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50.転校生

「今日は転校生を紹介します」


 栗林先生の突然の発表にどよめき立つ教室。

 一大イベントが舞い降りてきたのだからしょうがない。


「女子!? 女子だよな!?」

「男子に決まってるでしょ、これだから男は」


 相変わらず反応が良いのは江川と和泉さん。

 まあただ今回は大きさに違いがあるだけでみんな反応してるか。

 どんな人がいいか話しているのが聞こえてくるもんな。

 俺としてもなんとか男女比率を1:1にするためにも女子であってほしい。


「転校生といえば美少女と相場が決まっているんだよ」

「イケメン男子に決まってる」

「イケメンって(笑)、いつの時代の人だよ」

「あんたこそ美少女とか二次元のドア開けてきなよ」

「ふ、ふたりとも喧嘩は良くないですよ」


 江川と和泉さんが立ち上がって口喧嘩し始めた。

 段々近づいていく2人を見て、先生がなんとか止めようとしている。

 放置して進めればいいのに律儀だなぁ。


「【見つめあう一瞬の静寂】」


 その言葉と同時に会話している声が消え去る。

 声がした方を見ると翔が世界書を開いていた。

 言い争っていた二人は口をパクパクさせている。


 なるほど、そういう使い方もありか。

 [見つめあう一瞬の静寂]はその名の通り見つめあってるもの同士にしばらく静寂が訪れる。

 おそらく江川と和泉さんは音が消えているんだと思う。

 本当は恋人同士で雰囲気を楽しむために使う魔法なんだけど、本人たちの音が消えることで発声もなくなるとは思わなかった。


 数秒後、音が戻ると同時に翔が口を開いた。


「喧嘩してたら転校生に嫌われるかもな」


 二人の動きが止まった。

 そして素早く元の席に戻って何事もなかったような顔をしている。

 あの二人って意外と似た者同士なんだよな。

 とりあえず爆散しろ。


「えっと、もう入っていいですか?」

「す、すみません、入って大丈夫です」


 教室の外から聞こえてきた綺麗な声でガッツポーズをする男子たち。

 ドアを開けて入ってきたのは長身の女性だった。

 髪はショートで少しウェーブがかかっている。

 眼力が強いのにそれでいて愛嬌を感じる顔。

 そして何より胸が大きい。

 色んな意味でアンバランスな彼女に男子はおろか女子すら釘付けだった。


「平川久美です、母の実家がこちらにあり引っ越してきました、よろしくお願いします」


 大きく頭を下げているけど、すごく綺麗な姿勢でびっくりした。

 モデルかなにかをやっているんだろうか?


「はい質問、芸能人ですか?」

「違います」


 桐谷が真っ先に質問していたけどあっさり否定された。

 まあでもそう思うぐらいに美人すぎる。

 名雪さんの首位が陥落する日が来たかもしれないな。


「質問は休み時間にお願いしますね、平川さんの席はあそこです」

「まじかよー」


 いくつか空いている席から先生が指さしたのは藤田さんの隣だった。

 桐谷が悔しそうに嘆いているが仕方ない。

 ただ平川さんは口に手を当てて驚いた表情をしている。


「お姉ちゃん!?」


 教室が一斉に静まり返った。

 みんなが彼女の視線の先にいる藤田さんのリアクションを待っている。

 藤田さんは頭を上げて一瞥した後、また頭を下げた。


「え、えっと平川さんのお姉さんなの?」

「あ、いえ、いとこです」

「よかった」


 先生が安堵のため息をついている。

 もしかして姉妹が一緒のクラスにいてはいけないとかあるのかな?


