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55.彼女の作り方

 ある日の昼休み。

 ご飯を食べ終わってスマホを見ていると、江川が俺の前の席に座ってきた。


「能見ちょっといいか?」

「どうした?」


 やけにこそこそとしながら話しかけてきた。

 何か人に聞かれるとまずいことでもあるのか?


「彼女が出来る魔法はないのか?」


 小さな声だけどド直球に質問してきた。

 なるほど、これならこそこそする訳だ。


「ない」

「即答かよ」


 残念そうな顔をしているが仕方ない。

 存在しないものは存在しないというしかない。


「他人の精神に関わる魔法はそもそも作れない」

「なんでだ?」

「知らない」

「おいおい、魔法博士が知らないって言っちゃ駄目だろ」


 とっさに反論しようと思ってしまったけど意識してこらえる。

 痛い所を突かれたからってすぐ反論しようとするのは悪い癖だ。


「唯一の真の英知とは、自分が無知であることを知ることにあるって言うだろ」

「真のエッチが鞭ってどういうことだ?」


 頭に疑問符を浮かべながら質問してきた。

 ただ聞き間違えるにもほどがあるだろう、脳みそピンクなのか?


「知らないことを認めるって大事だよってこと」

「ああ、たしかにな」


 あっさりと納得した様子だ。

 江川はまさに知らないことを認められる人間なんだよな。

 俺はさっきみたいに反抗してしまうから意識して抑えないといけない。


「なら好意を持ってもらえる魔法はないのか?」

「それも精神に作用するから同じ」


 自分の感情すら操れないのに他人の気持ちなんて操れるわけないよな。

 もし他人の気持ちを自在に操れたらいくらでも彼女は出来る。

 単純に愛情持ってもらえばいいんだから。


「じゃあ好意を持ってもらえる機会を作る魔法とか」


 諦めきれないようでまだ質問してくる。

 そういう魔法は運の良さの操作がメインだから作れそうな気はするけど、きちんと制約つけないと消費MPが膨大になりすぎると思う。


「そんな魔法作れたらまずは自分で試すに決まってるよ」

「だから聞いてるんだろ」

「どこに『だから』がつながるんだよ」

「最近藤田と仲いいけどあれ魔法の効果じゃないのか?」


 え、仲良く見えるのか。

 特段配慮して言った様子もないので本心からの言葉だろう。

 それはすごく嬉しい。

 ただそれはそれとして。


「そうかそうか、あれが魔法の効果に見えるか」

「……あ、そういえば桐谷とバスケする用事が」

「逃がさん、お前だけは……」


 しっかりと肩を掴んで逃げられないようにする。

 たまたま上手くいっただけなのに魔法の効果だなんて言われたらたまったものじゃない。

 この機会にしっかり教えておかないとな。


「あれは覚悟の結果だ」

「何の覚悟だよ」

「嫌われる覚悟」


 好意を持ってもらえる機会は自分で作る。

 たとえそのせいで嫌われたとしても仕方ない。


「いいか、嫌われるのを恐れて行動を起こさないと絶対に彼女は出来ないんだよ」

「意外と良いこと言うな」

「意外と、ってなんだよ」


 まあ陽菜からの受け売りなんだけど実際に効果はあったと思う。

 今まで藤田さんと会話なんてほとんど出来なかったのに今はけっこう会話出来ている。

 もちろん嫌われるようなこともいっぱいしてしまったので、内心では嫌われているかもしれない。

 それでも何もしないよりはよかったと思う。


「そうか、能見なりに頑張って藤田にアピールしてたんだな」

「当たり前だよ、何もしなかったら藤田さんが俺なんかに興味持ってくれる訳ないだろ」

「……まあいいか、お前がそう思ってるならそうなんだろうな」

「……少女ファイトネタ?」


 もしかして仲がよく見えるけど実際は興味を持たれていないってこと?

