方向性は決まったのでここからは詳細を詰めていくか。
そのためにも落ち着いた環境でやった方がいいし、さっさと家に帰ろう。
「ただいまー」
返事がないので誰も帰ってきていないようだ。
ちょうどいいので部屋にこもる準備をする。
「父さんの本棚から小説を借りていくか」
両親は共に本好きなので、家にはたくさん本がある。
基本的に広く浅い感じでジャンル問わず有名な作品がある感じだ。
せっかくなので実写化されている作品を何本か借りていく。
あと飲み物やお菓子も持って自分の部屋に戻り準備完了。
「さてじゃあやっていくか」
・・・
「この辺は上手く映像化出来てるな、よしよし」
実写化したものと魔法で作った映像を比較して表現の違いを確かめる。
小説のどの部分を強調するかは実写化したものを見た方が参考にしやすい。
背景の小物一つであっても話に奥行きを持たせているものがあったりするからだ。
「うーん、これは実写化の際に描写変えてるっぽいな、たしかにこういうのはどこまで考慮すべきなのか」
小説の内容的には豪勢なフランス料理らしいけど実写化は日本食になっている。
これはおそらく小説内の描写が少なすぎてどんなメニューか分からないからだろう。
抽象的な表現で馴染みのないフランス料理を出すより具体的で想像しやすい日本食に置き換える方がましという考えは分かる。
「でもどこまで表現を変えていいものなんだろう?」
もちろん出来るだけ文章に忠実に映像化したいのは確かだ。
しかし文章中に描写がないものはどうしようもない。
使用者に知識があれば上手く補うことが出来るだろうけど、分からないとどんなものが出てくるか……。
「文章を映像化する際はどこまで想像力で補うか、それが問題だな」
「お、なかなか面白いテーマだね、お兄ちゃん」
当たり前のように部屋に入って会話に混ざってくる陽菜。
せめてノックぐらいしろよ。
「私、気になります!!」
「ナチュラルに混じってくるな」
「Natural 〜身も心も〜」
「お前、また父さんのエロ棚を物色したな!?」
「お兄ちゃんと違ってオープンだから楽しい」
「普通は隠すよ!?」
なぜあそこまで堂々とエロ関係の品物を寝室に置いているのか。
本人曰く「夫婦の寝室に隔離してるからセーフ」と言っていたけど鍵がない時点で駄目だと思う。
ついでに「いやー、管理してないから何がなくなっても分からないなー」って言ってたし、分かっててやってる。
「作品名でピンと来るってことはお兄ちゃんも見たんだよね?」
「ミテナイッスヨ」
あそこにはエロゲの全年齢向け移植版が置いてあるからそれを借りるついでに見えただけ。
決して意図して見てないからセーフ。
「お父さんはJC〜JK辺りが好きなんだよ」
「やめて、父親のストライクゾーンなんて聞きたくない!?」
「純愛系がお父さんの趣味で、凌辱系はお母さんの趣味だって」
「まじかよ!?」
てっきり逆かと思ってた……。
あの夫婦は見た目と中身が違いすぎるだろ。
「って詳しすぎる!? どんだけエロに興味あるんだよ!?」
「そういう年頃なんです」
「男子中学生でもアウトだぞ」
「美人女子中学生ならセーフ?」
「作戦:貞操を大事に」
「変更不可、貞操がありません」
「まさか何かあったのか!?」
「お兄ちゃん、ステイ」
「相手は!?」
「お兄ちゃんステイだってば」
「相手がわからないか、よし、顔の広い阿久津や名雪さんに頼んで探しだしてもらおう」
「違うから、そうじゃないから」
「そうだ、魔法を使えば相手を見つけられる可能性あるな、絶対に探し出してぶちのめす」
「お兄ちゃん!!」
相手を探し出す方法を考えていると、いきなり陽菜に抱きつかれた。
「どうした、思い出して怖くなったか? 兄ちゃんがいるから安心しろ」
泣きそうな顔で腕の中にいる陽菜。
いじめの時もずっと笑顔で耐えている子だったのだからもっと早く気づいてやるべきだった。
一人でずっと抱え込んでいてようやく言えたんだろう。
俺は兄失格だ……。
「もっと早く気づいてやれなくてごめんな」
そう言って頭を撫でると、その手を握って俺をにらんできた。
あ、やばい、これは怒ってる時の陽菜だ。
「兄ちゃんの馬鹿、アホ、おたんこなす!!」
「いつの時代の人だよ!?」
「誰が襲われたって言ったの!?」
「まさか合意の上!?」
「違うよ、そういうこと自体ないの!!」
「は? だって貞操がないって」
「人としての正しい道を守ってないって意味だよ!!」
「…………いやいやいや、それは誤解するだろ」
「兄ちゃんの先走り!! 短小!! 包茎!!」
「覚えてる言葉手当り次第使うんじゃないよ!?」
どうやら勘違いだったらしく全力で大泣きし始めた。
よかった、陽菜に何もなくて。
でも久々に「兄ちゃん」呼びを聞いたな、幼稚園以来か。
思えばあの頃の陽菜が一番反抗期だったな。
……あれ? でも小学校に入ったら大人しくなったけど何があったっけ?
