カードゲームをプレイする人は大体二つの目的のどちらかもしくは両方でプレイしている。
一つは勝つため、もう一つは楽しむためだ。
「くっそー、また負けた」
「最後の方おしかったね」
ワンパックのデュエルスペースでは大体対戦が行われている。
雑談する人ばかりになると廃れてくるので、対戦が多い現状は素晴らしい。
「あそこでなんでモンスター引かないかなぁ」
「多分デッキの配分がちょっと悪いんじゃないかな」
どうやら幹人が対戦して負けたようだ。
尊は横で見ていたようでいろいろ助言をしている。
「今の流行ならメギドデッキのほうがいいんじゃ?」
「だってあれ回してて面白くないし」
尊の言葉に反論する幹人。
幹人は強いデッキが好きだけどけっこう愛着を持つタイプだ。
それに対して尊はその時の強いデッキにすぐ乗り換える。
見た目のイメージと逆なのが面白い。
「にーちゃんはゼピュロスデッキ以外作んねーの?」
「作るぞ、ただオリジナルで作るから完成度がなぁ」
「オリジナルで作れるなんてすごいです」
「それぐらい誰でも出来るよ」
キラキラとした目で見られるとちょっと恥ずかしいな。
オリジナルで作ってると言っても大会で勝てるレベルまでの出来じゃなくてほとんど趣味のデッキだ。
これぐらいなら誰だって作れるだろう。
「僕はアイディアが浮かばなくて作れないです……」
「いやいや、ほら、このカード使ってみたいなとかあるだろ?」
気に入ったカードがあって、そのカードに合うようなカードを選べばあっという間にデッキの完成だ。
完成度を考えないならすぐにでも出来る。
「あんまりそういうのがなくて……」
「そうなのか……」
顔を沈めて少し落ち込んでいる。
なにか言ってあげたいけど、どうフォローすればいいかわからない。
使いたいカードがないなんてこと一度もなかったからなぁ。
「だから真琴さんすごいです!!」
パッと顔を上げてキラキラした目で見てくる。
尊はかなり美形なので憧れの目で見られると照れるな。
もしショタコンなら一撃で轟沈すると思う。
「完成度がって言うことはもうデッキ作ってある?」
「もちろんあるぞ」
「やった、なら対戦しようぜ!!」
こちらも目をキラキラさせて対戦を挑んできた。
幹人の場合、新しいデッキと対戦するのが楽しみなんだろう。
俺もデッキの試運転をしてみたいし、さっそく対戦の準備をする。
「準備OK」
「早いな」
俺がデッキを探しているうちにもう既に配置が終わっていた。
幹人の召喚士はいつも通りの〘ボレアス〙。
自身のモンスターのレベルを1下げるというシンプルで非常に強力な効果を持っている。
レベル3→2になるだけで通常の道に2体しか配置できなかったのが4体配置出来ると言えば強さが分かるだろう。
まあ戦闘時に即時召喚出来るレベルは変わらないのがつらい所なんだけど。
「俺の召喚士は〘ティターニア〙だ」
「なにそれ」
「へぇー、珍しいですね」
幹人は知らないカードだったようで手にとってテキストを読んでいる。
ネタ寄りのカードなのに尊は知っているのはさすがだな。
「全モンスターに呪文枠二個追加!? めっちゃ強いじゃん!!」
全モンスターに追加効果というのは〘シトリー〙に近いんだけど、あちらは装備枠があるモンスター限定で+1するのに対して〘ティターニア〙は呪文枠を持っていなくても無条件に呪文枠を二つ追加する。
召喚士の効果としては最高峰の強さだけど、実際はほとんど使われることがない。
「よく見て幹人、デッキ構築制限がかなり厳しいんだよ」
「は? レベル8のモンスターしか入れられないって何だよ」
これが問題だ。
レベル8は普通の道の容量限界と同じなので基本一体しか配置できない。
どんなにレベル8モンスターが強くてもしょせん一体では出来ることに限りがある。
大体は弱い部分を突かれて倒されてしまうだろう。
「これって〘抜け道〙で本陣囲ったらどうなるんだ?」
「通れないから何か対策がいるね」
〘抜け道〙は本陣から移動する際にどれだけ離れていてもそこまでワープ出来る道だ。
ワープ出来るのはレベル2までで奇襲用に使うものだけど、幹人が言いたいのはそこじゃない。
道の容量が7であることだ。
普通のデッキであれば容量7というのは別に困らない。
