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53.対抗呪文を貫通する魔法

 次の日。


「さあ、勝負よ」

「昨日の今日だろ!?」


 なぜか平川さんに朝一番から勝負を持ち掛けられた。

 ただやる気満々で来られても何の準備もしていない。


「常在戦場って言葉知らないの?」

「それは心構えの話であって常に準備しておくものではない」

「真琴って名前通りの女々しいこと言ってるんじゃないわよ」

「名前をからかうとか戦争だろうが」

「あ、名前で呼ばれ慣れてない反応、いいわアタシが呼んであげる」

「なんでだよ!?」

「真琴はビビって逃げるようなチキン?」

「二倍速で逃げるぞ」

「角に追い詰めてフルボッコね」

「鬼か」


 まあネタがないことはないけど披露するならもう少し詰めておきたい。

 平川さんなら技術で驚いてくれるだろうけど他の人は印象の方が大事だからね。


「ならオレが受けて立ってやる」

「翔!?」


 ゆらりと翔が現れた。

 こういうことで翔が率先して矢面に立とうとするのは珍しい。

 大体ツッコミ側に回るんだけどな。


「別にいいけどちゃんとネタはあるのよね?」

「他人の心配をしてる余裕があるのか?」

「上等」


 平川さんはどうやらやる気になったらしい。

 まあ俺としては助かるからいいか。


「まずはオレからだな、オレの魔法は[チェインライトニング]だ」

「どういう効果?」

「それは使ってのお楽しみだ」


 翔はニヤニヤしながら平川さんを見ている。

 平川さんは若干怪しんでる感じはあるものの世界書を開いて魔法を確認しているようだ。


「炎が連鎖するって何?」

「おいおい、質問は使ってからにしてくれよ」

「……上等、【チェインライトニング】」


 平川さんが魔法を使うと炎の弾が翔に向かっていった。

 翔が広い場所に移動すると炎の弾も追尾している。


「え?」

「は?」

「おお、きれいな炎」

「けっこう熱そう」


 平川さんと俺が驚きの声を、江川と和泉さんは感嘆の声をあげた。

 二人は魔法に詳しくないので状況の危険さに気づかないけどこれは攻撃魔法の一種だ。

 なのに[対抗呪文]が発動していない。


「に、逃げて!!」

「逃げる? 何からだ?」


 平川さんに比べて翔は落ち着いている。

 炎の弾が翔に当たると弾けて、細く長い炎何本かに分裂した。

 その炎が翔の体の周囲をくるくると回っている。

 まるでオーラを纏っているみたいでカッコいいけど攻撃魔法じゃなかったのか?


「おー、すごい派手だな」

「炎のカーテンって感じね」

「……」


 江川と和泉さんも綺麗だと感想を言っているけど平川さんは世界書のページを指さしたまま固まっている。

 多分俺と同じで攻撃魔法なのに攻撃になってこないことに疑問を持っているんだろう。


「ふむ、意外と意識されてるな」

「あ、あんた、熱くないの?」

「平川もこれから実体験するから大丈夫だぞ」

「はい?」


 そう言うと翔の周りで渦巻いていた炎が集まり弾になって平川さんの方に飛んできた。


「え? え?」


 平川さんはまったく動けない。

 おそらくなぜ魔法がこちらに来ているのか理解できないというのが先にきて、逃げるという考えが出来ていないんだろう。


 炎の弾は翔に当たったときと同じように弾ける。

 ただ翔の時と違って太さも勢いもぜんぜん違う。

 メラとメラゾーマぐらい差がある。


「これは……大丈夫なのか?」

「焼き尽くす勢いね……」


 さすがに周りも少し動揺している。

 ただ平川さんは全然熱そうな素振りをしてないので見た目だけっぽい。

 どんな感じか気になるな。


「……追加発動確認?」

「ああ、真琴にでもしてくれ」

「……わかった」

「は?」


 その返事と共に先ほどと同じように炎の弾がこちらに飛んでくる。


「なんで俺なんだよ!?」


 咄嗟に逃げようとしてしまって机に引っかかって転んでしまった。

 姿勢が変わっても炎の弾は追尾してきて俺の体にぶち当たる。


「うおっ!?」 

「やっぱり真琴のほうが上か」

「なに、何が上なの!?」


 炎が俺の周りを包んでいる。

 ただこれも勢いが違ってメラミぐらいの出力だ。

 相手によって効果が変わる魔法なのか?


