「
極楽浄土にある池の傍で岩に腰掛け、鏡のように静かな水面を眺める金蟬子を見つけた観音菩薩は声をかけた。
その金蟬子は観音菩薩に気がつくと、きまりが悪そうな顔をして岩から降りた。
そして顎のあたりまで伸びた柔らかな髪を揺らし、金蟬子は観音菩薩の元へ駆けだす。
まだ幼い幼児姿の金蟬子がまとう衣服は、
その幼い見た目に反して、金蟬子は観音菩薩に次ぐ釈迦如来の
今日のように釈迦如来の説法をきかずにサボることが多いので、なかなか菩薩として認められないのだ。
「だって釈迦如来様の説法聞いてるだけじゃ誰も救えないじゃないですか」
近くに駆け寄り見上げて言う金蟬子の頭を撫でて、観音菩薩は微笑んだ。
「
金蟬子が覗き込んでいた池は、望めば人の世界を見せてくれる池だ。
彼は人の世界を知ろうと
「はやる気持ちはわかりますが、あなた自身が釈迦如来の意を理解できなければ誰も救えないのですよ」
「そうは言っても……釈迦如来様のお声が気持ち良すぎて眠くなっちゃうんです。
金蟬子の無邪気な問いに、観音菩薩は考え込むように上を向いた。
だが、観音菩薩はすぐに金蟬子に視線を戻して言う。
とても真面目な顔で。
「いや、如来の説法はそもそも眠くなりませんからね」
「それが金蟬子にはできないから聞いているのですが……」
金蟬子はじっとりと観音菩薩を見て言う。
観音菩薩は苦笑いをして金蟬子と目線を合わせるよう
「あなたは
金蟬子がいろいろな
経典の中で語られていること、釈迦如来が人であった時に何を体験しどう思ったのか。
それを知りたい金蟬子が
「だって釈迦如来様も観音師兄も他の皆さまも、元は
観音菩薩はどう声をかけたらいいか分からずにいたが、そこへ
「金蟬子」
「釈迦如来様!」
釈迦如来はふっくらした優しい
「あなたのその考えは素晴らしい。ぜひそのようにしてみなさい」
釈迦如来の言葉に観音菩薩は驚いた。
「では金蟬子を人の世界へ……よろしいのですか?」
観音菩薩の問いかけに釈迦如来は
「この子は私の説法を聞くよりも、その身で実際に経験する方が合っているようです。さあ金蟬子よ、再びここへ戻る時のために衆生の中でたくさん学んできなさい」
「釈迦如来様……ハイっ!」
「釈迦如来様、人の世界は
金蟬子を不安げに見つめて言う観音菩薩に、釈迦如来は微笑み頷いた。
「金蟬子なら大丈夫。いつか、きっと
「……」
観音菩薩はまだ少し心配だったが、それもまた彼の学びと思い、笑顔で顔を上げた。
「行っておいで、金蟬子。この
「ありがとうございます!では行ってきます、釈迦如来様、
こうして金蟬子は池へ飛び込み人に転生したのだった。