せいぜいレベル4モンスターが二体配置出来ないのが困る程度だ。
だけどティターニアデッキにとっては致命傷。
どのモンスターも通れない壁になってしまう。
難点なのは〘抜け道〙が便利なカードなのでどのデッキにも4枚入っているレベルだ。
そんなものをポンポン置かれたら移動が面倒で仕方ない。
「え、弱っ」
「まあ使いづらいカードではある」
「にーちゃん、本気でこれ使うの?」
「もちろん」
〘ティターニア〙が使いづらいことなんて百も承知。
でもだからといってティターニアデッキが弱いわけではないということを見せてやる。
「じゃんけんぽん……はい俺の勝ちだから先行ね」
「仕方ない」
幹人が先行で対戦スタートだ。
出来れば先攻が欲しかったけどこればかりは仕方がない。
「本陣に〘アルラウネ〙を召喚して、本陣前に〘抜け道〙をセット」
さっそく〘抜け道〙をセットしてきたか。
これであそこは通り抜けられないので遠回りするか道を破壊するかしないといけない。
そして〘アルラウネ〙は面倒だな。
〘アルラウネ〙はレベル3なのに呪文枠が1つあるだけでそれ以外の効果を持たないカード。
それだけだと弱いけどもう一つ特徴がある。
レベルに対してHPが極端に低く攻撃力が極端に高いことだ。
それは普通のカードゲームでは使いづらい特徴だけどカオスフィールドでは非常に強い。
このゲームの戦闘は道単位で行われるため、モンスターが複数いると同時に戦闘になる。
つまり1:2とか3:3とかになるのだけどこの時の戦闘の処理が他のカードゲームと違っている。
まずイニシアチブチェックで勝ったほうが先攻後攻を決める。
攻撃側はモンスターの攻撃力を合算した値をダメージとして与える。
それに対して防御側はどのモンスターからダメージを食らうか選ぶ事が出来る。
例えるなら、玉を投げて何枚の板で止まるか? が近い。
攻撃側が全モンスターの攻撃力を集めた玉を投げて、防御側が何体のHPで防ぎきれるかということだ。
つまりHPと攻撃力のバランスが悪いモンスターでも十分活躍出来る。
「ターン終わり、はい、にーちゃんの番だぜ」
「はいよー」
さて頑張りますか。
初期は地盤を固める所からだな。
「本陣前に〘1on1〙を設置」
「うわ、めんどくさ」
前に尊も使っていたけど〘1on1〙の効果は単純で、それぞれのプレイヤーは一体しかモンスターを配置できない。
レベル的に元々一体しか道に存在できないこのデッキには最適な道になる。
「本陣に〘ちびウォール〙を召喚」
「ちびなのにレベル8なのかよ」
「成長するからな」
〘ちびウォール〙は成長するモンスターだ。
最初は攻撃力のないただの壁だけど、ダメージを受けるとその分攻撃力が強化される。
それがなんと永続強化なのがすごくて、何度も攻撃を喰らえばあっという間にすごい攻撃力になる。
ただ死んだら終わりだし他に特殊能力もないのであっさり倒されることも多い。
「ターンエンド」
「よし俺の番だな」
次のターン。
「〘ちびウォール〙を〘1on1〙に移動」
「めんどくせー」
「本陣に〘終わりをもたらすもの〙を召喚」
召喚したカードを尊が興味深そうに見ている。
店頭ではよく見るけど実戦ではめったに見かけないカードなので気になるんだろう。
「〘終わりをもたらすもの〙って効果も派手だしイラストも綺麗ですね」
「そうだろ、そうだろ、使いたくならないか?」
「ちょっとそんな気がしてきました」
尊が楽しそうにカードの感想を言っているけどまさにその通り。
そんなカードだからこそぜひとも使いたかったんだ。
〘終わりをもたらすもの〙は自分以外のモンスターをHP1にする常動型能力を持っている。
弱らせて自分がトドメを刺すイメージなんだろう。
ただこの瀕死にさせる能力以外は移動力が2あるのと呪文枠が1つあるだけなのであまり強くないんだよな。
そして次のターン。
「〘ダブル〙をセット、そこに〘終わりをもたらすもの〙と〘ちびウォール〙を移動する」
「お、自分からどいてくれるんだ、ラッキー」
〘ダブル〙は容量が16ある道だ。
それ以外に効果はなくそんなに容量があっても使い切れないので無駄カードと言われている。
「ターンエンド」
「じゃあ戦闘仕掛けようかなー」
即時召喚含め4体で〘ダブル〙の道に攻めてきたけど、幹人は俺の行動読めてるかな?
