「またこの夢……」
まだ薄暗い中、
玄奘は何度目か前の生の記憶を、たまにこうして夢に見ることがある。
最近では『馮雪』だった頃の記憶をよく夢に見る。
「沙和尚……」
夢によく出てくる天将の名も、もうすっかり覚えてしまった。
本当の名ではないのはわかるが、その名をつぶやくと不思議と力が湧いてくるのは、『馮雪』だった時に何度も彼に励まされたからだろう。
「んー……とりあえず起きよう……」
うんと伸びをして、玄奘は寝台から降りた。
お勤めのために玄奘は身支度を整え、法服に身を包む。
玄奘は今、
時の皇帝、
何でも太宗は死に戻りを経験したらしく、それ以来冥界で助けてくれた亡者たちのために
実は今回の法会は玄奘の師僧がやる予定だったが、高齢の師は化生寺に着いた途端腰を悪くしてしまい、
大役をまだ
「これも全て、
玄奘は香と水を供えると、手を合わせて
観音像に供えたのは最上級の香、
その
「えっ?」
玄奘がいつものように、いや、いつも以上に集中して経を
何が起きているのだろうか。
朝日が差し込んでいる?と窓を振り返るも、外はまだ薄暗い。
「えっ?」
玄奘はもう一度観音菩薩像をみる。
やはり観音像自体が輝いているようだ。
「え?なに、どういうこと?」
玄奘は混乱して逗子の戸を開けたり閉めたりしてみた。
閉めるとやはり扉の内側から光がもれてきて、玄奘は逗子の内側を下から
「驚かせてしまいましたか?」
「ひぇっ!」
不思議な声がして、玄奘は驚き尻餅をついた。
やがてその光が収まるとそこには、見たことのない長身の青年がいた。
「な……な、なんですか、あなたは」
青年は観音像と同じ衣装をきて、
その眼差しは優しく、見慣れた観音菩薩像のそれと同じだ。