 ん? 追加発動って出てるな、これって……。


「もしかしてM:tGのチェンライみたいなもの?」

「近いな」

「……知ってるなら説明しなさいよ」

「いや、基本効果は全然違うけど食らった相手がやり返せるってのがそれっぽくて」


 M:tGの方は追加コストを支払うと同じ呪文を打ち返せる効果だったけど翔の魔法は追加コストが不要なようだ。


「で、結局これは何の魔法なんだよ」

「効果は未活用の筋肉量チェックだ」

「はい?」

「なるほどね」

「どういうことか説明して、真琴」

「なんで俺なんだよ!?」


 どうして作成者の翔に聞かずに俺に聞くんだよ。


「真琴は苗木くんポジでしょ?」

「そんな有能じゃないよ!?」

「探偵に推理を求めなくても黒幕直々にネタばらしするからな」


 ちょっと不機嫌そうな顔をしている翔。

 そりゃせっかくのネタバラシを邪魔されたら怒るか。 


「平川は未活用の筋肉がかなり多いな」

「……だってこれ以上大きくなりたくないし」

「もう成長期はすぎたろ?」

「まだ伸びてるのよ、悪かったわね!!」


 羨ましい、俺なんてとっくに身長伸びるの止まったのに。

 でも平川さんなら身長伸びても可愛いと思うんだけど。

 スラッと伸びた綺麗な足と弾けんばかりの大きなおっぱいを考えるともう少し身長が高い方がバランスがいいまである。


「なっ、あんた!?」

「おいおい能見、キリシタンに乗り換えかー?」

「乗り換えには天罰に耐える必要がある」

「何も言ってないよ!?」


 だれも乗り換えるなんて言ってないし、そもそも鳥海が天罰云々言ってるのはelonaの話だろ!?


「能見のは既に伝統芸になってるわよね」

「楽しいし、いいんじゃないですかぁ」

「能見くん、春日井くんが嫉妬で泣いてるよ」


 嫌すぎる会話が聞こえたぞ。

 なんで翔が嫉妬するんだよ気持ち悪い。


「オレも身長高いのは悪くないと思うがな」

「あんたも身長高いからそう思うだけよ」

「それよりどういうことだよ、[対抗呪文]貫通したろ?」

「あ、そうよ、この効果って一体何?」


 攻撃魔法かと思ったけど翔の説明を聞く限りは筋肉量の調査らしい。

 ただ個人の体に関する魔法は基本的に[対抗呪文]の対象となる。

 翔はともかく平川さんは魔法を受け入れてないのになぜ打ち消されなかったんだ?


「それがこの魔法の優れた点でな、打ち返された魔法は[対抗呪文]の対象にならない」

「「はぁ!?」」


 平川さんと声を合わせて驚いてしまう。

 それが事実だとしたらいろいろ悪用できそうだぞ。

 どういう原理なのか非常に気になる。

 それは平川さんも同じ気持ちなようで翔の言葉を待っているようだ。


「条件を持つ魔法は存在するな?」

「する」


 翔の静かな問いかけに平川さんが即答する。

 ただこれについては俺も即答できるだろう。

 例えば制約をつけるというのは大抵が条件を持たせることだ。

 長い詠唱を要求したり対象を限定したりというのが典型例。

 そのおかげで消費MPを抑えられるので魔法作成の基本と言っていい。


「その条件を無視できるか?」

「出来るわけ無いでしょ」


 少し怒った風に答える平川さん。

 当たり前だけど無視できたら条件にならない。


「オレの魔法の制約は打ち返されることだ」


 平川さんが驚いた表情をしている。

 その発想は面白い。

 攻撃魔法で打ち返されるリスクがあるのは制約として扱われるに違いない。

 それなら攻撃魔法でなくても制約もしくは条件として扱われるという予測か。


「で、でもそれなら[対抗呪文]で消せるんじゃ?」


 平川さんの言葉に対してヤレヤレと言った様子の翔。

 なんかやけにカッコつけた動きだな。


「スタイフルじゃあるまいし効果を打ち消せるわけないな」

「スタイフル……って何?」

「カードゲームでそういう名前のカードがあるんだ、それは効果を打ち消せる」

「ふーん、真琴もカードゲーム詳しいの?」

「いくつかやってるよ」

「話続けていいか?」


 不満そうな顔でにらんでいる。

 つい話が逸れそうになってしまった、気をつけないと。


「打ち返せる、でも無条件で打ち消されるなんてイカサマだろ?」

「うーん……」


 それじゃ何の制約にもならないのは分かるけど、それはあくまで単独の効果の話じゃないのか?