 あくまで藤田さんが優しいから相手してくれてるだけと言われればそうかもしれない。


「俺も頑張ってみるか」

「お、おう、頑張れよ、応援してるぞ」

「おう」


 江川から続きの言葉が出ることはなく、こちらから聞くのもはばかられた。


「まあ江川と和泉さんが付き合ったら査問委員会開くけど」

「なんでだよ!?」

「あんな美人と付き合うなんて許される訳ないだろ」


 だが恋愛を応援するのと恋愛が成就するのを願うのとは別物だ。

 和泉さんみたいな美人と付き合ったら私刑するに決まってるだろ。


「なら何を応援してるんだよ」

「どうぞ……存分に夢を追い続けてください…… 我々は……その姿を心から……応援するものです……」

「失敗するのを眺めたいだけじゃねぇか!?」


 Yes,that's right.

 出来れば全力でぶつかって盛大に玉砕してほしい。

 花火は大きいほどきれいだし。


「なに、真琴、また外道なこと言ってるの?」

「外道なことなんて言ったことないよ!?」


 平川さんが声をかけてきた。

 当たり前のように俺の隣の席に座ってきたけど、そこは橘さんの席だぞ。


「聞いてくれよ、平川、失敗するのを応援するって言われたんだぜ」

「うわ、最低、普通は友達が成功するのを応援するものでしょ」

「事実無根だよ!?」

「そんなんじゃ彼女出来ないわよ」


 楽しそうに笑いながら肩を叩いてくる。

 気軽にボディタッチするのは勘違いするからやめてほしい。

 あと地味に平川さんの方が身長が高いのに座高があんまり変わらないのが気になってしまう。


「平川は彼氏いないの?」

「いないわね」

「欲しくないのか?」

「ピンと来る男がいないのよね」


 江川のやつ、さらっと聞きづらいこと聞きやがって。

 そのノリで藤田さんの彼氏の有無も聞いてくれよ。


「真琴はどうなの?」

「いたことない」

「そうなの? 寂しい人生してるわね」

「平川さんもいないんだろ!?」

「能見よ、作れないと作らないは違うんだぞ」

「うるせえ、お前に言われたくないわ!?」


 江川だって彼女いない癖に生意気な。

 でもその言葉を聞いて江川が不思議そうな顔をする。


「別に今まで彼女がいなかったわけじゃないぞ?」

「は?」

「今はフリーってだけだ」


 うそだろ、衝撃の事実だ。

 ずっと非モテだと思っていたのにまさか彼女がいたなんて。

 いつもあんな馬鹿話していてモテる要素何もないのに一体誰が……。


「何、真琴も彼女欲しいの?」

「欲しいに決まってるよね!?」

「いたことないって言うからいらないのかと思ったわ」

「男子高校生だよ!?」


 彼女がいらない男子高校生って存在する訳ない。

 そんなことを言ってるやつは強がってるやつに決まってる。


「へぇー、なら「久美ー、ちょっと来て」


 平川さんが何か言おうとしたら和泉さんが声をかけてきた。

 江川の動きが固くなるのがわかる。


「呼ばれたから行ってくるわね」

「あ、うん」

「またね」

「また」

「またな」


 平川さんは和泉さん達の所に行ってしまった。

 江川の目線が平川さんを追っているけどもしかして平川さんが好きなんだろうか?

 それなら贅沢な話だ。

 二兎を追う者は一兎をも得ず、和泉さんと平川さんのどちらも得られないに決まってる。


「能見はいいよな」

「何がだよ!?」


 突然振り返ってこちらを羨ましがってきた。

 あれか、お前はそんな悩みを持つほどのスペックがないとか言いたいのか。


「恵まれてるやつには分からない話さ」

「彼女いた奴が言うことかよ!?」


 彼女いたことないのに恵まれてるとか意味わからんぞ!?

 その後抗議したけどまったく取り合われなかったので納得いかなかった。


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