いまいち思い出せない。
「えっく、ふええん」
「よしよし」
今は落ち着かせるのが先か。
軽く抱きしめて背中をポンポンと叩く。
昔はよく泣く子だったけど最近はまったく泣いてなかったな。
せっかく頑張っていたのに俺が泣かせてしまうとは……。
しばらくその状態でいると、ようやく少し落ち着いた。
「取り乱してしまった……」
「そういうこともあるさ」
「お兄ちゃんが悪いんだよ」
「俺が悪かった、ごめんなさい」
「許す」
そう言って顔を俺の胸に押し付けてぐりぐりし始めた。
なんか胸の辺りが冷たくなってきた気がする。
「涙を服で拭ってないか?」
「気のせいだよ」
そう答えているけどさらに顔を押し付けているような……。
「なんか鼻水まで拭ってないか!?」
「女の子から鼻水なんて出ません」
「でも涙にしては量が多いし冷たいんだが?」
「きっとお兄ちゃんの心が冷たいんだよ」
「機械超人じゃないし!?」
「マシーンだから~」
「怒りのサンダーブレーク撃つぞ」
「お兄ちゃんのグレートブースターも残弾一発?」
「下ネタはやめなさい」
少し元気を取り戻したようだ。
その後はしばらく腕の中でいたが、スマホが鳴ったことで終了となった。
その後、ご飯を食べて今お風呂に入っている。
ふう、今日は失敗だったな。
陽菜に何かあったと思ってつい焦ってしまった。
ちょっと考えれば会話のネタだって気づいただろうに、想像力のほうが勝ってしまったのが駄目だった。
多分文章の映像化の魔法を作っていたから想像力が活発になったんだと思う。
同じ言葉でも受け取り方次第でこんなに変わるんだな。
……ん? 同じ言葉でも受け取り方が変わる?
それはつまり同じ文章を読んでも人によって受け取り方が変わると言えないか?
文章から忠実に映像化しようとしても情報不足で絶対に使用者の想像が混ざるから出来るだけそれを抑えようとしてきた。
でも考え方はむしろ逆なんじゃないか?
