次の日。
「おはよう」
「おはよう」
翔と挨拶する。
平川さんは既に来ていて藤田さんと話しているようだ。
昨日の話は放課後辺りだろうか?
とりあえず翔には事情を話しておかないと。
「今日は面倒なことn「来たわね」
平川さんがいつの間にかこちらに来ていた。
音もなく忍び寄るとか忍者か何かか?
「さあ勝負よ」
「おい真琴、どういうことだ?」
「それを説明しようとしたら平川さんが来たんだよ」
翔が混乱してるけど無理はない。
昨日あんな絡まれ方して終わってたのに今日になったら勝負とか言ってるんだからな。
「もしかして怖気づいた?」
「怖気づいた訳じゃないけど準備が必要だよね」
「昨日から何の準備もしてないと? 判断だけじゃなく行動も遅いのね」
「周りに説明とか……」
「陽菜ちゃんには「準備不足だったから負けました」って伝えてあげる」
「ああ? いい度胸だ、やってやんよ」
陽菜に告げ口とか舐めたこと言いおってからに。
目にモノを見せてやる。
これだけ騒いでいればみんなが気づくので一同が注目する中で始まった。
「俺のお勧め魔法は、[情報開示Z]だ」
先手は俺が取った。
これは自分の性格や好みを調べる魔法だ。
Zがついているのは情報開示という名前が多いからだろう。
「自分で気づいていないことがわかったりするぞ」
自分にしか効果がない代わりにいろいろ細かく調べられるし食べ物の好みとかを分析してくれたりする。
特に分析は自分でも気づかないことが分かったりして面白い。
「【情報開示Z】」
さっそく使ってみているらしい。
読み進めるたびに表情に変化があるので見ていて面白い。
「くっ、これはたしかにお勧めだわ」
「ドヤァ」
「そういうところ、ほんとに陽菜ちゃんそっくりね」
「は? 陽菜のドヤ顔はもっとかわいいだろうが」
「怒るとこがそこ?」
なぜか平川さんは笑っているが、俺と陽菜が一緒に見えるとか陽菜がかわいそうだ。
あいつは何をしても許したくなるかわいさがあるんだからな。
「でもまだアタシの番がある」
平川さんがやる気になったようで表情が変わった。
ただ一瞬目を瞑って心の準備をしたのはなんだろうか?
「アタシのお勧め魔法は、[熱広がーる]よ」
「え、ネタ?」
「そういう名前なんだから仕方ないでしょ!!」
顔を真赤にしているところを見ると平川さんも恥ずかしいらしい。
さっそく世界書を使って魔法を調べてみる。
えっと効果はカイロの熱を好きな場所に分散させる?
「カイロを温めたい場所に貼ればよくない?」
「はぁ……、想像力が足りないわね」
「なんだと?」
「これはカイロの熱と言ってるけど実際は温められた体の熱のことよ」
それって何が違うんだ?
結局温めたい場所にカイロ貼ればいいのでは?
「つまり"体の熱"を”任意の場所”に分散させるってことよ」
なるほど、言われてみたらそうか。
ん? 待て待て、ということはカイロに拘る必要はなくて……。
「冬場の足の寒さを緩和できる?」
「良い目線ね、その通りよ」
「逆に夏場の脇汗も防止できる?」
「出来るわね」
「やけどした時の応急処置に使える?」
「……変わった使い方だけど可能かも」
応用出来る範囲が広いな。
効果時間の割に消費MPが多いので常時は使えないけど要所要所で使う分には十分だろう。
「これはたしかにいいな」
「どうよ」
ちょっと顔をにやけさせて答えてきた。
それ見たことかという感情が伝わってきたのに全然嫌な気分にならないのがすごい。
和泉さんといい平川さんといい、これが人徳ってやつか。
「2つとも便利そうだな」
「さっそく使った、俺は眼鏡っ子好きだったらしい」
「これ足がちょっと寒いときとかに便利すぎるわね」
「男性の好みが思ってたのと違う」
「形にこだわりがあったとは自分でも意外でしたねぇ」
「馬鹿な、ロリが好きだと思ってたのにただの父性愛だったとは」
周りで見ていた人も試しに使っているようだ。
