面白い魔法を見つけたら誰かに紹介したくなる。
これは本能と言っていい。
「良い魔法を見つけたんだ」
「またか、今度はなんだ?」
やる気なさげな態度で返事をする翔。
見てろよ、今度のやつはすごいんだからな。
「エアメモ帳だ、すごいだろ」
「何がエアなんだよ、浮いてるのか?」
「そう、まさにその通りで空間にメモ帳が出現するんだ」
自分にだけ見えるメモ帳が出現する。
イメージとしてはゲーム世界とかであるウィンドウ画面だ。
もちろんメモ帳なのでそこにメモすることが出来るし保存もされるので後で呼び出せる。
「はあ、それの何がすごいんだ?」
「今までは二行以上表示することが出来なかったのにこれは表示した上に書き込みまで出来るんだぞ!!」
「あー、はいはい」
今までは電光掲示板みたいな感じのウィンドウしか出せなかったのに突然これだ。
何か技術革新でもあったかよほどすごい工夫があるに違いない。
「しかも実際に手を動かして書くのと思ったことを読み取って自動で書くのと両方が使える!!」
「そうですか、そうですか」
「お前、これがどれほどすごいのか分からないのか!?」
興味なさげな反応を返してくる翔。
普段あれだけ魔法のすごさを説明してやってるのにまったく理解してないとは不届き者め。
ここはしっかり教えないと駄目だな。
「真琴、何を熱弁してるの?」
遠くにいた平川さんがいつのまにか近くに来ていて話に混ざってきた。
さすが魔法好き、新しい情報には興味があるんだろうな。
こういう所が素晴らしい、翔も見習ってほしいものだ。
「翔のやつがエアメモ帳の良さを全く理解しないからちょっとね」
「エアメモ帳ってなにそれ?」
興味津々で俺の近くに寄ってきた。
どうやら聞いたことのない魔法だったらしく俺の世界書を覗き込んで魔法名を確認しようとしている。
ただ覗き込むのはマナー悪いし、そもそも反対向きだから読みづらいと思う。
「覗き込まなくても魔法名教えるよ」
「ありがと、なんか長くて読みづらかったんだ」
かわいらしく謝られたので、続けて覗き込んだことを叱る気がなくなってしまった。
こういう仕草が年下っぽいんだよな。
大人っぽい見た目と子どもっぽい仕草、つまり名探偵。
「どんな魔法名なの?」
ちょっと甘える感じで聞いてくるのは陽菜の真似なんだろうか?
「お兄ちゃんならこうやればイチコロだよ」とか教えてそう。
まあその通りなんだけど。
「[我呼び出すは無垢なる書]って名前」
「えらく中二病っぽい名前だな」
「それは作成者に言ってくれ」
翔がツッコんできたけど同感だ。
なんでメモ帳一つ出すのにこんな大層な名前なんだよ。
そもそも無垢なる書って言ってるけど白紙と無垢って意味が違う。
仮にそうだとしても書き込んでしまったら無垢と言えないじゃないか。
「真琴が無垢に一家言あるのはわかった、童貞だもんな」
「また口に出てたんだろうけど無垢に一家言はないよ!?」
平川さんは俺たちの会話を気にすることなく世界書を見ている。
魔法を使う前にじっくり説明欄を読んでいるのはやっぱり魔法好き故だろう。
「【我呼び出すは無垢なる書】」
ちょっとカッコつけた感じで詠唱したのが中二病っぽい。
ほんと、見た目と違って子どもっぽいんだよな。
「やった、出たよ、真琴」
「うん、魔法だからね」
嬉しそうに俺の手を両手で包みこんできた。
興奮してるのか少し体温が高いらしく熱が伝わってくる。
「あ、真琴に当たっても貫通してるんだ」
「世界書と違って実体はないっぽいね」
「なるほどね」
手を離して空中で指を動かしている。
ただそれはいいけどなんで俺の眼の前でやってるんだ?