 [対抗呪文]で打ち消しが出来るのは[対抗呪文]の効果だ。

 他の魔法を想定して制約にするのは何か違うような。


「でも普通はそういう制約自体に効果がないでしょ?」


 平川さんも同じ考えだったようで疑問を翔に投げかける。

 難しい問題なので答えられると思ってなかったけど、翔は口を開いた。


「[対抗呪文]は誰が作った?」


 翔は平川さんの質問に答えず質問を返した。


「……あの声の主でしょ」

「あいつはオレ達に『世界書を与える』と言った、言わばあいつがルールだ」 

「……それで?」

「[対抗呪文]の効果はルールに組み込まれている、だから制約になり得る」

「はい?」


 突拍子もないことを自信ありげに断言する翔と困惑を隠せない平川さん。

 ただ困惑してるのは俺も同じだ。

 今までそんなこと考えたことがなかった。


「あの魔法は効果範囲・効果時間に対して消費MPがおかしい」


 それは俺も思っていた。

 普通に作ろうとしたらあれだけ汎用性高いものは消費MP1000でも足りないと思う。


「ここでオレは考えた、[対抗呪文]はスイッチのONではないかと」

「は?」

「はい?」


 鳩が豆鉄砲を食った顔というのがまさに今の俺と平川さんの顔だろう。

 それぐらいの発想の飛躍だ。


「すべてを受け入れるか自分に害をなすものを受け入れないかを[対抗呪文]の使用で切り替えている」

「ちょちょちょっと待って、じゃあなに、あれはもともと備わってるルールってこと?」

「その通りだ」

「おかしいでしょ!? それなら常時[対抗呪文]の状態でいいじゃない、なんでわざわざ!?」

「魔法の発展のためだな」

「……はい?」 

「もし常時[対抗呪文]状態なら単純な攻撃魔法は作られるか?」

「それは……作らないわね」


 少し悩んだあと答える平川さん。

 俺も同感だ。

 効かないと分かっている魔法は作らない。


「[対抗呪文]を使わない人がいるから単純な攻撃魔法は作られる」


 実際に[対抗呪文]や[真実の目]を使っていない人が被害を受けているケースは多い。

 ウイルス対策ソフトを入れていない人みたいなものだ。


 平川さんはよほど翔の言葉が信じられないのか何か言い返す言葉を探しているようだ。

 今のうちに俺も疑問に思っていることを聞こう。


「そんなことしなくてもルールの穴をつくように攻撃魔法は作られ続けるんじゃない?」

「それはそうだろうな」

「なら結局発展も変わらないじゃ?」

「ふむ……」


 返事に悩んでいる様子の翔。

 一応想定していたけど説明が難しいって感じかな?


「真琴、スパロボにおけるサイフラッシュとグラビトロンカノンの違いはなんだ?」

「何を突然……えっと火力と敵味方識別?」

「まあ火力は置いておこう、MAP兵器において敵味方識別は非常に有用なのは分かるな?」

「それはそうだけど……」


 翔が言いたいのはなんだ?

 俺の顔を見て、考え込んでいた平川さんが近寄ってきた。


「真琴、マップ兵器とか敵味方識別って何よ?」

「それh「広範囲に攻撃できて使用者が敵だと認識した相手だけを対象にする兵器のことだ」


 平川さんへの質問に応えようとしたら翔が割り込んできた。

 返事の速さからして想定していたっぽいな。


「それって敵であっても結局[対抗呪文]で打ち消されるわよね?」

「そうだな」

「なら敵味方識別って言うより[対抗呪文]の有無識別じゃない?」

「そうだな、だがそれでいい」

「え?」

「味方に[対抗呪文]を使わせて無差別攻撃を放つ、そうすれば[対抗呪文]を使ってなかった敵は死ぬ」

「あ……」

「どうあっても敵しか死なないし、フィッシング詐欺と一緒で引っかかれば儲けものだろ」

「そんな使い方って……」


 平川さんが驚いているが無理もない。

 最初からごく一部の層のみを狙う使い方は魔法好きにはあまりない発想だ。 


「これに限らないが『出来ない』と『しない』ではやれることが違う、多様性が大きく異なるだろ」

「けど……」


 納得いかない様子の平川さん。

 優しい人なのでそういうのは多様性と言うのかと考えているんじゃないかな。


「や、優しくないわよ!?」

「また口に出してた!?」

「最近思うんだがわざとやってないか?」

「無実だよ!?」


 翔が疑ってきたけど本当にいつの間にか口か出てるから仕方ないのに。

 絶対良くない癖だから早く治したい。


「まあとりあえずオレの魔法はこんなところだろ」

「そ、そうね」

「どうだった?」


 その言葉を受けて真剣な表情で考え込む平川さん。


「素晴らしい内容だったと思う」

「そうか」


 平川さんの言葉に少し嬉しそうな翔。

 せっかく披露したんだから褒められると嬉しいよな。


「ちょっと衝撃的すぎたからアタシの魔法は今度でいい?」

「いいぞ」

「売店行ってくる」


 そう言って教室を出ていった。

 二人の話は終わったみたいだけど俺はまだ気になっている点がある。


「なあ翔、ちょっと疑問なんだが」

「ん?」

「打ち返された魔法が[対抗呪文]を貫通するなら最初に誰かに使ってもらえば誰でもいけるってことだよな?」

「無理だな」

「はぁ!? だって貫通するって言ってただろ!?」

「あれは使用者限定の話だ」

「何言ってんだよ、俺も貫通しただろ!?」

「真琴は魔法を見た時点で試してみたいと思ったからだな」

「あ……」

「お前が受け入れたから打ち消されなかった、ただそれだけだ」


 たしかに興味があった、だから[対抗呪文]が発動しなかったのか。


「でもそれならなんであんな説明を?」

「分かりやすかっただろ?」

「まあたしかに」


 でもなんだろう、なにかもやもやする。

 分かりやすいからというのは理解できるけど何かそれ以外もあるような……。


「……真琴には負けられないな」

「ん? なんか言ったか?」

「いや、何も」


 なにか小声でつぶやいてた気がするけどまあいいか。

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