なんかやばいことを言ってた人がいたけどまあいいか。
「この勝負は引き分けね」
「そうだな」
「次は覚えてなさいよ」
「なんで次もやらないといけないんだよ!?」
こんなに注目されるのは一度だけで十分だ。
藤田さんもずっと俺の方見てるし……。
「逃げるの?」
「もうそれでいいよ」
俺の言葉が予想外だったみたいで慌てている。
というか、なんで俺が勝負を受けると思ってるんだよ。
何のメリットもないのにわざわざ受けるわけないだろ。
「なら陽菜ちゃんには「お兄ちゃんは勝負から逃げた」って言っとくわ」
「あ?」
「大丈夫、しっかりと「陽菜のお兄ちゃんはチキンだった」って伝える」
兄には妹を守る義務がある。
妹に恥をかかせるぐらいなら死んだほうがマシだ。
「わかった、次こそ叩き潰してやるよ」
「上等」
欲しかった言葉なのだろう。
ニヤリと笑って藤田さんの隣に戻っていこうとした時のこと。
「ちょーっと待った」
「はい?」
「オレのお勧め魔法も見てもらおうか」
なぜか翔が話に混ざってきた。
珍しく顔がやる気満々だしきっと良いネタがあるのだろう。
「こいつを見てくれ」
「コイン?」
平川さんが怪訝な顔をしている。
世界書を持ちながらコインを手に持っているので手品でもするんだろうか?
翔はおもむろにコインをはじいて手を重ね、「【ヘッズオアテイルズ】!!」と叫んだ。
「消えた!?」
良いリアクションだなぁ。
こういう反応してくれると楽しいんだよ。
「さあ表か裏か」
「……表」
「残念、裏だ」
重ねた手を開くとコインがそこにあった。
「つまりコインが手の中に入るだけってこと?」
「あんまり大したことないような……」
「普通にコインキャッチしたら?」
「あれだけ見てくれって言ってこれじゃあね」
ほとんどの女子が呆れているけど男子の印象は違った。
「すげぇ……」
「かっけー」
「途中で消えるのがいい」
「コイン以外でも出来るのか?」
この年齢の男子は『カッコいい』が正義なので効率とかは比較的どうでもいい。
俺もこういう魔法は大好きだ。
「どうよ?」
そう聞かれてずっと黙っていた平川さんが口を開いた。
「消費MPは?」
「1」
「なら有りね」
そう言って世界書で何かを調べ始めた。
消費MPを聞くあたり本当に魔法好きなんだな。
そしていつもの二人が言い争い始めた。
「あのカッコよさが分からないのかよ!!」
「何の意味もないでしょ!!」
「意味とかどうでもいいんだよ!!」
「じゃあただの無駄じゃない!!」
それをみながら名雪さんと阿久津も会話している。
「応用範囲が広いですねぇ」
「何かを隠すからか?」
「詳細な条件次第では発禁魔法ですねぇ」
「そこまでか」
こうしてぐだぐだになりながら魔法の紹介は終わった。
なんかめっちゃ疲れたな……。
席に戻ると翔も俺についてきた。
「真琴、えらく仲いいな」
「どこがだよ」
「完全に友達の距離感だったぞ」
「それは昨日陽菜の友達として接したからだと思う」
あの時はかなり話しやすかったんだよな。
だから今普通に接しようと思ってもつい同じ感じになってしまう。
「陽菜ちゃんの? なんでだ?」
「初対面で意気投合して家に連れ帰ったらしい」
「相変わらず変わってるな」
「変わってると言うな、かわいいと言え」
「お前そろそろシスコンは卒業しろよ」
「家族が大事で何が悪い」
「まあいいけどな、それでどうしてあんな感じに?」
「最初は礼儀正しい魔法好きな子って感じだったんだよ」
「最初はって、顔見れば平川って分かるだろ?」
「壁越しで会話してたから」
「ああ、そういうことか」
声はそれなりに特徴的だけど、まさかいるとも思ってないからまったく気づかなかった。
ちなみに陽菜は楽しそうな雰囲気を感じると友達がいてもすぐ混ざりたがるので、翔といっしょに遊んでると大体友達と一緒に乱入してくる。
そのおかげで陽菜の友達は大体翔も知っているんだよな。