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46.レアカード

「よし、頑張ったご褒美にパックおごってやろう、こういう時に欲しいカードが引けたらいいのにな」

「まじで!?」

「まじまじ」

「やった!!」


 落ち込んでいたのが一転して大喜びだ。

 素直に喜ぶ姿はかわいいな。

 弟がいたらきっとこんな気分だったんだろう。

 あ、尊がちょっと悲しそうな顔で見てる。


「もちろん尊も買ってあげるぞ」

「え、でも……」

「友達のために謝れる子は素晴らしいからな」


 それを聞いて目を輝かせる尊。

 お姉さんがかわいがるのもよく分かる。

 尊の方を見ていた間に幹人の方はパックを選び終えたようだ。


「よし、ファーストエキスパンションにしよ」

「だああああ、何でもいいとは言ってないぞ!?」

「仕方ない、じゃあセカンドエキスパンションで我慢しとく」

「高価なのは一緒や!?」


 ナチュラルに超絶高価なパックを指定しおってからに。

 1パックで新エキスパンションが十箱買えるわ。


「ぼ、僕はパワーカインドで」

「尊は逆にもう少し欲出そうな」


 パワーカインドは定価が安くて枚数が少ない特殊なパック。

 一応高価なカードもいくつかあるんだけど期待値は低い。

 遠慮がまったくない幹人と遠慮しすぎる尊、足して2で割ればちょうどよさそうだ。


「はい、二人とも新エキスパンションのパックで決定」

「えー」

「いいんですか?」

「決定って言ったら決定」


 ややこしくなる前にこうしてしまえばよかった。

 俺の分も合わせてパック一箱+2パックを購入。


「すげー、箱買い羨ましい」

「いいなぁ」

「ふはははー、お小遣いを残しておいたのだ」


 箱買いはみんなの憧れなので一度はやってみたいと思うんだよな。

 ただ実際にやると途中で開封に飽きてくるんだけど。


「狙ったカードが引ける魔法ってないのかな?」

「ばっか、そんなんあったらカードの価値下がるだろ」


 幹人は否定したけど実際にそういう魔法は存在する。

 ただパックを触らないと効果がないんだよな。

 昔ならともかく今はパックに触ったら購入しないといけないので魔法を使う意味がない。


「パック開封は帰ってからのお楽しみにしておけよ」

「えー、いいじゃん」

「駄目だ、楽しみは最後まで取っておくもんだぞ」


 高価なカード引いて変なやつに絡まれても嫌だしな。

 家で落ち着いて開封してもらったほうがいい。


「おー、〘鋼の王オストル〙だ」

「なんも話聞いちゃいねぇな!?」


 そう言ったのに速攻でパックを破いて中を確認している幹人。

 小学生に自重と言う言葉は存在しなかったようだ。


「効果的には当たりっぽい」

「大当たりだと思うぞ」

「ドヤァ」


 嬉しそうな幹人を見て尊が俺の顔とパックを見比べている。

 きっと開封したいけど怒られると思っているんだろうな。


「仕方ない、尊も開けていいよ」

「いいの?」

「幹人は開けちゃったし」


 そう言われて嬉しそうに開封する尊と横で覗く幹人。

 まあたしかにみんなで確認するの楽しいよな。


「コ、〘コアトル〙のFoil!?」

「はぁ!?」

「は?」

「なにぃ!?」


 尊の驚いた声に俺だけでなく周りの人も反応した。

 〘コアトル〙は事前人気No.1のカード。

 効果が優秀なだけでなくイラストも綺麗なのでかなりの高値がつくと予想されていた。

 事実ワンパックでは現在5000円で買取されている。

 それがFoil、つまり箔押しされているカードは価格が跳ね上がるので普通に考えて数万円買取も視野に入るだろう。


「ど、ど、どうしよう、幹人!?」

「落ち着け、落ち着こう、スーハースーハー」

「スーハースーハー」


 スーハーと言っても深呼吸にはならないぞ。

 二人とも動揺しすぎて挙動がおかしくなってるな。


「とりあえずそれは仕舞おう」

「は、はい」


 尊は手が震えながらもなんとかパックに戻して鞄に入れた。

 横で見ている幹人も緊張で動けないようだ。


 うーん、まさか本当に高額カードを引いてしまうとは。