眼の前で指が動いているので秘孔を突かれてるみたいな気分になる。
しかもちょっと前かがみ気味で操作してるのでおっぱいが強調されてるし。
「これすごいね」
「だよね」
まず手書きが出来るというのがすごい。
今までの魔法はどれも思考読み取り型だったので誤入力が多かった。
それを訂正しようとしてまた余計なことを考えてしまうループになってイライラすることも多い。
このエアメモ帳なら普段は思考読み取りで入力して何かあったら手で修正できるのが素晴らしい。
「【我呼び出すは無垢なる書】」
気づけば翔も魔法を使っていた。
やっぱり楽しそうにしてると乗ってくるな。
「なるほど、けっこう便利だな」
「そうでしょ!!」
「なんで平川さんが自慢げなのかそれが分からない」
「真琴のものはアタシのもの、アタシのものはアタシのもの」
「ジャイアニズム!?」
令和の時代にそのセリフを聞くとは思わなかったぞ。
あ、そうか、陽菜から聞いたな。
旧ドラ大好きだから機会があるとすぐ布教し始めるんだよな。
「そのセリフは現代ではいじめだよ」
「昔の作品ってそういうの多いよね」
「自由だったと見るか無法地帯だったと見るかは人それぞれだけどね」
だからたまに動画配信サイトだとセリフがカットされることもあるんだよな。
初代ガンダムでランバ・ラルからご飯おごられるのを断るシーンとか。
「とりあえず最初の映画から見てる」
「恐竜から!?」
「面白いよね、ちょっと声違うけど」
「そうなんだよ、途中で声優が変わったけど全然印象は変わらなくて」
「ドラえもん談義はいいが魔法はもういいのか?」
「そうだった」
翔に言われてようやく本筋から逸れてることに気づいた。
こういう所が悪い癖だ。
「このメモ帳は何枚でも出せるのか?」
「今のところ出来ない」
「人に見せるのは?」
「それも出来ない」
「意外と制約多いか」
「だからこそ消費MPも現実的なラインで収まってるのかも」
若干不満そうな顔だけどそれは使い勝手が良さそうと思ったことの裏返しだ。
それだけ期待したということだろう。
「春日井くんはもっと使い方を考えなよ」
「春日井くんは……か」
翔が顔を曇らせているので、平川さんから指摘されてちょっと気にしてるっぽい。
うんうん、俺が言っても何も聞かないしこれからは平川さんに言ってもらった方がいいかも。
「うん、面白い魔法ありがとね、真琴♪」
まぶしいほどの笑顔でお礼を言ってくれた。
これほどの笑顔をもらえるなら教えたかいがあったな。
それにしてもこのままだと名雪さんの一位の座は陥落するに違いない。
「次はオレも面白い魔法持ってくるだろ」
「あ、期待してるよ、春日井くん」
おお、翔もやる気になってる。
翔はけっこう違う視点で魔法を選ぶからどんなのが来るか楽しみだ。
「真琴は面白くてアタシの役に立つ魔法だからね」
「なんで俺だけ条件が厳しいんだよ!?」
ニヤリと笑いながら無茶ぶりしてきたけど、これは絶対陽菜の悪影響だ。
笑いながら席に戻っていたから間違いない。
家に帰ったら陽菜の顎をタプっておこう。
……あれ、よく見たら藤田さんがこっちを見てる?
目が合っても反応がないので後ろを振り返ってみたけど何もない。
何だろう、単にぼーっとしてるだけ?
でもそれにしては少し不安げな目をしてるのが気になる。
席を立ちあがるとすっと目を逸らされた。
「藤田さん、どうしたの?」
「……なんでもない」
何かあったのかと思って声をかけたけど非常に珍しい反応が返ってきた。
ちょっと目を伏せてるのがとてもかわいい。
「お姉ちゃん困ってるでしょ」
「あ、ごめん」
「……久美と仲良い?」
「え、あ、どうだろ?」
普通に考えて女子と仲いいなんて言える訳がない。
それが想い人からの質問であればなおさらだ。
「まあ女の子と仲良いなんてセリフ真琴に言える訳ないか」
「偏見だよ!?」
「つまり認めるってことね」
「そうは言ってない」
「なら何の偏見なの?」
「言えないってのが偏見で、本当に仲が良かったら言えるよ」
「仲が良いの定義は何なの?」
「それは、ほら、毎日喋ってるとか」
「なら毎日喋ってるじゃない」
「え、あ、いや、それは平川さんが話しかけてくるから」
「……仲良さそう」
否定しようにもどんどん証拠を積み上げられてしまう。
いや、別に平川さんと仲が良くて困る訳じゃないけど……。
キーンコーンカーンコーン
「もう授業」
「え、でも……」
「はいはい、席に戻るわよ」
平川さんが俺を席まで引っ張っていった。
まだ話したいことがあったのに……。
一度タイミングを逃したのでこの後も何も説明できなかった。