・・・
次の日の放課後。
名雪さんに魔法の説明をするために残ってもらった。
「基本は文章の映像化の魔法だけど使用者の知識・感情が色濃く反映される仕様にしています」
「ほほう、それはどうしてそのような仕様に?」
興味ありげに質問してきた。
よし、やはり方向性は間違っていなかったっぽいな。
「イメージの映像化と言っていたからです」
元々の依頼はイメージの映像化だ。
そしてイメージとは脳内で描かれたもの。
つまり文章に対して忠実に映像化する必要はない。
「その代わり、バックデータとなる文章がないと求めている映像にならないと思いますよ」
「構いませんよぉ」
ニコニコしながら何枚かのレポート用紙を取り出す名雪さん。
既に準備済みだったようだ。
「あ、でも映像の外部出力は無理で……」
「それは分かってますよぉ」
「その代わりもう一つ特徴があるんです」
「どういう特徴ですかぁ?」
「同意を得た相手と手をつなぐとその相手の脳内にも同じ映像が流れます」
「ほほう、面白い発想ですねぇ」
どうしても映像を共有したかったのでいろいろ試した結果、この方法に落ち着いた。
本当は外部出力出来たらよかったんだけどそれは無理だった。
「うんうん、これなら何度でも見れて他の人とも共有できるから便利ですねぇ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
喜んでもらえたようだ。
優しく微笑むように笑ってる姿はやっぱりものすごい美人だな。
なんでいつもあんな変な笑い方をするのか、これが分からない。
「でもどうしてこの魔法名を?」
「もう一人渡したい人がいるので」
さあ、名雪さんには喜んでもらえた。
もう一人にも喜んでもらえるだろうか。
・・・
家に帰ってすぐ靴をチェックする。
うん、もう帰ってるな。
自分の部屋に入って準備を整えて……さあスタートだ。
「妹ー」
「なにー?」
「こっちに来てー」
「わかったー」
ツーサイドアップを揺らしながらかわいらしい笑顔で扉を開けてくる。
呼べばすぐ来るのがかわいい所だ。
「どうしたの?」
「文章を映像化する魔法完成したんだ」
「おお、どんなの、どんなの?」
興味津々で近寄ってくる。
さて満足させられるだろうか。
「手を出して」
「ん」
手を握ると昔より大きくなったのがよく分かる。
昔はよく手をつないでどこにでも行ってたなぁ。
俺の真似をして会話してるのがかわいくて仕方なかった。
「この魔法は映像化したイメージを他人に見せることが出来るけど事前に同意が必要なんだ」
「へぇー」
「陽菜と一緒に見たいんだけどいいかな?」
「いいともー」
嬉しそうに答える陽菜。
ただこの返事は父さんから聞いたネタだな。
もう10年以上前に終わったテレビのネタだから友達とかはついてきてくれないぞ。
さて世界書を出した後に文章を読んで映像化したい範囲をイメージしてっと。
「じゃあいくぞ」
「うん」
「【感動をありがとう】」
陽菜への感謝を込めて。
生まれてきてくれてありがとう、俺の妹でいてくれてありがとう。
・・・
脳内の映像が終わっても陽菜はまったく動かなかった。
一応陽菜への感謝を映像化したんだけどどうだったんだろうか?
反応を見たいので俺も動かずじっと待つことにした。
「お兄ちゃんずるい……」
しばらくして陽菜がポツリとつぶやいた。
ちょっと涙ぐんでるので会心の出来だったと言っていいだろう。
入念に考えて何度か練習したかいがあった。
「どやぁ」
「馬鹿っぽい顔も今だけかっこよく見えるよ」
「失礼な、いつでもカッコいい顔だぞ」
「そうだね、お兄ちゃんはいつでもカッコいいよ」
そう言って抱きついてきた。
それもしっかりと強い力で抱きしめてきて、あれ?
「痛い 痛い! 痛い!!」
甘えてきたのかと思ったら鯖折りし始めた!?
あの体のどこにこんな力が!?
「鍛えてますから」
「鍛えすぎだろ!?」
「お兄ちゃんが弱すぎるんだよ」
翔と筋トレしてるせいか!?
あいつは陽菜をムキムキマッチョにする気だな。
守ってあげたくなるようなかわいさで十分だと言うのに。
「お兄ちゃんを守れる妹を目指します」
「逆だろ!?」
どう考えても兄が妹を守る側だろ。
何が悲しくて妹に守られないといけないんだよ。
「ほら、女の歓びは男の自惚れを傷つけることであるって言うし」
「守れるなんて自惚れてないし!?」
「じゃあお兄ちゃんは私を守ってくれないの?」
「守るにきまってるだろ」
「ほらやっぱり」
何が嬉しかったのかケラケラ笑って胸に顔を押し付ける。
筋肉もないし何が良いのか分からないけど楽しそうなのでいいか。
「誠の恋をするものは、みな一目で恋をするんだよ」
小さな声で何かをつぶやいたっぽいけど聞き取れなかった。
なんか俺の名前を呼んでたような?
「なんか俺の名前呼んだ?」
「ぜーんぜん、何にも呼んでないよー」
まあとりあえず反応はよかったし成功かな。
ただ夕ご飯までずっと俺の腕から離れなかったのは意外だった。