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54.兄妹の距離感

「出来たー」


 隣の部屋から大きな声が聞こえた。

 出来たってことは何か作っていたのだろうか?

 まあべつにいいか。


「お兄ちゃん、妹が『出来た』って言ったら『何を?』って言わないと」

「なんでツッコミを強制されないといけないんだよ」

「そしたら『お兄ちゃんとの愛の結晶』って答えるから」

「ツッコむ前に出来てるよね!?」

「お、いいね、ナイスツッコミだよ」


 弾むような声が返ってきた。

 どうやら今回のツッコミはよかったらしい。

 でもなんで妹と下ネタトークしないといけないんだよ。


「うんうん、順調に育って嬉しいよ」

「ツッコミ力を育てたくないんだけど?」

「愛の結晶だからね、仕方ないね」


 ツッコミ力が愛の結晶ってなんだよ。

 ただそれにツッコむとさらに話が逸れそうなので本題に戻しておこう。


「で、何が出来たんだ?」

「自分の未来を予想する魔法」

「は?」


 今なんて言った?

 未来を予想する魔法?

 そんなものが作れるのか?


「まあ明日の自分なんだけどね」

「いやいやいや、それすごすぎるだろ!?」


 大慌てで隣の部屋に乗り込むとベッドにうつ伏せになって足をパタパタさせている陽菜がいた。

 すごい魔法を作ったってのになんでそんなに余裕なんだよ。


「どうしたの、お兄ちゃん?」

「まずはスカートで寝転んで足をパタパタさせるのやめようか」

「下着しか見えないよ?」

「それが駄目だって言ってるんだよ」

「むう」


 渋々といった様子で姿勢を改める陽菜。

 もう少し羞恥心を持ってほしい。


「で、明日の自分の未来を予想するってなんだよ」

「そんな大層なものじゃないよー」


 ちょっと恥ずかしそうに手を振りながら答えた。

 可愛らしい仕草だけど今はそれどころじゃない。


「何が分かる? どこまで出来る? 消費MPは?  制約は?」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ、いっぺんに聞かれても答えられないよ」


 困った様子の陽菜。

 でもそれが分からないとどう使えばいいか分からない。


「そうか、既に魔法作ってるならそれを見ればいいか」

「あ、ちょっと!?」


 世界書を開いて陽菜の名前で検索して、あっ。

 検索結果が突然一つ減った。

 ぱっと見で未来予想っぽい魔法名と説明文がないので消えたのが未来予想の魔法だろう。


「なあ陽菜、魔法が消え」

「むーーーー」


 陽菜を見ると世界書を操作しながら膨れ面をしていた。

 あれ? さっきまで機嫌良さそうだったのに今はどう見ても機嫌が悪いぞ。


「陽菜どうして怒「抱っこ」

「は?」

「まずは抱っこ」

「いや、そんな年じゃないだろ」

「抱っこしてくれなきゃ相手してあげない」


 世界書を抱えて顔を逸らす陽菜。

 さすがに妹とはいえ年頃の女性を抱っこするのは恥ずかしい。

 しかも体力的にも厳しいし。


「陽菜?」


 声をかけても返事もしない、これはかなり怒っている印だ。

 仕方ない、膝の上に乗せる感じならいけるか。

 ベッドに腰掛けた状態で振り向いて手招きすると寄ってきた。

 何も言わなくても膝の上に腰掛けて……。


「なぜこっち向きに座った」

「だって抱っこ」


 何故か向かい合うように腰掛けてきた。

 普通背中を向けるだろ。


「ん」


 さらに抱きしめるように要求してきた。

 こんなことは恋人同士ですることだと思うけど俺がやっていいのか?

