魔法の研究が進むとやはり魔法でしか出来ないことをやろうとしてくる。
その中で多いのはやっぱり恋愛に関するもの。
俺もそういった魔法を研究しているDiscordにいくつか入っている。
「今のトレンドは機会を作る魔法か」
好意を持ってもらうための機会を作り出すらしい。
いま紹介されている魔法だと相手が危機に陥りそうな所を助けることが出来るとか。
たしかに好きになってもらうエピソードとしては定番だよな。
危ない所を助けてそこから仲良くなって……。
「ってそんなこと頻繁にあるか?」
よく考えたらそうそう危険な目になんて合わない。
この魔法が効果を発揮すること自体ないんじゃ?
「あ、もしかしてマッチポンプ?」
この魔法を使ったら相手が危険な目に合うからそこを助けることが出来るとか?
うん、それなら効果は抜群だろうな。
……思いついてなんだけど、それって最低では?
魔法を使わなくてもカラミ役を雇ってそういうヤラセをする人がいるらしいけど、わざわざひどい目にあわせようとするのは人間として駄目だと思う。
「なら本当に、相手がなにかに困ってる時に偶然居合わせる魔法とか……」
試しに作ってみようとすると作成不可だった。
困っている時ってのが判定できないのかそれともいつ効果が出るかわからないからなのか。
どちらにせよこれじゃ駄目だ……。
「単純に対象が今いる場所が分かるってのはいけるかな?」
設定を入力するとこちらも作成不可だった。
やっぱりピンポイントで位置を調べるのは無理っぽい。
まあそんなことが出来たらGPS持たせてるようなものだからいくらでも犯罪に使えるか。
「そういえばドラで人探しのひみつ道具があったような」
たしか尋ね人ステッキという名前で、尋ね人がいる方向だけを示すひみつ道具だった。
もしかしてこれなら作れたりする?
「お、既に作られている」
尋ね人ステッキで検索すると既に作られていた。
説明文を見てもひみつ道具の効果そのままな感じだな。
ちょっとこの人の他の魔法も見てみよう。
説明文はいくらでも嘘がつけるけど、いくつも見れば大体嘘つきかどうか分かるものだ。
「うお、なんだこれ」
どうやら重度のドラ好きらしく、ひみつ道具を再現した魔法をいろいろ作っていた。
消費MPや説明文を見ても名前だけという感じではない。
「これは陽菜が好きそうだな」
まずは俺が使ってみて、よさそうなら後で教えてあげよう。
「【尋ね人ステッキ】、藤田さんのいる所」
おお、幻覚のステッキが出てきて倒れた。
たしかステッキが倒れた方にその人がいるんだっけ。
あれ? そういえば原作で言葉に出してたっけ?
でもこれほどの再現度にしてるなら原作通りなのかもしれない。
ちょっともう一度アニメ見たくなってきた。
「さて藤田さんのいる方角はあっちか」
方角的に家ではなさそうだし外出してるなら会えるかもしれない。
私服姿の藤田さん……前見たけどすごくかわいかったよな。
「イクゾー、デ、デ、デデデ、カーン」
一人で言うとむなしい。
やはりネタは分かってくれる人がいてこそだな。
・・・
何度か[尋ね人ステッキ]を使い行き先を調整した結果、ショッピングセンターに到着した。
買い物としては定番だし以前もここで会ったから可能性は高いと思う。
ただかなり広いので偶然会える可能性は低そうだ。
まずはうろうろしながら[尋ね人ステッキ]を使ってもう少し範囲を絞ってから……。
「あれ、真琴?」
「え、平川さん?」
そこには私服姿の平川さんがいた。
方角的に藤田さんがここにいるっぽいから来たのに他の人に会うとは思わなかった。
……まあこの町で買い物するならみんなここに来るか。
「休日に会うなんて珍しいわね」
「そうだね」
シャツとショートパンツ姿なのでとても健康的に見える。
あと普段は隠れてる腕や足が見えていてる長さと細さが際立っているのも素晴らしい。
モデルって言われても納得するよな。
「お姉ちゃんと来たんだけど今は別行動中」
「そっか」
休日も一緒に出歩くなんて相変わらず仲がいいんだな。
よし、じゃあ[尋ね人ステッキ]を使ってどこにいるか「真琴は何をしにきたの?」
「あ、えっと……」
挨拶もしたし藤田さんを探しに行こうと思ったら平川さんから質問が来た。
ただよく考えたら私服姿の藤田さんが見たかっただけで特に目的はないんだよな。
なにかするにしても大してお金は持ってないし……。
「暇ならちょうどいいから一緒に来て」
「は?」
「声かけられるの面倒なの」
そう言ってこちらの横に並んでくる。
並ぶと身長の高さがよく分かるなぁ。
顔の作りも合わせると声をかけづらい印象があるのにそこまでナンパされるのだろうか?
そんなことを考えていたらそっと腕を組まれた。
「な、何を!?」
「彼氏のフリしてもらえば男も寄ってこないでしょ」
陽菜以外と腕を組むのは初めてだけど腕の柔らかさと温かさが心地いい。
それにものすごくいい匂いがする。
そしてたまに二の腕に当たる超絶に柔らかい物体はもしかして……?