「イニシアチブタイミングで呪文枠5つ使って〘先手必勝〙を使用」
「なにそれ」
「呪文・特殊能力使用不可の殴り合いになる、こっちが確定先行、打ち消し不可」
「なんだよ、その馬鹿みたいな効果!?」
「呪文枠5つだからな?」
これだけの効果にもかかわらずこのカードが使われることはほとんどない。
それぐらいカオスフィールドにおいて呪文枠5つ使用というのは厳しい制限だ。
「〘終わりをもたらすもの〙の効果でHP1になってるから撃破っと」
「ずりい」
「さてそして〘ちびウォール〙がダメージを受けたので攻撃力が上昇」
「は?」
「攻撃力8となってようやく大型モンスターらしい攻撃力に」
「おかしいだろ!? そっちが先に殴ったんだからダメージなんて与えてないのに!?」
「幹人、〘終わりをもたらすもの〙の効果って敵味方問わず効果があるし、HP1にする効果ってダメージ扱いなんだよ」
「けっこうマイナーなカードなのに詳しいな、尊」
「ルールとしては知っていますから」
たしかにジャッジ試験とかでその辺りの問題が出てくることがある。
特殊な処理ほど覚えないといけないんだよな。
「さあまだまだ成長するぞ」
とはいえ攻撃力が高くなっても基本は特殊能力のないモンスター。
〘1on1〙に戻って本陣までの道を塞ぐ壁として頑張ってもらおう。
数ターン後。
「本陣に〘女帝ミンク〙を召喚」
「何々、げ、装備枠とか呪文枠含めたモンスターの特殊効果がなくなる常在効果って面倒じゃん」
「すごい……よく考えられてる」
「お、尊は分かるのか」
「はい」
「そりゃ強い効果なんだから誰でも分かるに決まってるだろ」
幹人の方は素直にカード単体の強さを見ているけど尊の方はデッキとしての強さを見ている。
〘女帝ミンク〙と〘ティターニア〙のシナジーはすごいんだぞ。
「つまり素殴り勝負なんだからHPと攻撃力で上回れば勝ちなだけだな」
「うんうん、どうなるか楽しみだよな」
見事に勘違いしているのでこれは楽しみだ。
ぜひとも幹人をあっと言わせたい。
数ターン後。
「ようやく〘女帝ミンク〙が〘1on1〙から出てきた」
「引きこもっても勝てないからな」
頑張って迂回路を作って進軍していた幹人のモンスターたちに攻撃をしかける。
ただ幹人としても攻撃されるのは歓迎なようだ。
即時召喚でHPの高いモンスターを召喚してきた。
現状だと先攻を取ればある程度のモンスターは倒せるけど反撃でやられてしまうぐらいの合計HPとなる。
もちろん後攻なら確定で負ける。
「せっかくの強モンスターだけど俺のデッキとは相性悪かったね」
自身のモンスターのレベルが下がる幹人のデッキは道でのHP・攻撃力の総合値が高くなりやすい。
そういう意味では〘女帝ミンク〙と相性が悪いのはたしかだ。
ただ今回の戦闘なら勝てる可能性は高い。
「イニシアチブタイミングで呪文枠を二つ使って〘荒れ狂う炎〙、確定先攻+そっちのモンスターに1ダメージね」
「は!? 呪文枠なくなってるのにどうやって呪文使うんだよ!?」
幹人が怒り出したけど尊はいたって平然としている。
やっぱり理解していたか。
「〘女帝ミンク〙の効果はモンスターのテキストに書かれた内容を無効化するだけで召喚士の効果は無効にしない」