 抱きしめるのをためらっていると泣きそうな目をしはじめた。

 ええい、仕方ない。


「あふ」


 おもいきりぎゅっと抱きしめると力を抜いてこちらに体を預けてきた。

 そういえば昔は一人が怖いというからよく抱きしめていたな。

 本人曰く「心臓の鼓動を聞くと落ち着く」とか。

 しばらく抱きしめていると寝るから本当に落ち着いていたんだろうな。


「久しぶりだぁ」


 甘えるような声を出されて柔らかさを全身で感じてしまうと、妹とはいえ少し興奮してしまう。

 陽菜は絶世の美少女で性格も可愛らしくスタイルも良い非の打ち所がない女の子だ。

 もし妹じゃなかったら近づくことすら出来ないと思う。


「お兄ちゃんの妹の特権」


 嬉しそうに胸元でつぶやいている。

 こんなに全幅の信頼をもらえるのは非常に嬉しいけど周りから見てどうなんだろうか。

 もし藤田さんが弟をこんな感じで可愛がってたら……。


「む、他の女のこと考えてる」

「なんで分かるんだよ!?」

「誰?」


 俺の返事を無視して更に聞いてきた。

 と言っても陽菜は会ったことないし説明が難しい。


「クラスメイトだよ」

「美人?」


 即答で質問が返ってきた。

 やっぱり美人かどうかはみんな気になるんだな。


「ものすごい美人」

「私より?」

「それはさすがに」


 俺は藤田さんをものすごい美人だと思ってるけど、それはかなり主観が入っている。

 客観的に見たら多分それなりの美人ってレベルになるんじゃないかな。

 それに対して陽菜は間違いなく誰が見ても絶世の美少女だ。

 名雪さんと並んでも引けを取らないどころか勝つ。


「ならよし」


 何が良かったのかまた胸元に顔を埋めた。

 まだしばらく時間はかかりそうだ。


・・・


 しばらくしてあまりに反応がないので顔を覗き込んでみると寝ていた。

 よくこんな体勢で寝れるな。

 とりあえず後ろに倒れ込んで陽菜をうつ伏せの状態にする。

 これで少しは寝やすくなるだろう。


「お兄ちゃん、大好き」

「はいはい、お兄ちゃんも妹大好きだよ」


 寝言に答えると反応があった。

 寝ているのに笑うのは器用だな。

 ただ二ヘラっと笑ったその顔は名雪さんを彷彿とさせる気持ち悪さだ。

 俺はともかく他人に見せられない表情なので今度しっかり指導しておこう。


 結局そのまま俺も寝入ってしまって、夕ご飯の呼び出しに来た父さんに起こされた。

 なにか言いたげな様子だったけど、後で母さんに添い寝を頼んでたのを見ると羨ましかったらしい。 


「結局自分の未来を予想する魔法って何だったんだ?」


 やること全て終えたのに自分の部屋に帰らないで暇そうにしている陽菜に話しかける。

 大体こういう時は構ってほしい時だ。

 伊達にお兄ちゃん歴は長くない。


「24時間後の自分が良い気分かどうかわかる魔法」


 予想通り機嫌よく返事が返ってきた。

 普段ならこんなものだよな。

 あの時はちょっと焦りすぎていたせいで反発を招いてしまった。

 ただ自分の気分が分かる、か。


「……なるほど、使い方を工夫すれば未来予想に近いことが出来るってことか」

「さっすがお兄ちゃん」 


 例えばスクラッチくじで大金が当たれば数日は良い気分でいられるだろう。

 だから購入前に24時間後の自分の気持ちを確認して落ち込んでいれば基本ハズレと考えていい。


「でも別の理由で良い気分になったら区別つかないんじゃないか?」

「それはそうだよ」


 つまり大きな出来事が失敗するかどうかを調べる魔法って感じかな。

 それでもかなり優秀な気がするぞ。


「さすが俺の妹」

「え、そうかな、えふへへ」

「なぜ微妙に気持ち悪さが混じった笑いをしてるんだよ」

「あ、名雪んの笑い方が移ったんだー」

「なんでお前が名雪さん知ってるんだよ!?」


 近づけたらヤバいのが分かっていたから黙ってたのに!?

 もしかして翔から名雪さんの話聞いたのか!?