「真琴、もしかして腕組むの初めて?」
「ひ、陽菜とならあるし」
「妹はノーカウントでしょ」
何が面白いのかケラケラ笑ってる。
そのたびに身体が揺れて二の腕に気持ちいい感触が。
駄目だ、このままじゃ性欲に負けておっぱいを触ってしまいそうだ。
妹分に変なことをして嫌われたら藤田さんにも嫌われかねないぞ。
「こ、こういう時こそ魔法だよ」
組んでる腕を外して世界書を手に持つ。
そしてさっきのドラ好きの人を検索して……やっぱりあった!!
「ジャジャーン、[石ころぼうし]」
原作では目に写っても無視される効果があるので、おそらくナンパされるのも防げるはず。
「そんな効果音だっけ?」
「どーせ音程再現下手ですよ」
「はいはい、拗ねないの」
平川さんも世界書を出して検索している。
説明文もしっかり読んでるっぽいのが魔法好きらしいなぁ。
「【石ころぼうし】」
あれ? 魔法使ったみたいなのに全然効果を感じないけどどういうことだ?
平川さんのほうも何の実感もないようだ。
「どう?」
「ごめん、いつも通りにしか……」
「やっぱりかー、意識されにくくなるってあるから気づかれてると効果ないみたいね」
「なるほど」
よく考えたら無視される効果だと悪用し放題だし当たり前か。
まあナンパが防げる程度の効果があれば十分かな。
「ちょっと検証したい」
楽しそうな顔で言う平川さん。
さすが魔法好きだな、俺もこういう時は検証したい。
とりあえずさっき平川さんが声をかけられたという場所に行く。
休憩処らしくけっこう多くの人がいる。
とりあえず缶コーヒーを買って飲もうとすると目をキラキラさせて俺を見てくる平川さん。
「はい」
「ありがと♪」
コーヒーのお礼は満面の笑みで返してきた。
おねだり上手なのは陽菜から学んだのかそれとも妹属性だからか。
まあ美人が喜んでる姿を見るのは悪くないけど。
「あ、すごい、全然声かけられない」
「まだ一分ぐらいだよ!?」
「ジュース飲んでただけなのにひっきりなしに来てうざかったのよね」
たしかにやけに男性がうろうろしてるし、女性に声をかけている人もいるからそういうスポットなのかもしれない。
ただそれにしてもひっきりなしというのはすごいな。
「ほら、あの男とかさっきしつこかったのよね」
言われたほうを見るとかなり顔の整った男性が声をかけている。
声をかけられた女性の方もまんざらではないようだ。
「顔だけで中身がないのよね、真琴のほうがまし」
「それは端的に俺の顔が悪いって言ってない?」
「ほんと、陽菜ちゃんと兄妹って言われても納得できない」
「そうだろうそうだろう、陽菜は特別かわいいからな」
そう答えたらなぜか無言で頭を撫でられた。
同級生にこんなことされると恥ずかしいな。
「ちっ、邪魔だ」
「あ、すみません」
そんなことをされていたので警戒がおろそかになって、うろうろしている男性と接触してしまった。
さっきの男性には劣るものの十分イケメンだな。
この場所はやけに男性の顔面偏差値が高いけど何かあるのか?
「そっちが当たってきたんでしょ」
「なんd、お、よく見たら美人だね、いま暇?」
「忙しいに決まってる」
「そうだね、俺と話すから忙しくなるよね」
平川さんが男性に抗議すると、平川さんの存在に気付いた男性が話を無視してナンパし始めた。
そうか、平川さんが声をかけたので[石ころぼうし]の効果がなくなったのか。
「ここにいるってことは暇なんだろ?」
「別に暇じゃない」
「なら暇を作ってもらうことは出来る?」
「なんであんたのために」
たしかにしつこいな。
平川さんが断ってるのに全然気にせず話してくる。
すると平川さんがチラリとこちらを見た。
「彼氏いるから」
平川さんが俺の腕に抱きつく。
おっぱいが押し付けられてるけどそんなことより男性の不思議そうな反応のほうが気になる。
「はぁ、そんなのが彼氏ね、どう見ても釣り合ってないな」
男が俺の方を見て哀れむような声でそう指摘する。
嫉妬するような声ではない所が悲しい。
「身体も鍛えてないし君より小さいから並んで歩くと恥ずかしいでしょ」
そのとおりなので何も言い返せない。
今も腕に抱きつかれているけど明らかに不釣り合いなのが分かる。
「会話しようという意思を感じないし社交性低いんじゃない?」
たしかに誰彼構わず話せるような社交性はない。
平川さんのように誰とでも仲良くなれそうな人と一緒にいたら迷惑かもしれない……。
「今も自信なさげな顔してるし君に相応しくないよ」
平川さんと比べるとほぼ全て劣っているし相応しいかと言われたら返す言葉もない。
だってあくまで彼氏のふりをしてるだけなんだから。
「……えろ」
「ん、どうしたの?」
「死にたくないなら消えろって言ってんのよ」
「は?」
「え?」
静かにしていたと思っていた平川さんから過激な言葉な言葉が飛び出した。
抱きついた腕を解いて世界書を手に持つ。
一体何を。
「【もうこれで終わってもいい】」
「ごほっ!!」
聞いた瞬間噴き出してしまった。
嘘だろ!?