 本当なら俺ももっと驚くんだけど尊と幹人が驚きすぎてるから逆に冷静になってしまった。

 ただ店中の人に知れ渡ったのはまずい。

 数百円程度なら何もしないだろうけど数万円となれば暴力で脅してくる人間がいてもおかしくない。


「尊、家は近い?」

「え、あ、自転車で来てるので結構距離があります」

「俺たち隣町なんだ」

「そうなのか……」


 てっきり徒歩だと思ってたら自転車だったらしい。

 でもそれならかえって好都合か、一度走り出したらまず追いつけない。


「今日はもう家に帰った方がいい」

「え、でも……」

「大事なカードは家に置いといた方がいいよ」


 変なのに絡まれる可能性は少しでも減らしたいと思って言ったけどいまいち反応が鈍い。

 二人で相談してるし何か気になることでもあるのかな?


「家まで一緒に来てくれませんか?」

「え、いや、俺がいても役に立たないし」


 なぜか俺に着いてきてほしいと言われてしまった。

 翔ならともかくひ弱な俺がついていっても何の役にも立たないし、それに箱買いしたパックも持ってるから邪魔にしかならない。


「そんなことないです、いてほしいです」


 素直な目でそんなことを言われたらお兄ちゃん心をくすぐられてしまう。

 たしかにパック買ったしこれ以上用事があるわけじゃないしなぁ。


「いざと言う時はにーちゃんを弾除けにするから」


 幹人は軽口を言っているけど若干声が震えてる。

 やっぱり不安があるみたいだしついていってあげるか。


「わかった、ついていくよ」

「やった!!」

「そうと決まればすぐに動こうか」

「はい!!」


 うんうん、よい返事だ。

 きっとお姉ちゃんに鍛えられてるんだろうな。

 とりあえず帰るなら早い方がいいし、さっさと帰ろう。

 と言ってもまずはデッキを片付けてから……ってもういない!?


「にーちゃん、こっちだよ」

「行動が早いな」

「すぐに動けって言ったの、にーちゃんだろ」

「悪い悪い」


 不満そうな顔で答える幹人。

 急かした俺が遅れてちゃ世話ないな。

 急いでデッキを片付けて二人の元に行く。


「けっこう良い自転車だな」

「そうなんですか?」

「普通じゃないの?」


 二人の自転車はそこらのホームセンターで売ってるような自転車じゃなくちゃんとした自転車屋で購入したものだ。

 もしかしてけっこうお金持ちの家なんだろうか?


「まあいいか」


 そう言って辺りを少し見回す。

 とりあえず自転車に乗っている人はいないな。

 今なら監視カメラの範囲に入ってるから襲ってきたとしても犯人の姿は映るし大丈夫だろう。


「よし、道案内頼む」

「はい!!」


 元気にこぎ始めた二人の後を追っていく。

 まあ小学生なので大した速度は出しておらず、全然無理なくついていけた。


「ここが家です」


 実は馬鹿でかい家とかの展開に期待したけど普通の一軒家だった。

 まあ現実は漫画みたいにいかないよな。


「どうかしました?」

「いや、めっちゃバカでかい家とかだったら面白いなって思ってたから」

「あ、それなら幹人の家がそうですよ」

「え?」

「あんなのただデカいだけ」


 尊の言葉を幹人は否定せず、むしろ広いことへの不満を語っている。

 え、冗談のつもりで言ったんだけど本当に広いの?


「行ってみます?」

「やめろよー」

「えー、だって真琴さん興味ありそうだよ?」

「そうなの?」

「正直ちょっと興味ある」


 大きい家って憧れるから是非見てみたい。

 広い応接室とか長い廊下ってワクワクするよな。


「……今度でいいなら」

「楽しみにしてる」

「じゃあそろそろ僕は家に戻りますね」

「俺も帰る、じゃあなー」

「しばらくは周りに気を付けろよ」

「分かりました」

「にーちゃんこそ箱狩りに会うなよ」

「なんだよ箱狩りって」


 とりあえずここでお別れだ。

 家に入るのを最後まで見届けて俺も家路につく。


 この時に軽く言った「ちょっと興味ある」がまさかあんなことになるとは……。


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