「は?」
「上に乗ってるときだけ特殊効果が得られる道とかを無効にしないだろ?」
「え、でも……尊、ほんとか!?」
「真琴さんの言う通りだね」
もし召喚士の効果にも影響するなら〘ボレアス〙のレベル1下げる効果もなくなってしまう。
だから召喚枠が消えなくても当たり前だと言える。
「つまり俺は呪文を使えるが幹人は使えないってことだ」
「っ!?」
おそらく打消し呪文なりダメージ軽減呪文なりを持っていたのだろうけど呪文枠がなくなっているからどうしようもない。
一方的に殴って全滅させることが出来た。
「勝てるわけねー!?」
「そうでもないよ、ただ幹人のデッキだと……」
まあ〘女帝ミンク〙は強いんだけど儀式呪文で直接除去されたら終わりだしそうそう手札に補助呪文が来るわけでもない。
呪文枠があった所で使える魔法がなければ宝の持ち腐れだからな。
・・・
10ターン後。
「負けました」
「やった、勝った!!」
俺が負けを宣言すると、幹人が立ち上がって喜んだ。
こらこら、挨拶せずに立ち上がるのはマナー悪いぞ。
「ギリギリだったね」
「ちげーし、余裕だったし」
尊からの言葉に強がる幹人。
実際もう少しで勝てそうだったんだけど肝心なところで息切れしてしまった。
その隙を突かれてあっという間に逆転。
「にーちゃんはモンスター少なすぎなんだよ」
「分かってはいるんだけど増やすとそれはそれでなぁ」
戦闘になった時に呪文や装備がないと勝ち目がない。
相手が戦闘を仕掛けてくるということは勝つ見込みがあるからだ。
普通のデッキならモンスターを即時召喚するとかで見込みを覆すことも出来るけど、このデッキでは無理。
だからどうしてもモンスターの数は減らすことになる。
かといってモンスターを減らすと今回のように倒され続けると息切れしてしまう。
「課題は分かるんですけど改善って難しいですよね」
「そうなんだよ、改善しようと思っていじったら悪化したりするしな」
こういうのは全体を見る能力が大事になってくる。
ただつい目先の改善に釣られてしまうんだよな。
「尊はどうしてるんだ?」
「僕はお姉ちゃんに改善点伝えてるだけなので……」
ちょっと申し訳なさそうな顔で答える尊。
それで上手くいくってお姉ちゃんすごいな。
「ねーちゃんはすごいからな」
「なぜ幹人が誇るのかこれが分からない」
相変わらずドヤ顔で尊のお姉ちゃんを褒め称えている。
よっぽど大好きなんだろうな。
「でも本当にすごいから一度会って話したいもんだけどな」
「あ、いいですね、でもお姉ちゃんは忙しいからいつ帰ってくるかが……」
「そうなのか」
無理を言っても仕方ないし、そもそも会ってもカオスフィールドの話ぐらいしか出来ないだろう。
しかもデッキ構築上手らしいし俺のデッキ構築理論なんてお子様のようにしか思われなさそうだ。
「にーちゃん、他にもデッキないの?」
「あるぞ」
「なら対戦しようぜー」
「あ、僕も対戦したいのに」
「早いものがちー」
「こらこら、尊が先な」
「えー」
まあ機会があれば会うこともあるだろう。
でもまさかあんな出会い方をするとは想像もしてなかった……。