その魔法だと冗談で済まないぞ!?
「平川さん、落ち着いて!!」
平川さんが手に持っている缶コーヒーの缶に力を入れる。
グシャ!!
「ひっ!?」
スチール缶が押しつぶされるのを見て男性が逃げ出した。
まずい、あの魔法は感情の高ぶりに合わせて腕力を引き上げる効果があるんだけど反動もものすごい。
変に力を振るうと後で大変なことになるぞ。
男性も逃げたことだしなんとか落ち着かせないと。
でも落ち着かせ方っていっても何をすれば……あっ!!
「平川さん、ごめん!!」
「ふぇっ!?」
正面から抱きしめていったん動きを止める。
そして頭を撫でつつ少ししゃがませ、俺の心臓に耳を当てさせた。
陽菜が大泣きした時はいつもこれで静かになる。
心臓の音を聞いてると落ち着くらしい。
「落ち着いて、もうさっきの男性はいないから」
こういう時にこちらが焦っていると相手も落ち着けない。
ゆっくり深呼吸して心臓の鼓動を抑えるようにする。
背中をさすると平川さんの緊張して強張った体が少しずつ柔らかくなってきた。
「この方法、陽菜には効果てきめんなんだ」
「うん……」
やっと返事が返ってきた。
さっきとは声のトーンが大分違うので少しは落ち着いてくれたのだと思う。
「よし、落ち着いたら魔法の解除しようか」
平川さんの返事はない。
さっさと解除しないとまた感情が高ぶった時に効果を発揮してしまうんだけど……。
「平川さん?」
返事の代わりに俺の胸に強く顔を押し付けてくる。
まだ落ち着いていないのだろうか。
頭を撫でると顔をモゾモゾと動かすのがかわいらしい。
陽菜とおんなじ動きするのが面白いなぁ。
ってあれ? よく考えたら今の状況って平川さんを抱きしめてるんじゃ?
や、やばい、とっさにやってしまったけどこれはかなりまずいことしてるんじゃないか?
「も、もういいよね、じゃあ」
体を引き離そうとすると強い力で抱きつかれる。
魔法の効果のせいなのか引き剥がせないほど強い力だ。
「ひ、平川さん!? 魔法、魔法がね!?」
声をかけても抱きつく力が強くなる一方だ。
おっぱいが押し付けられてものすごく気持ちよくて……。
「能見くん……?」
その声が聞こえた瞬間、平川さんはパッと手を離して体を起こした。
「久美?」
「あ、これはね、魔法の検証してたの」
すっと俺の胸から離れて藤田さんの所に行く。
まるでさっきまでのことが夢だったみたいに。
「そしたら真琴が調子乗って抱きしめてくるんだから」
「アクシデントだよ!?」
「ああいう風に言い訳するのが策なのよ」
いつのまにか俺が魔法の検証に乗じて襲ったことになってる!?
さすがにそれは許されない。
「平川さんが魔法を暴走させようとしたから止めたんじゃないか」
「えー、そんな覚えありませんー」
「覚えがないならなおさら問題だよね!?」
「仲良し」
「「そんなことないよ」」
「……うらやましい」
藤田さんが小さい声で何かをつぶやく。
え、今うらやましいって言わなかった?
「ほら、恨めしいって言われてるよ」
「恨まれるほどのこと!?」
単に聞き間違いだったのか。
でもまずい、仲良さそうに見えたから妹分を取られたように感じたのかも。
「ひ、平川さんとは仲良くないよ」
「む」
「さっきも攻撃されてたし」
「ほほう、攻撃ってこれのこと?」
そう言うと腕を組んできた。
たださっきと違って力が強い、というか強すぎないか!?
「痛たたた!?」
「あ、魔法切り忘れてた」
「だから言ったのに!?」
「てへぺろっ」
「かわいい!?」
陽菜め、なんてことを教えてるんだよ!?
かわいい系の陽菜ならともかく、綺麗系の平川さんがやるとギャップがすごい。
男を一瞬で落とせるレベルのかわいさだったぞ。
「とりあえず魔法解除っと」
「能見君と一緒?」
「あ、そんなことないよ、お姉ちゃんと一緒に行くから」
「わかった」
「じゃあ真琴、また学校でね」
「……また」
「あ、うん、二人ともまたね」
ついさっき腕を組んでいたのに今はもう藤田さんの隣に並んで去っていってしまった。
本当に嵐のような出来事だったな……。
あ、でも藤田さんに分かってもらえたんだろうか?
誤解されたままじゃまずいけど今更追いかける訳にもいかないし……。
まあそこは平川さんが取りなしてくれると信じようか。