「だって『お兄さんから紹介されましてぇ』って言ってたよ」


 無駄に上手い声真似のおかげで名雪さん本人が接触してきたのは分かった。

 でもなんで特定されてるんだよ。


「名雪んってすっごい美人だね」

「まあ美人度ランキングは常に一位だしね」


 一見冷たさを感じるぐらいの綺麗系の美人なのにゆったりした喋り方と雰囲気のおかげですごく話しやすい。

 自分にだけデレてくる女子って感じがするので、あまり付き合いのない人はすぐに勘違いするんだよな。

 実際はねっとりと絡みを想像されているんだけど。


「お兄ちゃんの好きな人?」

「ないな」


 好きか嫌いかで言えばもちろん好きだけど恋人にするのはちょっと……。

 友達ぐらいの距離感でちょうどいい気がする。


「えー、あんなに美人でスタイル良くて優しいのに?」

「趣味がなぁ」


 付き合ってもエッチなことはさせてもらえず名雪さんの眼の前で男と絡まされそうだ。

 というか、そもそも男性に興味あるのか?

 いや男性同士に興味があるのは分かるけど男女交際的な意味だと興味ない気がする。

 正直名雪さんが誰かとキスする所すら想像できない。


「あ、BLってやつ? お兄ちゃんと翔さんが絡み合ってるやつ見せてもらったよ」

「そんなのあんのかよ!?」


 なんてヤバいもの作ってるんだよ。

 しかもそれを家族に布教しようとするとかもはやテロだろ。

 これは焚書して厳重抗議だな。


「お兄ちゃんの心理描写がなかなか的確でよく観察してるなって思ったね」

「お前は俺の心理の何を知ってるんだよ」

「妹ラブ!!」

「うん、合ってるけどBLでそれは違うよね」


 妹ラブは合っていても今は男同士の絡みの時の心理だからな。

 さすがに絡んでる時に妹を想像してたらいろんな意味で変態だろう。


「BLってブラザーラブの略では?」

「翔と兄弟じゃねぇよ!?」

「妹も兄妹だからセーフ」

「それはシスターラブでは?」

「修道服着る?」

「シスター違い!?」


 相変わらずノリで喋ってるな。

 まあ楽しそうだからいいけど。


「で名雪さんから小説預かったのか?」

「ううん、見せてもらっただけ、『能見君に渡すと焼き払われますからねぇ』って言ってた」

「俺の心理に対する解像度高いな!?」

「でしょー」


 まさか焼き払うまで予想されていたとは……。

 小説を読んだら描写がリアルすぎて気持ち悪くなるんじゃないかな。


「とりあえずこれ以上仲良くならないように」

「ちゃんとLINE交換もSNSの相互フォローもしたよ?」

「行動が早い!?」

「名雪んとはもう心の友と書いて心友だね」

「その心の友は男の喘ぎ声のリサイタルを聞かせに来るぞ」

「劇場版仕様だから大丈夫、さっそくお兄ちゃんの普段の様子を教えてもらってるんだ」


 駄目だ、もう既に懐柔されてる。

 口止めするなら名雪さんにしないと駄目だ。


「そんな話ししてたら名雪んと話したくなっちゃった」

「あんな人でも一応先輩だからちゃんとしろよ」

「お兄ちゃんが『あんな人』と言ってた、と」

「悪口をすぐに報告するんじゃねぇ!?」


 LINEで速攻送ったっぽい。

 行動が早すぎる、クロックアップでも使っているんじゃないか。


「あ、返事きた、『親しげに呼ばれて嬉しいですねぇ』って書いてある」

「いろんな意味で怖い」


 普通は怒るところだろうに、ほんとあの人の寛容さはオカン級だな。

 まあそのまま絡みのネタに使われそうだけど。

 ついでに言えば文書でもわざわざ語尾伸ばしてるのか。

 わざわざそんなことしなくても……いや語尾を伸ばさない時の名雪さんは激烈に怖いしそれでいいか。


「そうだ、また横道にそれたけど魔法は作り直したのか?」

「作り直したよー」


 なら早速使ってみるか。

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