「特定の物を吸い寄せる魔法は便利だな、ただ汎用性がなぁ」
「お兄ちゃんまた独り言言ってる」
陽菜が帰ってきたようだ。
ただ壁越しとはいえ挨拶の前に声をかけるのはよくない習慣だぞ。
「おかえり」
「ただいま」
「お邪魔します」
「ん? 誰かいるの?」
「友達ー」
陽菜はよく友達を連れてくるので誰なのかさっぱりだ。
まあ男なら警戒するけど女の子っぽいしいいか。
「魔法好きなんだって」
「魔法好き!?」
「食いつきすぎだよ、お兄ちゃん」
「だって貴重な同志だし」
魔法の話をできる相手はいるけど、みんな魔法好きというほどではないんだよな。
陽菜は自分が気になる魔法しか興味ないし、翔に至ってはろくに話も聞きゃしない。
阿久津は一応話を聞いてくれるけど礼儀で対応してる感がある。
もっといろんな魔法について話せる相手が欲しかったんだ。
「魔法好きというなら今のトレンドは分かる?」
「今のトレンドは吸引魔法ですね」
「お、それならどの魔法がいいと思う?」
「[ダイリン]と[マグネットパワー]がいいと思います」
「やるな」
[ダイリン]は有名な掃除機メーカーのパロディで、吸い寄せた物体にも吸引力が付与されるので無限に吸える。
まあその代わり効果時間が短いし、他人の所有物に使えないし、吸い寄せる物体の制限忘れると全部くっついてえらいことになるけど。
[マグネットパワー]は二人がかりで使う魔法で、二人の間にある対象を吸い寄せることが出来る。
重いものは無理だけどどちらに吸い寄せるか自在なので、色々応用が効く。
まあその代わり直線的にしか吸えないし、ピンポイントに吸うのも無理だけど。
「そちらは?」
「そうだなぁ、[求めよ、さらば与えられん]と[エネルギー吸収]かな」
[求めよ、さらば与えられん]は手に持っているものが離れなくなる効果で、強く握るほど効果が強くなる。
手に持てるものに限定されるとはいえ吸引力の調整が自分で出来るので人気の魔法だ。
まあその代わり消費MPが高いけど。
[エネルギー吸収]は物体の運動エネルギーを吸い取り別の物体に付与する効果だ。
他の移動魔法と違ってかなり消費MPが低いのが特徴で、研究次第ではかなり優秀な魔法になりそうだと思っている。
「……[エネルギー吸収]は吸引魔法の範疇なのですか?」
「どこを主に置いているかの違いだよ」
「……なるほど」
「つまり吸い込めば吸引魔法ってことだね!!」
「違う、そうじゃない」
「だって全部吸ってるよ?」
まあ明確な区別がしづらいから普通はそういう理解になるだろう。
どう説明したものか。
「カービィは魔法か?」
「あの胃袋は魔法だと思う」
うーむ、そう返されるとたしかにそう思ってしまうな。
もう少し分かりやすい例えはないだろうか。
「陽菜ちゃん、重力魔法は吸引魔法?」
「はっ、確かに違う!!」
驚いた、彼女は完璧に理解してる。
そして分かりやすい例で陽菜を納得させたのもすごい。
なるほど今度からは同じように説明しよう。
「お兄ちゃんより分かりやすい」
「待て、挽回のチャンスをくれ」
「だが、断る!!」
「使い方間違ってるだろうが!?」
声が笑っているので絶対分かっててやっている。
たまにわざと間違ったネタを仕込んでおいてツッコミ出来ないと駄目だししてくるからな。
「あはは、陽菜ちゃんはお兄ちゃんっ子なんだ」
「違うよ、お兄ちゃんがシスコンなだけ」
「お前がブラコンなんだろうが」
「妹の顔を一日見れないと泣きそうになるくせに」
「あ、あの時はたまたま落ち込んでいただけだし」
「お兄ちゃん嫌いって言ったら死にそうな顔するし」
やめるんだ、お兄ちゃんのライフはもうゼロよ。
というか例えでも嫌いとか言われると死にそうな気分になる。
「楽しい人ですね」
「お兄ちゃんは仲良くなるほど面白いよ」
「それ以上いけない」
「妹の下着姿に欲情しないとか言っておいてチラチラ見る人だけど」
「変態と思われて好感度が下がるだろうが!?」
「ゼロだから一緒だよ?」
「マイナスがあるに決まってるだろ!?」
「マイナスも行き過ぎればアンダーフローするし」
「それはどっち向きでもオーバーフローだ!!」
「悲しみの~」
「マイナスのまま終わってんじゃねぇか!?」
「ほら面白い」
「えっと……すごいですね」
「ドン引きされてる!?」
「あんまりこういうノリ見たことないから驚いたんです」
「妹よ、これは責任問題では?」
「ここまで落ちれば後はプラスのみだよ、お兄ちゃん」
「前向きな感想どうもありがとう」
まあノリで言ってただけだから特に怒るとかはないけど。
むしろ陽菜のかわいさを友達にアピールできたに違いない。
……もういまさら心配することはないと思うけど一応ね。
「それにしても本当に魔法詳しいんですね」
「それほどでもないけど」
「よければ本を見せて頂けないでしょうか?」