「じゃあ席に座ってね、HRを始めます」


 平川さんは先生の言葉に頷くと静かに席へ向かっていった。

 いったいどんな関係なのか。

 みんなさっきの発言が気になって集中できないようでみんな睨むように先生を見ている。

 チャイムが鳴ると同時にすぐ彼女の周りに人が集まってきた。

 ただ彼女はそれに意を介さず立ち上がる。


「藤田さんといとこなの?」

「いとこ」

「普段どんな感じ?」

「いろいろ教えてくれるよ」

「仲いいの?」

「仲いいよ」


 矢継ぎ早に質問が飛んでくるのをすべて返しながら席を立ち、隣の藤田さんに近づいていく。

 一つ一つの振る舞いに気品を感じるというか優雅な感じがある。

 トレーズ閣下の「事は全てエレガントに運べ」を思い出すな。


「お姉ちゃん」

「……何?」


 藤田さんが返事をしたってことは知り合いなんだろう。

 しかもあんなに柔らかい表情(当社比)してるのを見るのも初めてだ。


「久しぶり〜」


 藤田さんの頭を抱えて抱きしめた。

 突然のことでみんな呆然としている。

 ただ男子の目線は平川さんの胸に集中していた。

 大きすぎる胸に藤田さんの頭が完全に埋まっている。


「前が見えない」

「お姉ちゃんは相変わらずちっちゃいね〜」

「久美が大きすぎる」


 表情は見えないけど声の感じから機嫌が良いのが伝わってくる。

 本当にいとこなんだな。


「あー、お姉ちゃんがいるなら安心だー」

「久美なら1人で出来る」

「出来ると安心は違うんだよ」


 あの安心しきった表情を見てると陽菜を思い出す。

 見てると自然と頬が緩んできてしまうかわいさだ。

 大きい体で藤田さんを抱きかかえる姿はどうみても姉なのに、表情や態度はどうみても妹なのが面白い。


「かわいいーーーー」

「なになに、そんな関係なの!?」

「藤田さんも妹みたいに思ってるの?」


 あっけに取られていた女子たちが夢中で質問し始めた。

 あれはしばらく止まらないだろうな。


「すごかったな……」

「ああ……」

「神道の僕ですら共感……」


 ぽつりとつぶやいたいつもの三人の言葉に共感しない男子はいないだろう。


 結局この日の休み時間はずっと女子に囲まれていて男子が話す隙はなかった。


「お姉ちゃん一緒に帰ろう」

「……家は?」

「中野だよ」

「逆方向」

「そうだよ?」

「……」


 平川さんは放課後になるとすぐ藤田さんと会話し始めた。

 男子たちは会話のチャンスを伺っていたけど内容的に割り込みづらくて二の足を踏んでいる。


 それにしても逆方向と言われてもまったく引く様子がないのはすごいな。

 藤田さんもあんまり不機嫌そうじゃないし、俺もあれぐらい積極的に行かないと。

 そんなことを考えながら見てると平川さんが突然こちらを向いた。


「何かな?」

「あ、いや、何も……」


 他の男子も見てるのになんで俺に……?

 藤田さんと話している時の幼さは欠片もなく若干敵意みたいなのも感じるので返事に困る。


「……用事?」

「あ、そうじゃないんだ、仲いいなって思って」

「そう」


 すると俺が返事に窮しているのに気づいたのか藤田さんがフォローしてくれた。

 こういうことはあまりないのでちょっと嬉しい。


「あなたに関係ないよね?」


 明らかに睨んでいる。

 見られるのは嫌いとかなんだろうか?

 それとも平川さんの質問に答えなかったからだろうか?


「お姉ちゃん行こう」


 2人でそのまま教室を出ていってしまった。

 その後には呆気にとられた男子たちが残る。


「なんで真琴が怒られたんだ?」

「分からない……」

「よほど鼻の下伸ばしていたのか?」

「そんなことしてないよ!?」


 それなりに距離も離れているのになぜ俺が……。

 まあ見てたのは一緒と言われればそうだけど。

 はあ、とりあえず帰るか……。


 家についたけど陽菜はまだ帰っていないようだ。

 よし、これなら好きに実験できるな。

 さっきまでやる気がなくなっていたけど、ちょっとやる気が戻ってきたぞ。

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