく考えろ。

 たしかにどれだけ形容詞を増やしてもMPが増えることはなかった。

 それはバックデータを増やすのと同じ……いや、増えてるけど気づかないレベルなのかも。

 実際に試してみないと。


 さっそく世界書を出して言われた通りに魔法を作ってみる。

 消費MPは変動式なので使ってみるまで分からない。

 とりあえず国語の教科書に載っている内容で試してみよう。


「まじかよ……」


 普通のやり方の魔法と阿久津が言ったやり方の魔法で試してみた。

 結果は消費MPが増えていたけど一割増程度。

 そしてイメージの内容はまったくの別物と言っていい。

 街中の風景がはっきりしていて髪型や服装も違っている。

 最初から文章を読み返してみると情報があったことに気づいたけど、初見では全然気づいてなかった。


「これは……すごい」

「予想通りだったな」


 軽い感じで答えているけどこれはものすごいことだぞ。

 公開すれば今までのイメージ化魔法は全て駆逐されると思う。


「……言いたいことは分かった、欲しいのも理解できた」


 でも何が悲しくて男と男が絡む挿絵を作る補助をしないといけないんだよ!?

 俺と他の男が絡んでるシーンがよりリアルになるとか嫌すぎるだろ!?


「そこは我慢してもらうしかないな」

「SANチェック必須なんですがそれは」

「通ってきた道だから理解は出来る」


 阿久津の顔色が暗くなった。

 やっぱりトラウマになるぐらいネタにされたんじゃないか。


「まあ能見のプライドとの兼ね合いだな」

「あ? ちゃんとばっちりリアルにしてやるに決まってるだろ」


 だがそのあおりをされたらやるしかない。

 SAN値よりプライドの方が大事に決まってる。


「方向性は決まりましたかぁ」


 阿久津との会話を聞いていたのか、話が途切れたタイミングで声をかけてきた。

 しかもいつもの気持ち悪い笑顔ではなく若干意地の悪そうな笑顔をしている。

 名雪さんは明らかに分かっていて、あえて伝えなかったようだ。


「ええ、なんとか」

「楽しみにしてますよぉ」


 表情と声色を聞くに、その言葉に嘘はない気がする。

 そういえば阿久津が手助けした時はものすごく怒ってたし、俺を試していたのかもしれない。

 ……俺の何に期待してるんだろう。


「可能性ですよ」

「え?」

「ではまたぁ」


 一瞬だけキリっとした声色で話した後すぐ去っていった。

 可能性……か。


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