「いいけどそれで何か分かるの?」
「ちょっとした裏技がありまして」
それはちょっと興味あるな。
見せるだけで何か出来るなら是非知りたい。
自分の部屋を出て隣の部屋をノックする。
「はーい、開いてるよ、お兄ちゃん」
「お邪魔しm……、え?」
「は? 今日の……?」
顔を見合わせた瞬間、俺も相手もフリーズしてしまう。
そこに居たのは平川さんだった。
「なんでここに平川さんが……?」
「陽菜ちゃんのお兄ちゃんって……この人?」
「うん」
「てっきりもっと年上だと……」
「というかなんで陽菜と友達なんだよ!?」
「出会ってすぐ意気投合したからに決まってるでしょ!!」
「魂が共鳴したね」
「藤田さんと帰ってただろ!?」
「お姉ちゃんと別れてすぐ出会ったのよ、そんなことも分からないの?」
そういえば家が逆方向だとか言ってたな。
だからその途中で陽菜と遭遇したのか。
「むしろなんであんたが陽菜ちゃんのお兄ちゃんなのよ!!」
「おお、お兄ちゃん、どうしてあなたはお兄ちゃんなの?」
「お兄ちゃんだからだよ!?」
「最悪、こんなの相手だったら敬語いらなかったわ」
「軽いジャブが来ましたね、ここからストレートでしょうか?」
「ねぇ、俺が何したの? こんなの呼ばわりされることした?」
「お兄ちゃん、打ち返した、さあ有効打になるか?」
「お姉ちゃんに色目使ってた」
「は?」
「おおっとここでカウンターがもろに入ったー、お兄ちゃんダウン!!」
「そ、そんなことしてない」
「お兄ちゃん起き上がれない、KO間近か!?」
「お姉ちゃんが大人しいのをいいことに気持ち悪い目してた」
「ダウン後の追撃、ここはルール無用の戦場だー!!」
「お、お前が藤田さんに変なことしてたからだよ」
「なんと起き上がらずに足を絡めてきた、死なばもろともか!?」
「だ、だって久しぶりの再会だったから」
「ダウン、ダウーン、双方ダウンしました」
「さっきから何の実況だよ!?」
「精神的な殴り合いの実況?」
「若干面白いけど後にしなさい」
「はーい」
「ふふっ、あっ、もう」
きつい顔をしていた平川さんが表情を崩した。
俺も少し気持ちを落ちつける。
別に喧嘩したいわけじゃないしもっと冷静になろう。
「はぁ……、なんか笑っちゃったしもういいわ」
「俺が一方的に絡まれていただけなんだけど……」
「で、魔法に詳しいのはほんとなのよね?」
「さっきまでとずいぶん態度が違うな」
「年上だと思ってたからね、同級生なら敬語いらないでしょ」
「まあいいけど」
とりあえずなんとか落ち着いてくれたらしい。
後で陽菜にお礼を言っておこう。
「まさかお兄ちゃんの知り合いだったとは世界は狭いね」
「まあ行動範囲大して変わらないしな」
学生の行動範囲で出会う人は一緒だ。
今回はクラスメイトだったのが珍しいけど。
「全然似てないじゃん」
「えー、そうかな?」
「陽菜は母親似なんだよ」
家族と顔が似ていないとはよく言われる。
親に「橋の下に捨てられていたのを拾ってきた」と言われた時は本気で信じてしまったぐらいだ。
実際はおじいちゃんに似ているらしい。
「ちなみに鑑定魔法で兄妹かどうか確認できるよ」
「そんなのあるんだ?」
「便利そうな魔法はどんどん作られてるよ」
準備が面倒なものを筆頭にいろいろ試行錯誤されている。
現代技術で出来ることは消費MPが少ない傾向にあるけどそれでもかなりの制約をかけないと消費MPが30以下にならない。
みんながレベルアップしてきたら出来ることも増えそうなんだけど。
「よし、明日お互いのお勧め魔法を紹介する、いいわね?」
「なんでだよ!?」
「陽菜ちゃんのお兄ちゃんならさぞ良いネタを出してくれるでしょうね?」
「あ? 妹の名前出すとか喧嘩売ってんのか?」
「そうでも言わないと逃げそうだからね」
「そっちこそ良いネタ出せよ?」
「上等」
平川さんはそう答えて家から出ていった。
ついつい売り言葉に買い言葉で明日魔法を紹介することになってしまうとは。
どうも妹の友達というイメージがついてしまってるせいか同じようなノリで答えてしまうんだよな。
「私が見れない」
「諦めろ」
「せっかく面白そうなのに」
「運が悪かったってことだな」
「帰って実演してもらうから」
「嫌だよ!?」
陽菜が怒っているけどどうしようもない。
むーっとフグのように膨れているが諦めてもらおう。
「お兄ちゃんに友達取られた」
「向こうから来たんだが?」
「肩揉んで」
「はいはい」
陽菜のお怒りを沈めるためにけっこう長い時間肩を揉んでいた。
おかげで手が痛い。
こういうのも魔法でなんとか出来ないものだろうか。
魔法と言えば明日何の魔法を紹介しよう?
お勧めと言っていたけど何かあったかな。
あれだけ煽られた以上、それ相応の魔法がいいけど。
……そうだ、いいのがあるじゃないか。