小枝と細い
傷も癒え、とにかく周りの状況を確認したかったからだ。
食糧になるものはあるのか、火種になりそうなものはどうか。
水だけはふんだんにあるのは幸いなことだが、水だけで生き延びるのは難しい。
そして流沙河は思っていたよりも大きく、あたりは冷え込みが厳しい場所だった。
そのため木の実などは少なく、獣も鳥も多くない。
まだしばらくは青鸞の料理があるから
だだっ
あまり大きな魚がいないのが残念だが、それでも食糧のひとつにはなるし、何より釣りができるのは良い気分転換にもなるだろう。
「餌はどうしたものか……」
河原の石をいくつか退けると虫が出てきたので、小骨で作った針に刺して川に投げ込む。
「ふふ……っ」
馮雪との出会いを思い出し、河伯から思わず笑いがこぼれた。
餌をつけ忘れているのを教えてくれた馮雪。
久々に夢で見たからか、一人で釣りをしていてもそばに彼がいるようにも感じられる。
「……またあなたと釣りがしたいものだ」
あの時渡したヌシ級の大物は、結局村が燃やされて食べてもらえなかった。
河伯はあの
「
竿が揺れ、クイと糸代わりの蔓を引っ張る感触。
すぐは引かない。駆け引きをするのだ。
引かれるがままにして、魚の油断をさそう。
(この簡易的な釣り道具がもつかどうか……)
細い蔓がちぎれるか、小枝が折れるか。
あまり強度のない道具だから長くは遊んでいられない。
(……今だ!)
気合を入れて引く。
力強い感触に竿を握る手にも力が入る。
ミシ、と枝がしなり音を立てた。
「うぉおおおお!」
力一杯引くと、ようやく水から何かが上がった。
勢いよく水面から姿を現したそれは、身の引き締まった川魚──ではなく。
「誰だ、全く!河にゴミを投げ入れたのは!!」
誰かの脱ぎ捨てたボロボロの草履だった。
その後、河伯は数匹の魚を釣ったのだが、どれも小さかったため逃してやった。
河伯を嘲笑うように水中で悠々とおよぐ魚の影を見て、河伯は肩を落とした。
「腕が落ちたか……」
馮雪を失ってからはどうも釣りをする気になれなかったのだ。
住処に戻り釣竿を立てかけると、河伯は頭蓋のそばに座る。
外出してからの日課だ。
「ただいま、みんな。今日は久しぶりに釣りをしたんだ」
こんもりとした枯葉の山にのる、九連の頭蓋は何も答えない。
だが河伯は気にせず言葉を続ける。
「なかなかの大物かと思ったんだが、釣れたのは草履だったんだよ。おかしいだろ?」
クスクスと返事がない頭蓋たちに向かって話す。
「まったく、魚とそうでないものを見極められぬとは……俺の腕も落ちたものだな」
そう呟いて河伯は笑う。
下界へ落ちたものの、河伯は実に緩やかで有意義な時を過ごしているのだった。
「青鸞……いまどうしているだろうか……」
そんなことを考えながら、河伯は頭蓋の手入れを始めたのだった。